ナースステージ

ナースステージ

マーケティング未経験から挑んだ転職サービスの会員獲得

株式会社ナースステージは、大手通販企業である株式会社 ベルーナのグループ企業で、看護師専門の通販事業を行っている。「アンファミエ」「ナースリー」の2つのブランドから通信販売を行い、アクティブ会員数は合計で約187万人。全国の多くの看護師からの支持を集めている。

同社ではこの登録会員のデータを活用した新事業として、看護師の転職紹介サービス「ナースキャリアネクスト」を立ち上げた。担当したのは、これまで営業畑一筋を歩んできた並木純一氏。サービス開始当初は、膨大な看護師のデータベースを生かし切れず、転職サービスへ誘導することができずにいた。だがMarketo Engageと出会い、使いこなすことでサービスの登録者数は5倍ほどに拡大したという。同社はいかにして事業を軌道に乗せたのか。その詳細を聞いた。

免許の取得から始まった新事業開発

2017年10月に事業計画が会社に承認された後は、事務所の開設から人材紹介事業の免許取得まで、全てを並木氏1人で立ち上げた。そこから営業担当2名を採用し、本社からの出向者と合わせて計4名で事業を始めた。

転職サービスは、求人側(病院)の情報と、応募側(看護師)をマッチングさせるビジネスだ。まず、看護人材を募集する病院には、もともと看護師向けの通販カタログを毎月送っていたため、購買担当者などとのつながりがあった。そこから採用担当者を紹介してもらうことで求人情報を集めた。並木氏は、「病院側は人材不足が常に課題だったので、新しいサービスができることは歓迎してくれました」と語る。病院を回れば回るほど、求人情報は順調に集まり始めた。

「データがあれば獲得できる」は甘かった

求人情報はそれなりに揃えることができた。後はそこへ、自社が持っている看護師のデータベースから人材を送り込めば、転職サービスが成立すると、並木氏は当初予想していた。

ところが、これが現実とは異なった。看護師用品の買い物に来ている会員に対して、いくら「転職情報です」とアピールしても、反応が非常に少なかったのだ。並木氏は「当たり前のことですが、会員は当社からのメールは買い物情報だと思うに決まっています。そこに転職情報のご案内を入れても、スルーされるだけでした」と語る。

一から戦略の見直しが求められた。まずは、ナースステージが転職サービスもやっているということを、通販会員に知ってもらう必要があったものの、その手掛かりがなかった。

「転職は一人ひとりニーズが異なりますから、通販のようにマスマーケティングが通用しません。また通販ではいわゆるアップセル、クロスセルで客単価を上げますが、転職は、1回のプロセスをいかに細かく進めていくかが重要です。このような知見が、社内には足りていませんでした」(並木氏)

18年4月から事業を開始したものの、通販会員からの登録は遅々として進まなかった。

Marketo Engageの選定理由

これまでと違う世界で、新しい方法を模索していた並木氏は、メール配信システムやマーケティングツールを探す中で、Marketo Engageというツールのことを耳に挟んだ。

「このとき初めて、MA(マーケティングオートメーション)の存在を知りました。従来のメールシステムは一斉配信しかできず、変えなければいけないという認識はあったので、MAのことを必死で勉強し始めました」(並木氏)

並木氏は、Marketo Engageの動画コンテンツも観て、そこでは、ツールの機能ではなく、消費者の行動変容などの概念が紹介されており、目からうろこの思いをしたという。

そうしてMAの導入を決意した並木氏は、Marketo Engageを含め、いくつかのツールも検討していく。

「勉強していくうちに、やりたいことがはっきりしてきました。例えばメールを出し分けるときに、都度セグメントを切らずに送りたいとか、会員の気持ちが転職に前向きになったときに、それをいち早く察知したい、などの要求が出てきました」(並木氏)

それらを含め、やりたいことをリストアップすると30項目にも及んだ。並木氏はそれを書き留め、全部で8種類ほどのMAツールの対応を調べて一覧表を作った。「チェックしていくと、いろいろな機能を満たすものはBtoB向けのマーケティングツールに絞られました。その中で、転職のような長期にわたる取り組みができるのは、Marketo Engageだけでした。また、SaaSで導入が低コストだったことも魅力でした」。

転職潜在会員へのアプローチが決め手に

Marketo Engage導入は18年の6月。並木氏は3カ月間の導入研修で、「3カ月後には全て自動化できるようにしたい」と通常より高い目標を設定して臨んだ。「毎週多くの課題が出ましたが、なんとか乗り切りました。課題といっても、学習のためだけのプログラムではなく、実際に業務で使うためのプログラムを、コンサルさんのサポートを受けながら作っていきました」。

できあがったエンゲージメントプログラムの基本パターンは、大きく分けると「潜在層」(転職サービスに未登録の通販会員)向け、「顕在層」向けの2つがある。顕在層とは転職サービスに登録した会員で、営業から直接連絡をするなど、転職情報の紹介を本格的に進める対象だ。また、そこに至らない潜在層は、さらに細かく「COLD」「WARM」「HOT」という3階層に分けている。

「転職の意向が全くないCOLD層に対しては、無理に転職情報を送りつけても嫌がられるので、通常の通販サイトの情報に混ぜる形で、仕事にまつわるライトな読み物を送っています」(並木氏)

公開している仕事情報のコンテンツには、Marketo Engageのタグを実装し、ユーザーが何を読んでいるかも計測できるようにした。よく読んでいる人は、WARM層に移行させ、具体的な求人情報を少しずつ送るようにする。さらに、それを読む時間帯や頻度を見て、関心が高いと判断した人をHOT層に移し、アプローチを強める。

「ブログやメルマガなどのコンテンツは、私が基本的な方向性を打ち出し、チームで制作して配信しています。営業部からのフィードバックもコンテンツに生かして、その反応の確認を繰り返しています。現場を一番知っているのは営業部なので、その声をコンテンツに生かしています」(並木氏)

そして、転職への意識がさらに高まった人は、転職サービスに登録し、顕在層に入る。だが、ここからは他社の転職サービスとの競争が非常に激しいという。「顕在層は、多くが他社の転職サービスにも登録します。そのため各社が1秒を争って架電をしています。看護師の転職業界は、車の売却や引っ越しの見積もり取得サービスなどと似ていて、今でも電話競争の世界です」。

顕在化してからでは、経験豊富な大手サイトとの競争が激化する。そのため同社では、前述した潜在層の登録に知恵を絞っている。この潜在層は、まだ競合他社が知らない"ブルーオーシャン"なのである。

会員登録者数は2年半で約5倍に

施策開始から2年半で、成果は順調に出ている。月間登録者数を見ると、自社の通販サイト会員から転職サービスへの登録者数は、事業開始当初の18年4月から、20年10月の時点までで約5倍に増えた。また登録後の電話面談率も、58%から70%に向上。事業開始当初ほど広告に頼らなくなったので、会員獲得単価も4分の1以下に減少している。

会員の増加に対応するため、当初4名だった営業部員も22名に増えた。「ようやく当初の事業計画に近い形になってきました。それほど広告に頼らず会員が増やせる仕組みは、当社の大きなアドバンテージになっています」。

並木氏は、転職は買い物と異なり、長期で考えていくものだという。「いったん転職に気持ちが動いても、思いとどまる人も多いと思います。そういうタイミングにも親身に対応していけば、次に本当に転職したいとなったときに、当社のサービスを利用してもらえると思います」。

さらに将来的には、ナースステージの持つ購買行動を分析して、その変化から転職意向を察知したり、転職意向のある会員に向けてそのタイミングにお薦めの買い物情報を発信したりなど、やりたいことは尽きない。最終的に、看護師のための総合情報サービスを提供していきたいというのが、並木氏の描くビジョンだ。

20年は、コロナ禍で看護師の懸命な働きぶりに称賛と注目が集まる一方で、転職市場にも大きな変化があった。感染を恐れる患者の「受診控え」が影響し、病院の経営状態は極端に二極化してしまったという。「一部の求人が旺盛な病院以外は、求人が減少してしまい、今年は受け皿が狭まっています。ただ会員の登録者数は伸びており、従来の超売り手市場からは徐々に市場が変わりつつあると言えます」と並木氏。転職市場が変化する今も、看護師に寄り添い、長期の関係を築いていく同社の考えは変わらない。

並木氏は、今回のナースキャリアネクストのMA導入の取り組みで「Marketo Champion 2020」において「Marketer of the Year」を受賞。

「マーケティング未経験の私でも、このような賞をいただくことができました。"意外とできるんだな"と思ってもらえれば嬉しいです。デジタルマーケティングは、最初は心理的なハードルは高いと思いますが、実はやりたいことをブレイクダウンしていくと有効なツールの使い方が見えてきます。お客様にジャストタイミングで、最適なメッセージを送ろうと思えば、MAは必須です」

取材日:2020年11月16日

事例一覧ページへ戻る