福屋ホールディングス

福屋ホールディングス

家の売買は一生に一度のイベント。だからこそ長期の信頼関係構築を目指す

福屋不動産販売は、関西圏・首都圏・福岡で不動産の仲介を行う企業。親会社である福屋ホールディングスは、新築施工やリフォームを行う工務店業や保険代理業などを手掛ける企業を持ち、FUKUYAグループ全体として住まいに関する総合サービスを提供している。

大江健太郎氏は、デジタルマーケティングを担う人材として2016年に福屋ホールディングスに入社。当時、同社にはマーケティング部門が存在せず、webのプロモーションやディレクションを専任で行う担当者もいなかったという。大江氏は入社後、各部署がバラバラに運営していたホームページやメルマガ配信の業務を一つずつ集め、運営を集約していく。

18年には、カスタマーセンター機能と営業推進機能を統合した営業推進部が発足。大江氏は、顧客に対するキャンペーンの運用を担当していた荒川まどか氏とともに、FUKUYAグループすべての成約顧客に対するコミュニケーションを一から見直していくことになる。

20年4月より両氏は福屋不動産販売へ異動。2人を中心にしたチームは、いかにして不動産成約顧客のマーケティングプロセスを再構築し、成果を上げているのか。その詳細を聞いた。

不動産売買後のコミュニケーションに課題

もともと不動産企業は社員の多くが営業職であり、また大手不動産情報サイトの台頭により、自社サイトで集客するという概念は浸透しておらず、事業部ごとにwebサイトが構築され、運用されていた。そんな不動産仲介業の営業では、基本的に直近で不動産の売買を検討している顧客に対して、いち早くアプローチすることが重要視されており、まだ検討に進んでいない潜在的な顧客は営業の対象になりにくい。また、一度成約した顧客が再び不動産売買を検討するのは数十年先であることから、顧客とは一期一会の関係になりやすい。

同社も例外ではなかった。大江氏は、「営業は目の前の案件に集中しがちなため、すでに当社で住宅をご購入いただいたお客様は、営業の対象になりにくい状況でした。取得していたメールアドレスは数万件あり、カスタマーセンターの部署でマーケティングメールも配信していましたが、実際につながっていたメールアドレスはほんの一部、プレゼントキャンペーンの応募数は決まった数十名が毎回応募いただく程度で、成約顧客に対するマーケティングは、なんとなく行っていただけでした」と話す。

その理由は言うまでもないが、住宅は一生に一度、多くても二度という商品だからである。仮に家を購入したのが30歳とすれば、次に買い換えるのは平均して60歳近くになって子供も独立してからということになる。

既存顧客に住宅購入をリピートしてもらうことは難しいが、冒頭で紹介した通り、同社はリフォームや保険などの住まいに関する様々なサービスを持っている。簡単なリフォームならば、中古住宅を購入してから5年ほどで検討に入るケースが多く、その際にFUKUYAグループを指名してもらえるビジネスチャンスがあるのだ。

既存顧客と関係が途切れないようにする施策として、以前からメールアドレスが分かる顧客に対して暮らしの情報メールを送ったり、スポーツ観戦券をプレゼントするキャンペーンなどを実施していた。

ただ、リフォームは基本的に計画的に行うものではなく、何か不具合が起きるなどのきっかけがないとニーズが発生しない。例えば、鍵が壊れる前から鍵を替えようとしている人はほとんどいないだろう。だが、万が一鍵が使えなくなれば、すぐにでも直さなければいけない。台風による雨漏りなども同様だ。

「顕在化するまで、事前準備がほとんどないというのがリフォームのお客様の特徴です。ですから当社には、住宅購入者に対して接点を持ち続けていくことで、何かあったときに一番初めに想起してもらえる存在になれるアドバンテージがあると思っています」(大江氏)

効果検証で分かったマーケティングの可能性

既存顧客へのマーケティング施策を見直すにあたり、大江氏と荒川氏は、まず従来のメール施策の効果検証を行った。

調査したのは18年1月。当時、約3万件のメールアドレスに対してマーケティングメールを送っていた。当時使用していた配信ツールでは、送信したメールのみ開封が分かる仕様だったため、過去すべての送信メールの開封チェックを行い、エクセルで全メールアドレスに開封チェックをつけてみたところ、一度でもメールを開いたことがあるユーザーは1割以下、9割の方は一度もメールを開いていなかった。さらに、1万通以上は、届いているかどうかも分からない状況だったという。

また、一定の反応があると思われていたスポーツ観戦券のプレゼントも、詳しく調べると、応募しているのはわずか数十名のファンだけだった。しかも種目によって応募者がそれぞれ固定され、一部のリピーターしか反応していなかった。

実態が見えてきたところで、次に従来のシステムのまま、できる限りのマーケティング施策を実施した。まず、メールアドレス所有者を3つのエリアに分けて、さらに過去開封者と未開封者の計6カテゴリーに分類し、異なるメールを送信して反応を見る。プレゼントも、家電や旅行など新しいジャンルに切り替え、提携企業からFUKUYA価格の商品プランを作っていただき掲載するなどユーザーの反応を見た。1回ごとにメールの文言も変え、エクセルでのスコアリングを繰り返していった。

これらの施策をすべて手作業で行っていくうち、数はわずかだが各コンテンツに問い合わせてくる顧客が現れ始めた。「きめ細かな施策を実施すれば、お客様とのコミュニケーションが実現できることが分かってきました」(大江氏)。

大江氏は効果検証に手応えを感じていたものの、毎回コンテンツは手作業で、HTMLメール・特設ページ・メールフォームのコーディング作業にバナー制作など、やればやるほど業務が増加し、自身の負担は増していった。このまま手作業で続けていくわけにはいかない。システムを導入して自動化すべきと確信し、マーケティングツールの導入に向けた検討に入っていくことになる。

「使いやすく高機能」が必要条件

マーケティングツールの選定は、大江氏と荒川氏が共同で進めた。まず大江氏が12社ほどの製品を約3カ月かけて調査。その中から候補を3つに絞り、そこからさらに3カ月間、使い勝手を確認した。

システムの導入によって、大江氏は基本的な運用管理をプログラミング知識のない荒川氏にすべて任せたいと考えていた。そのため、実際に使う荒川氏の判断が重要だったという。

「主に操作するのは荒川さんなので、彼女が使いやすいと思えなければどんなに機能がよくても導入することはできません。ですが、単に易しいだけで、実施したいことが高度になってきたときに対応できないものはNGです。そのバランスを追求しました」(大江氏)

検討の結果、最終的にMarketo Engageを導入することに決定した。荒川氏は、Marketo Engageに対して使いやすさだけでなく、担当営業の対応も高く評価する。「当時はマーケティングを勉強し始めた頃で、分からないことも多かったですが、親身になって教えてくれる姿勢を強く感じました」と、選定時を振り返る。

大江氏は、MA(マーケティングオートメーション)を導入することで、効果検証時の課題だった「手作業からの解放」を実現したいと思っていた。「Marketo Engageによって施策の実行段階は自動化されます。その空いた時間を、別部門のwebサイトの改善など、当社のマーケティング業務全体の見直しに充てることができると判断しました」。

精緻なKPIを設定して成功体験を増やす

こうして、同社は18年9月からMarketo Engageの運用を開始した。並行して準備を進めていた暮らしのコラムサイトも同時期にオープンし、メルマガによるコンテンツ誘導の施策をスタートさせた。

実際の運用は、大江氏が向こう3カ月間の基本方針と施策案を作り、荒川氏がそれに沿ったメール施策の運用や、プレゼントの手配などをすべて担当する。荒川氏が実施した施策の結果はBIツールにも自動的に反映され、前年との比較やKPIに対する進捗を一目で把握できるダッシュボードを構築している。そして、可視化された結果は大江氏を含む社内で共有され、次の施策を検討するというプロセスを回している。

荒川氏は、最初こそ大江氏が作る施策案の意味を理解するのに精一杯だったというが、運用をこなすうちに自ら改善点を提案するまでになった。「Marketo Engageは使いやすいだけでなく、それぞれの操作で何をしているのかも分かりやすいので、実際に使っていてどうすれば効果が上がるか考えることができます」(荒川氏)。

大江氏は施策の成果について、数値目標を細かく立てることで課題箇所を明確にし、クリアすることで売上につながる設計をしている。例えば、プレゼントは商品別にコスト・応募数・開封からの応募率を調べ、常に前回の応募件数を超え、1応募あたりのコストが低くなるよう目標を立てて取り組んでいる。また、紹介・リピート・リフォームなどの問い合わせでは、問い合わせ件数・決定件数・売上総額のそれぞれにKPIを設定し、課題が集客・クロージング力・成約単価のどこにあるのかを常に計測し、次の施策で改善するよう努めている。

また、同社は「FUKUYAグループで買ってよかった」と継続して思ってもらえることを心掛けた取り組みを実施。顧客からのアンケート結果も反映し、「FUKUYAでご成約いただくと、提携する家電量販店で割安に家電を購入できたり、引越しがFUKUYA価格になる」というような顧客目線の施策を、各企業とのコラボレーションにより実現している。

すでにこれらの施策の効果は出ているという。メルマガからの問い合わせは以前よりも170%増、プレゼントキャンペーン応募数も1000を超えるなど、18個のKPIのうち17個を達成している。また、提携企業への送客数、決定件数、それによる取扱高など、毎年細かい目標を決めて取り組んでおり、年々150~180%で増加できている。今年は2年前の導入初年度よりも3倍の問い合わせが獲得できた。

新規顧客の獲得にもMarketo Engageをフル活用

実は、同社はMarketo Engageのアカウントを2つ取得している。1つはここまで紹介した成約顧客向け施策を運用するもの。もう1つは、新規顧客獲得向けのアカウントだ。

「不動産仲介業の集客は、大手の不動産情報サイトに物件情報を掲載してもらい、そこからの問い合わせに対して営業が商談を進めるパターンが定着しています。当社も不動産情報サイトに依存傾向にありましたが、自社サイト強化の方針に切り替えるため、私が入社した経緯があります。不動産情報サイトから集客したお客様には、競合がすでに存在しているため、決定率がどうしても低くなる一方、自社サイトであれば一対一の商談となる。いかにして自社サイトの集客力を高め売上に貢献していくかが、入社当時から一貫した取り組みとなっています」(大江氏)

同社では19年末に自社ホームページのリニューアルを完了しており、20年9月に自社の不動産物件データベースとMarketo EngageをAPIで連携させた。そして、ホームページで会員登録した人に対して、メルマガで新着物件情報を送る施策を開始している。

Marketo Engageを使い、顧客ごとに最短5日間隔で新着物件情報をメール配信するエンゲージメントプログラムを組んでおり、何名の顧客にメールが配信されているかという状況は一目で把握できている。また、メールに対する顧客の反応をトリガーに、配信の頻度や内容はパーソナライズ化しているという。それ以外にも今後の実施を想定したキャンペーンのトライアル施策を複数のMarketo Engageで実施し、効果検証を行っている。

「新規顧客に対する取り組みはまだ始めたばかりですが、ホームページのリニューアルで集客力は大きく向上したので、次はその新規顧客とのエンゲージメントを高めていく施策を強化していきたいと考えています。新着物件情報はメールだけでなく、LINEなどで届けることも検討中です」(大江氏)

大江氏は、これまでのMAの取り組みが評価され、「Marketo Champion 2020」において「Marketer of the Year」を受賞。今後も顧客とのエンゲージメントをより高めるべく、様々なマーケティング施策を進行中だという。

同社は、不動産+暮らしをテーマに、Marketo Engageの機能を使い倒して、これからも顧客と息の長いコミュニケーションを目指していくことだろう。

取材日:2020年11月18日

事例一覧ページへ戻る