次世代のマーケティング、マーケターのあり方を、深堀りしていく企画「Tomorrow's Marketer」。今回は、"CMO対談"として銘打ち、マネジメントの視点から、マーケティングはどうあるべきかについてアプローチしていきます。

ご登場いただくのは、VAIO株式会社 執行役員の花里 隆志氏です。

VAIOといえば、ご存じの通り、1997年、ソニー株式会社から誕生したPCブランド。花里氏は、その立ち上げから携わってきたメンバーの一人です。

2014年7月に、ソニーからPC事業が独立する形で、同社は創業。スタート当初は赤字だったものの、15年には黒字転換を果たします。

また、さらなる市場拡大を目指し、BtoBビジネスの強化を経営戦略に掲げ、そのツールとして、17年3月末に、Marketoを導入。コンテンツマーケティングの実践などで、ブランド強化に取り組んでいます。

マネジメント層として、セールス・マーケティングを統括する花里氏は、会社経営においてマーケティングをどう位置付けているのか。弊社でマーケティング本部 本部長として、マーケティング部門をけん引する小関 貴志とともに、語っていただきました。

コモディティ化が進むPC業界にあって、営業・マーケティングの強化を決断

小関:実は、私は前職でPC業界にいまして、在籍中、価格競争が激化し、市場が飽和していく様を、肌身で感じたことを今も鮮明に記憶しています。

こうしたビジネス環境下にあって、御社では独自の戦略の元、法人のお客様にフォーカスし、弊社のMarketoを活用したマーケティングを実践していらっしゃいます。

僭越ながら、ソニーから独立し、経営資源にも限りがある中、花里様はデジタルマーケティングへの投資について、どう判断されたのでしょうか。

花里氏:弊社は、社員数240名で出発しましたが、創業時、顧客フロントに立つ東京オフィスのメンバーは、たった9名。人的リソースも足りない中、販売総代理店(ソニーマーケティング)にセールスを委託していました。

しかし、コモディティ化が進むPC業界にあって、今後は生き残りをかけて、独自で販路を開拓していく必要がある。特にBtoBビジネス強化に向け、いかに自社で営業・マーケティングに取り組んでいくかは、創業時からの課題でした。

実は、VAIOを設立したばかりのころ、御社の福田 康隆社長が弊社にいらして、マーケティングオートメーション(MA)に関する様々な知見を頂戴しました。ただ、当時は営業部門もなければ、お客様のリストさえもない状態で、その時点での導入は時期尚早という判断でした。

15年に黒字転換し、ようやく足腰固めができた段階で、まずは法人営業のチーム作りからスタート。人員不足の問題も、御社のパートナー企業からのサポートでカバーし、17年3月末、導入を決定しました。

小関:市場環境や人的リソースの問題を鑑みてのご判断だったわけですね。とはいえ、BtoCビジネスを主軸に回っていた組織を、BtoBビジネスへの転換に合わせて変革していくのは、並大抵のことではなかったのではとお察しします。

花里氏:そうですね。VAIO自体のネームバリューはあったのもの、法人向けサービスに対する認知は低い。外部から営業マンを採用しようにも、なかなか求める人材が集まらない。

まずはお客様からのご意見を頂戴しようと、安曇野工場から、エンジニアを技術営業としてコンバートするなどして、商品の認知度アップから着手しました。

小関:人手不足が深刻化する中、かなりの御苦労があったのですね。さらに、法人のお客様ですと、知ってもらって、買ったら終わりではなく、長期的なお付き合い、関係性を構築していくことがポイントとなります。

そこでのマーケティングの役割というのは、御社が実践されているように、まずは製品・サービスを認知いただくところから始まり、お客様になっていただく。さらに、ファンになって、他の方にご紹介いただくところまでの一連の流れすべてなのではないかと弊社では捉えています。

経営スタンスとして、マーケターと顧客の長期的な関係、つまりエンゲージメントの構築を重視しているのもそのためです。

その観点から、広義の意味で「マーケティングとは経営そのものである」という見方もできるのではないかと考えているのですが、花里様のご意見はいかがですか。

花里氏:同感です。経営がうまくいかなければ、マーケティングもうまくいかない。お客様もいなくなる。逆も然りで、つまり経営とマーケティングはまさに表裏一体の関係だと考えています。

弊社ではトップダウンで、MA導入を決定しましたが、それも「経営=マーケティング」という考えからです。

マーケティングテクノロジーで、可視化しにくい社員の目標管理も徹底

小関:経営目線で、営業・マーケティングの統括をされているお立場だからこその、貴重なご意見です。

また、マーケティングを成功に導くには、マーケティング部門だけでなく、全社で取り組む必要がありますが、そのための評価の指標、KPIとして注力されているポイントについても教えていただけますか。





花里氏:もちろん社員全員が、売上にコミットすることが大事ですが、現在、取り組んでいるブランディングなどは、ROI(投資対効果)だけではなかなかはかれない。短期的な売上だけにこだわらず、継続的な認知、露出を上げていくことがポイントとなります。



小関:お客様とのエンゲージメントを高めていく上でも、長期的な視点は重要ですね。そうした中で、意思決定をされる上でのポイント、そこにテクノロジーがどう貢献できるのか。とくにマーケティングテクノロジーがどのような形でお手伝いができるのかについても、ご意見を頂戴できますか。



花里氏:社員一人ひとりの目標の設定から管理まで、マンパワーでマネージしていくのはかなりの負荷になります。特に、売上につながる前の営業部門の活動量などは、目に見えにくい行程です。

こうしたプロセスも、デジタルを活用すると、クリアに見えるようになります。

デジタルマーケティングによって可視化される定量的なデータを、経営のトラッキングに活用できるようになるのはマネジメント層にとって、大きなポイントです。

小関:ありがとうございます。確かに、お客様とお話する中で、課題として必ず挙がってくるのが、マーケティングの貢献度、MAの効果が見えにくいことです。

マーケターががんばって、せっかくホットなリードを営業に渡しても、フォローアップされているのかが見えない。さらに数カ月から半年にわたる営業活動のプロセスの中で、いつの間にかリードが埋もれてしまう。

結果、マーケティングツールを導入しても、成果につながっていないと判断される。残念ながら、こうした良くないサイクルが発生することもあるでしょう。

花里氏:我々はまだMAを導入したばかりで、ROIの測定はこれからですが、今後、リードを育成し、営業がフォローしていくプロセスに移行していく中で、浮上してくる課題だと思います。

ただ、営業効率という観点では、Marketoによって、これまでマンパワーで有望な見込み顧客を選別していたのが、より精度の高いリストがスピーディーにアウトプットされるのは、意思決定のスピードアップに確実につながっています。

今後の成果に、必ずや大きく効いてくるポイントだととらえています。

小関:そう考えると、これからが楽しみですね。ターゲティングをしっかりと実践していくことで、例えば人員を増やしている企業であれば、PC導入のニーズが必ずある。決算時期を絞り、買い換えチャンスを狙うこともできる。シナリオの可能性はどんどん広がります。

もちろん数多くの施策を回していくには、人員も必要となりますが、現在、マーケティング専任といえる社員の方は何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか。

花里氏:専任はほぼいません。実際はマーケティング部門と営業部門が一体となって横断的に今のプロジェクトを推進しています。他社にあるような部署ごとの明確な線引きはないというのが現状です。

御社のパートナー企業である、ワンマーケティングさんにもコンサルティングをお願いしていますし、部署ごとの明確なジョブ・ディスクリプションにこだわらず、気づいた人が動くという柔軟な体制になっています。

小関:ソニー時代から比べて、カルチャーも業務の進め方も大きく変化したとお察ししますが、チェンジマネジメントの点でも、御苦労があったのではないでしょうか。

花里氏:そもそも人手が足りない状態からスタートしていますので、自ずとそういう動きにならざるをえないというのが正直なところです(笑)。

新しい会社として、今までやったことがないようなことを、それもスピード感を持って、どんどんやらなければならない。

その観点から、社員全員が自分に与えられた役割以外に何をやれるのかを常に考え、即、行動に移す。そういうサイクルを繰り返し、試行錯誤を重ねていくことで、さまざまな変革を実現していくことを目指しています。

「やるしかない」と覚悟を決めて、一歩でも前に進む姿勢が肝要

小関:機動的かつクイックな経営判断と、社員の方々のアクションが今の成長につながっているわけですね。

最後に、マーケター、特にCMOのお立場の方に、メッセージをいただけますか。

花里氏:他社のCMOの方とお会いする機会も多いのですが、弊社の取り組み、例えばデジタル広告へのシフトなど、どうしたらドラスティックな判断を実現できるのか、尋ねられることがあります。

評価をいただくのは、非常にありがたいことですが、内情はといえば、実はアップアップしながらやっているというのが現実なのですが......(笑)。

ただ、こうした姿勢、つまり右往左往しながらも、覚悟を決めて一歩でも前に進むことこそが、長期スパンで見れば持続的な成長につながっていくのではないでしょうか。

マネジメント層としては、外部の評価を社内にきちんとフィードバックしてあげることも大事ですが、現状に甘んじることなく、社員一人ひとりのチャレンジをきちんとサポートする体制を作っていくことが肝要だと考えています。

小関:確かに、デジタルマーケティングへの取り組みについても、「うちはできていない」あるいは「できない」とおっしゃる方も多いです。しかし「できないのでやらない」「できるようになってからやる」ではなく、「できていなくても、やるしかない」と動き始めるのでは、決定的な差がつくように感じます。

弊社もまだまだ課題は山積みですが、今日は、お話を伺って、"MADE IN JAPAN"にこだわり、高品位の製品を、お客様のエンゲージメントを高めながら提供していく取り組みに、心から共感し、勇気づけられました。

今後も、御社のチャレンジングな取り組みに対し、少しでもお手伝いができれば幸いです。今日はありがとうございました。


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