※写真左からヤッホーブルーイング 家住氏、マルケト 小関

株式会社ヤッホーブルーイングの家住 泰裕氏をお迎えしてお届けしている「Tomorrow's Marketer」。

前編に続き、後編ではヤッホーブルーイングならではのファンづくりに対する考え方と、テクノロジーとの向き合い方について、弊社のバイスプレジデント 小関 貴志がお話を伺いました。

"究極の顧客志向"が成功の秘訣

小関:前編ではオンラインとオフラインを適切に融合した取り組みについて伺いましたが、オンラインとオフラインの担当者は、ともすれば対立関係になりがちですよね......。家住さんのキャリアがECばかりを見てきたわけではなかったというのが、逆に良かったんでしょうか。

家住氏:そうですね。数値だけで判断しなかったというのは、良かったと思います。それに、うちはフラットな企業文化で、オンラインとオフラインの担当者同士、すごく仲が良いんです。互いに言いたいことを言い合える環境も、後押ししていると思いますね。

小関:フラットなコミュニケーションがとれるのはすごくいいですよね。家住さんはマーケティングをずっとやってこられたわけではないのに、これだけ素晴らしいご活躍をされているというのは、「うちにはマーケターがいない」「良い経験者が採用できない」と嘆いている企業にとって明るい兆しになると思うのですが、どこに要因があると思いますか。

家住氏:私たちは恵まれていて、弊社の社長は"お客様を喜ばせることが第一。売上は後から付いてくる"という考え方を持っている人でした。そのため、アンケートも自由にとらせてくれ、じっくり考える時間や裁量を与えてくれていました。

そうでなければ、小さい成功体験を作って、経営者と話を握って少しずつ進めていくしか方法はなかったと思います。

小関:なるほど。何か1つの施策で跳ねたわけではなくて、アンケートの声を拾い集めて形にしていくというのを着実に積み重ねてきた結果が、今につながっているわけですね。

家住氏:私としては、顧客と企業のつながりを強くしていくことが、商売の成功の秘訣だと思っています。どこまでも"目の前のお客様に幸せになってもらうためにはどうすれば良いのか"を考え抜いている"究極の顧客志向"を持った企業が、強いんだろうなと。

小関:ヤッホーさんは「働きがいのある会社」ベストカンパニーを2年連続で受賞されていますよね。

家住氏:はい。弊社では"知的な変わり者"資質と呼んでいるメンバーの個性を大切にしています。ストレングスファインダー(Webサイト上で177個の質問に答えていくことで、自分の強みを知ることができるツール)を使って見つけた強みが、全社員に公開されているんです。それを基にチーム体制を考えたりもしますし、任意で参加でき、資質を生かしたチーム作りを集中的に学べるチームビルディング研修もやっていて。うちの組織風土である「ガッホー文化」(ガッホーはがんばれヤッホーの略)を根付かせるために、かなりの時間を割いています。

小関:"究極の顧客志向"を実現するための組織作りが素晴らしいですね。

お客様の真意を測る「熱狂度」とは

小関:ファンの熱量を測るための指標として、ヤッホーさんではどんな指標を重視されていますか。

家住氏:まだ定期購入サービスの会員の方しか測れていませんが、ロイヤリティ指標として「NPS(ネット・プロモーター・スコア)」と「熱狂度」の2つを9象限のマトリックスにして測っています。

「熱狂度」とは、トライバルメディアハウスさんが提唱されている"ブランドに対する顧客の愛情の強さ"を示す指標で、「あなたにとってブランドはどのような存在ですか?」という質問から、「すっかりハマっている/愛着を感じながら使っている/好きで使っている/悪くはないと思いながら使っている/なんとなく使っている」の5段階で評価します。

小関:「NPS」と掛け合わせることで、見えてきたものはありますか。

家住氏:以前は「NPS」と「リピート率」だけで見ていました。継続率が高ければ高いほど「NPS」も高いことはわかりました。逆も然りですが。しかし、その中に"ヤッホーブルーイングは大好きだけど、私が大好きなビールだから、他の人には教えたくない"みたいなマイノリティー志向が強い人がいて、この2つだけではその辺りをちゃんと測れないなと思っていました。

そこで縦軸を「熱狂度」、横軸を「NPS」にしたことで、"他の人には教えたくない(=愛着はある)けど、ヤッホーブルーイングは大好き"という人を見分けられるようになりました。9象限の中で右上が"最も愛着が強くて継続率も高い人"になるので、いかにここを増やすかという観点で、アンケート結果から仮説を立てて、議論しながら手を打つということを、とことん繰り返しています。

小関:お話を聞いていると、もはや大手のビール会社は御社にとっての競合ではないように思いますね。どこかベンチマークにしている企業はありますか。

家住氏:ハーレーダビッドソンですね。あそこはバイクを売るのではなくツーリング文化を売るという思想を持ってコミュニティ作りをされているので、意識しているところではあります。

お客様と"太陽と地球"のような関係になりたい

小関:ヤッホーさんではテクノロジーに対してどのようなスタンスをお持ちでしょうか。

家住氏:今まではECを単純に販売の場と定義していたのですが、今後は全体を見据えたマーケティングのプラットフォームになっていくと考えています。つまり、ECを顧客とのつながりの場にしていきたい。

そうしたときに、お客様がどのチャネルから入ってきているのかを、私たちはもっとちゃんと知る必要があると思うんですよね。まだその辺りの技術が足りていないので、そうしたところをちゃんとしていきたいということで、今回MarketoやDMPを導入した経緯があります。

さらに、うちのビールはバラエティ豊かで、それぞれターゲットが違います。例えば、飲み口が軽くてフルーティーな「水曜日のネコ」を飲む方は女性が主流ですし、大量のホップを使ってガツンと苦い「インドの青鬼」は熱狂的なビールファンの方に愛されています。

このようにターゲットが異なるのに、今の「よなよなの里」では一律で、同じおもてなししかできていません。これをお客様に合わせたおもてなしを追求していきたいと考えています。

小関:お客様を正しく理解するための仕組みづくりはITでできるのではないか、ということと、お客様を理解した上でどんな情報をどの接点でお届けするのか、といった意味でテクノロジーを活用されていきたいということですね。アナログでウェットな対応をもっともっと増やすために、デジタルを積極的に活用されていきたいという印象を受けました。

私もいろんなマーケターの方と話していて思うのは、活躍されている方々こそテクニックに溺れてないんですよね。お客様にとっての価値を真摯に考えていて、そこを突きつめれば突きつめるほど、もっとお客様のことを知りたくなっていくし、知れば知るほどもっと何かしてあげたくなっていく。そんなマーケターの方が活躍されていると常日頃から感じているので、合点がいきました。

では最後に、今後の展望をお聞かせください。

家住氏:ありがたいことにヤッホーブルーイングは急成長していて、「YONA YONA BEER WORKS」・コーポレートサイト・ブランドサイト・EC・リアルイベントなど、チャネルがどんどん増えているところなので、これらをもう少しお客様目線で統合し、それぞれのお客様に合わせてサービスの幅を広げていきたいと思っています。

小関:顧客体験をさらに良くしていくことと、ビジネスを伸ばそうとすることは、両立できると思われますか。効率を求めたくなるジレンマもあるかと思いますが......。

家住氏:やはりジレンマはあります。熱狂的なファンに支えられてここまで成長してきたので、お客様と私たちの距離を近くに保ち続けながら、同時に伸びていこうとするのは、課題ですね。

お客様が増えてもサービスの質は絶対に低下させたくないので、そのためには私たちが不得意なテクノロジーを吸収して、サポートしてもらえる環境を追求することで、お客様と私たちの距離感を"太陽と地球"のような絶妙なものに維持しつつ伸ばしていきたいと思います。

※写真左からヤッホーブルーイング よなよなエール広め隊(広報部門) 根来氏、同 i・通販団(EC部門) 家住氏