ヤプリ

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インサイドセールスとともに挑む、放置されていたリードの再育成

ヤプリは、企業向けにスマホアプリの開発環境を提供するソフトウェア企業。アプリ開発から運用、分析まで、アプリに関するすべてのサービスをワンストップで提供する。顧客はECサイトを運営する小売企業など、BtoCサービスの企業が中心だが、最近ではBtoB向けに取引先や販売店などへの情報伝達として使うアプリの開発なども増えている。

同社のサービスの特長は、エンジニアなどがプログラムを書くことなくアプリを開発できる「ノーコード」のプラットフォームであることだ。プログラムの知識がない人でも簡単に本格的なアプリの開発と運用ができる。その簡便さが評価され、すでに450社以上の企業が採用。業績は急速に拡大し、ヤプリは2020年12月に株式上場を果たしている。

そんな業容拡大に伴い、同社では顧客獲得が重要な課題となっていた。当時の同社のマーケティング活動は、広告媒体への出稿や、イベント、展示会、オンラインセミナーなどで取得したアドレス宛にメール配信を行い、反応があった見込み顧客(リード)に対して、インサイドセールス部門が電話やメールによる営業を行うといった形で、顧客を増やしていた。

だが、インサイドセールスがアプローチするのは、マーケティング部門から送られてくる新規のリードだけを対象にしており、受注につなげるための営業プロセス(ナーチャリング)の途中で離脱したリードは、そのまま放置されていた。

同社でマーケティングを担当する、マス&オンラインマーケティング部 兼アナリティクス&テクノロジー室の遠藤実咲氏は、「企業として事業規模が大きくなるにつれて、受注目標も拡大していきました。当時、受注に至らなかったリードは、それっきりの状態で放置されていたため、ひたすら新規のリードをインサイドセールスに供給し続けなければいけない状態でした」と語る。

遠藤実咲氏

ハウスリードの再育成に着手

目標達成のために必要な新規リード数は、日増しに増えていき、広告出稿も増やす必要があった。そのためマーケティング部門のメンバーは、次第に新規リードの獲得に追われるようになり、疲れが見えていたという。

「新規リードだけで受注を増やしていくのは厳しい」と遠藤氏は感じ始めていた。そこで、受注に至らず、社内に放置されてきた大量のリード(ハウスリード)を再育成したいと考えるようになった。

インサイドセールス部門でも同様に、リードから受注までのプロセスを改善したいと考えていた。当時からMA(マーケティングオートメーション)ツールは導入されており、マーケティング部門から送られてくる新規リードには、メールに入れたリンクをクリックしたりwebサイトへのアクセスがある場合にスコアが加算されるなど、一見インサイドセールスがアプローチしやすい情報が追加されているように見えていた。

だが実際は、顧客管理に利用していたSalesforceとの連携ができていなかったため、リードの精査に手間がかかっていたという。リードを精査してみると、実はすでに商談が設定されていたり、直近で商談を断られていたり、あるいはすでに受注済みだったり、というようにその精査に時間が取られるだけでなく、架電対象のリードが思ったより少ないという状況だった。

インサイドセールス部門のマネージャーである神田静麻氏は、次のように語る。

「Marketo Engageを導入する前は、webサイトへのアクセスやメルマガの閲覧など、リードの具体的な動きが分かりませんでした。架電すべき優先順位を付けられておらず、インサイドセールスは自分たちの勘を頼りに、誰に電話するかを決めている状態だったのです。不確実な情報で電話をするため、核心に触れる会話ができず、どうしても"守り"に入ったトークになりがちでした」

神田静麻氏

「従来使用していたMAツールでは、Salesforceとの連携ができなかったため、既存商談の有無や既存顧客かどうかを都度Salesforceで確認する必要がありました。また、インサイドセールスの担当を自動的にアサインできなかったことで、お客様とのコミュニケーション以外の業務に大きな時間を割かれてしまうという問題もありました」(神田氏)

そのため同社では、新たなMAツールを導入し、マーケティングとインサイドセールスのさらなる連携強化を図ることを決めた。

MAツールの選定を開始したのは18年。検討にあたっては、他のSaaSベンダーのマーケターから情報を収集するなど、自分たちのネットワークをフルに活用した。選ぶ基準は、ハウスリードの再育成が効率よくできること、Salesforceとの連携ができることを必須条件として、いくつかのMAツールの中から検討した。

リードデータの統合で業務が大幅に効率化

検討の結果、Salesforceとの連携がしやすく、同業内での信頼の厚さなどを考慮してMarketo Engageを選定。導入はスムーズに進み、導入開始からわずか半年足らずで、放置されていたハウスリードをナーチャリングし商談作成までできるプロセスを実現した。

Marketo Engageの導入に際して、まず、これまで社内に埋没していたリードデータの名寄せなど、整理を行った。また、マーケティング部門には、イベントで参加者が登録する個人情報や、Sansanの名刺情報、広告会社からのリードなど様々な情報が集まってくる。これらのデータを収集する業務を標準化し、Marketo Engageに効率よく集めることで、リード育成の土台を作った。

また、これまでマーケティング部門は、インサイドセールスにリードを渡す際に、ヤプリを導入する可能性が高い企業に「有効リード」のマークを手作業で付けていた。有効リードの基準は、従業員数が一定数以上で、自社の基準で選んだアプリとの相性がいい業種だったが、それは人が都度設定していたのだ。

その設定も、Marketo Engageで自動化することができた。リードをMarketo Engageに登録すると、企業情報データベースの「FORCAS」とのAPI連携によって、業種と企業規模を判定、条件を満たす場合に有効リードのフラグを立てる仕組みを作った。

また、スコアの付け方も見直した。従来は一度メールのリンクに反応したりwebサイトを訪問したリードは、そのスコアが一定のレベルに届くまではずっと維持されていたが、Marketo Engage導入後は、ある程度時間が経ったらそのスコアはリセットされるようにした。

「"いい行動"をした人も、時間が経つと旬を逃してしまいます。それよりも、行動を起こした直後にインサイドセールスに渡せる方が有効だと考えました」(遠藤氏)

リードのスコアをAIが勝手に付けてしまうMAツールも多い中、自社の運用に合ったスコア設定がカスタマイズできるところも、Marketo Engageの利点だと遠藤氏は言う。

インサイドセールス側も、Marketo Engageの自動化には助けられたという。「今までは、イベントで得られたリードがインポートされた後、目検で架電するかを精査していたため、どんなに粗いチェックだとしても丸1日は作業にかかっていました。それがMarketo Engageを活用してからは、自動的にデータを取り込んで判定してくれるので、イベントの当日には架電できるようになりました。とても感動したのを覚えています」(神田氏)。

さらにインサイドセールスにとっては、リードの担当者への割り振りを自動化できたことも、非常に効果があったという。

「従来は、単純にリストの上から担当者を割り当てていたため、1件ごとに、どういう顧客なのか探りながらのアプローチでした。それがMarketo Engageによって、顧客の企業、業界などの情報を基に、実績がある担当者を直接指名できるようになりました。自分たちがあたるべき先が自動的に決まっているので、とても楽になりました」(神田氏)

ユーザー会の情報が大きな助けに

Marketo Engageの導入にあたっては、ユーザー会の存在も心強かったと遠藤氏は言う。「分からないことや、他社がどんな風に活用しているかなど、何でも聞くことができたので、とても有意義でした。実際に取り組んでいる現場の方から話を聞くことは勉強になりますし、自社の活用レベルが分かり、次にすべきことも見えてきました」。

同社のインサイドセールス部門で、Marketo Engageのエキスパートである小林洋介氏は、ユーザー会のインサイドセールスの分科会である「TELKETO(テルケト)」の主要メンバーでもある。「インサイドセールスにおけるMarketo Engageのノウハウや、事例紹介などを共有する場として活動しています。メンバーは総勢30名ほどです。現在の会合はオンラインですが、月に一度のペースで開催し、毎回10名ほどが参加しています」。こうしたユーザー会の活動が活発なことも、Marketo Engageの強みである。

小林洋介氏

マーケティングとインサイドセールスの一体運営による数値的な効果もしっかり出ている。リードのナーチャリングによる全商談件数は約3.2倍、ナーチャリングからの商談率が約2.7倍に改善。その結果、全体の商談獲得件数も約1.8倍に向上した。

「Marketo Engage導入前は、リードの再育成がゼロだったので、商談件数の増加は、ほぼすべてMarketo Engageによる効果と言っていいと思います。広告費を増やさずに、商談を2倍近くに増やせたのは大きな導入効果です。今後は広告費をさらに増やすことで、売上目標が高くなっても達成できる目途が立ちました」と遠藤氏。

目標に追われる状況だったマーケティング部が、余裕を持ってリードをコントロールできる状態に変わった。

インサイドセールス担当から積極的にメール配信

同社では、マーケティング部門からのメールだけでなく、インサイドセールス部門からもリードに対して積極的にメールを送っている。そのために活用しているツールが「Marketo Sales Connect(MSC)」だ。神田氏は、MSCの活用について次のように話す。

「マーケティング部門が送るメールは、セミナー参加者に対してのお礼や、追加情報のリンクなどの内容ですが、インサイドセールスからのメールは、より積極的に商談につなげるための施策になります」

MSCの導入は19年末。その後20年のコロナ禍では、さらに顧客の関心に合わせた内容で送れるようにした。あらかじめメールのテンプレートを用意しておき、企業ごとに課題が似ている業界の事例に差し替えることで、カスタマイズと効率化の両立を図っている。

顧客の状況に合わせて、メールと電話の使い分けと優先順位を明確に分けることで、インサイドセールスの効率が上がり、それが成果にも表れている。インサイドセールス部門では、全体の案件数のうち6割がメールによる獲得で、すでに電話を上回っているというから驚異的だ。

今後について、遠藤氏は次のように話す。「さらに精度を上げていきたいと考えています。特に、企業の社内向けアプリのマーケティングは、まだ基本施策が固まっていない状況なので、そこにも力を入れていきたいです」。

また神田氏は、「Marketo EngageとMSCの組み合わせで、うまく回り出していると思います。今後は"鉄板テンプレ"とも呼べるテンプレートの強化と、セールス側でも顧客のナーチャリングを強化していきます。さらに、過去に失注した顧客への再アプローチなど、成果を上げるために貪欲に取り組んでいきたいと考えています」と語る。

マーケティング部門、インサイドセールス部門共に、ツールが整備されたことで、顧客への対応の中身を濃くしていく段階に入った。ヤプリの快進撃はこれからも続きそうだ。

遠藤実咲氏・神田静麻氏・小林洋介氏

取材日: 2021年2月24日

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