これからのマーケティング、マーケターのあり方について、現場の視点で斬り込む企画「Tomorrow's Marketer」。今回は 弊社のバイスプレジデント 小関 貴志と、株式会社サンリオのマーケティング本部 デジタル統括部 部長兼CDOの田口 歩氏にご登場いただきます。

サンリオといえば、世界でも圧倒的な知名度を誇る「ハローキティ」を始め、「マイメロディ」「ぐでたま」といった人気キャラクターを擁し、子供からその親、さらに孫を持つシニア世代まで幅広いファン層を獲得しています。

田口氏は、1990年代半ばから黎明期にあったインターネットビジネス業界でキャリアを積み、2012年10月に同社に入社。CDOとして、コーポレートサイト、ソーシャルメディアなどを通じたデジタルマーケティング、イノベーションを推進しています。

キャラクターを通じて人と人とを繋ぎ、友情と幸せを育むことがミッションの同社。そこに、デジタルが果たす役割とは何なのか。田口氏が注力するユーザーとのエンゲージメント強化において、大切にしている考え方について、弊社のマーケティング部門を統括する小関と語っていただきました。

最先端のテクノロジーが登場しても、それだけではマーケットは生まれない

小関:仕事柄、さまざまな企業を訪問してきましたが、こんなにかわいらしい会議室にお邪魔するのは初めてです(笑)。

田口氏:ありがとうございます(笑)。サンリオのキャラクターグッズは現在、130を超える国と地域で販売されていますが、実は元々、ギフト商品の企画・卸売から始まった会社なんです。 "ソーシャルコミュニケーションビジネス"と呼んでいますが、キャラクターや商品を通じて、心を贈り、心を伝える。世界中に思いやりの心と友情の輪を広げていきたいという思いがビジネスの原点となっています。

小関:今日伺いたいと思っているエンゲージメントに通じる理念ですね。まずは田口さんの御経歴についてですが、さまざまな企業でキャリアを構築されてきたとお聞きしました。

田口氏:はい。新卒でSEとして入社した通信会社を皮切りに、90年代半ばにインターネットが登場して以降は、プロバイダ事業の立ち上げ、動画ストリーミング、定額制音楽配信サービス、さらにデジタルマーケティングのコンサルティングに携わり、そのご縁で現在のサンリオに来て7社目になります。

紆余曲折はありましたが、共通しているのは一貫してインターネットビジネスのフィールドに身を置いてきたということでしょうか。しかもその黎明期から関わり、まさにテクノロジーが社会を大きく変えていく時代のうねりを、身を持って感じられたのは実に刺激的で、キャリアの上でも大きな糧となりました。

一方でどんなに優れたテクノロジーが登場しても、それだけではマーケットを作れないし、お客様には受け入れられない。動画や音楽配信のマーケットの影も形もない時代にあって、そんな教訓を得たのも、今のマーケティングに取り組む上での姿勢につながっていると思います。

3世代に渡る長期スパンのエンゲージメント構築に注力

小関:先進的なテクノロジーに精通するお立場として、さまざまなキャリアの選択肢があったと思いますが、なぜサンリオという会社を選ばれたのでしょうか。

田口氏:サンリオは「ハローキティ」を始め、グローバル市場においても高い競争力を持つキャラクターブランドで、他には真似できないユニークなコンテンツ資産(プロパティ)を持っています。

その魅力をより多くの人々に伝え、一人ひとりのお客様に合わせた最高のブランド体験提供をしていく。その目的のためにデジタルテクノロジーが果たせる役割。そこに大きな可能性を感じました。

従来、弊社ではサンリオショップ店頭での商品販売や接客、イベント活動などを通じたお客様との「絆」作りを強みとしてきましたが、インターネットのテクノロジーを活用すれば、地球の裏側のファンとも瞬時に繋がり、キャラクターとのコミュニケーションを育むことも可能となります。

そこに自身のキャリアが生かせる場があるのではないか。前職からWebサイト構築の支援には携わっていましたが、外部のパートナーとしてではなく、事業会社のメンバーとして直接お客様と向き合い、キャラクターとお客様のエンゲージメント、「絆」作りに携わってみたい。そう強く感じたことが入社の契機となりました。

小関:なるほど。ある意味、必然的かつ運命的な出会いでもあったわけですが、毎年、新しいテクノロジーが登場し、従来のビジネスモデルがいとも簡単に"破壊される"世界から、時代を経ても変わらないキャラクターという財産を守っていかねばならない世界にシフトされた。何かギャップや新しい発見も、おありになったのではないでしょうか。

田口氏:おっしゃる通りです。そこがサンリオに来て学んだ大事な視点であり、いつも言っている「エンゲージメントファースト」の考えにつながっています。

つまり、私たちのビジネスは単純に"モノ"を売ることではなく、キャラクターとお客様との目に見えない関係性である「絆」を構築し、維持し続けることが何よりも大切であり、それが弊社の中長期的なバリューを形作っているのです。

実際、「ハローキティ」の日本人女性における認知率が98%を超えるなど、弊社のキャラクターは高い認知度を実現していますが、その多くは幼少時の原体験ともいうべきお客様とキャラクターの出会いによって生み出されています。そしてその後、成長とともに別のキャラクターやアイドルなどに興味の対象が移ることはあっても、母親になり、そしておばあちゃんになった時、再びかつての体験の記憶とともに子供や孫にプレゼントとして買い与えるという行為によってキャラクターの魅力が伝承されていくことがあるのです。

私たちはこれを「3世代キャラクター」と呼んでいますが、長く愛されるキャラクター作りのためには、お客様との変わらない「絆」作りに注力しなければならないと考えています。目先の数値だけに捉われることなく、エンゲージメントの強化に継続的に取り組んでいく姿勢こそが何より大切なんです。

エンゲージメントでは"正しい文脈"を意識することが大事

小関:お客様とのエンゲージメント構築を大事にしている弊社としても、非常に共感できるお話です。具体的にはどのような形でお客様にとって心地よい距離感でメッセージを発信し、その構築、最適化に取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

田口氏:施策の一つ、ソーシャルメディアを通じたキャラクターの情報発信を例に挙げますと、弊社ではTwitterだけで10個を超えるキャラクターアカウントがあります。そのすべてをキャラクターが、一人称でフォロワーに"話しかける"というスタイルで運営しています。

ただ、キャラクターSNSで一人称の運用を行うことにはリスクもあります。例えば、アニメのキャラクターを例にとると、昔から馴染みの"声"が突然変わったら違和感を覚えますよね。

それと同じで、属人的な運営でファンの方が抱くキャラクターの世界観を壊さないよう、長期的に同じコンディションを維持していくのはなかなか難しい。それでも一人称のスタイルを貫いているのは、リスクを上回る高いエンゲージメント効果、つまりお客様にとっても私たちにとっても"幸せなコミュニケーション"が実現出来るからです。

例えば、私もデータを見て驚いたのは、「マイメロディ」が朝、「おはよう!」と言っているだけの投稿で、エンゲージメント率が9%を超え、お客様から続々とリプライが返ってくる。

そこには、キャラクターとお客様との間に行き交う強い思いがあり、私たちが目指す"幸せ"な関係性、「絆」があると思うんです。

社内のメンバーもそうしたお客様からの反応を見ることで、これほど多くの人に愛されているブランドに関わっているという誇りと、やっていることが間違っていないという確信が生まれる。インナーマーケティングの実践にもつながっています。

小関:その結果が、売上へどのように結びついているのか、マネタイズできているかの議論とは別次元というわけですね。

田口氏:現実の人間関係でも、利害の絡まない親しい間柄で相手の下心が垣間見えたりすると、ちょっと残念な気持ちになりますよね。

それと同じで、ファンであるお客様にとってTwitterのタイムライン上では、キャラクターはビジネスのアイテムではなく、"自分の友達"であってほしいんです。

お客様とのコミュニケーションにおいては、"正しい文脈"を意識することが大切だと思います。ブランドの在るべき姿を考え、お客様の思いを"断ち切らない"よう誠実に対話することが何より大事だと考えています。

「わかった気にならない」ことが顧客心理の理解につながる

小関:エンゲージメントの根幹に関わる示唆をありがとうございます。では、最後にこれからのマーケティング業界を支える若きマーケターに、アドバイスをお願いできますか。

田口氏:一つは「わかった気にならない」ことでしょうか。

デジタルマーケティングでは、様々な指標、データが容易に取得できるため、ネット越しでもお客様の事を分かったような気になってしまうことがあります。しかし、現場に行ってみないと見えないものが必ずあります。弊社のキャラクターもそうですが、どんなビジネスにおいてもお客様の中に形づくられる想いや "ブランド"は、決して数値だけで図れるものではありません。

弊社社長の辻 信太郎は、『とにかく現場の店舗に足を運んで売り場を見ろ』と言っていますが、私自身、サンリオの外部パートナーの立場から、実際に入社し、お客様のリアルな声を聴くことの大切さを改めて実感しました。

お客様と自分の立ち位置には違いがあるということを大前提に、可能な限りお客様の立場になって物事を考える習慣づけが大切だと思います。

それと関連し、二つ目に挙げられるのが、目の前の仕事とは関係ない分野にも積極的に触れる機会を持つこと。

昔、山登りによく行っていたのですが、裾野にいた時に見ていた風景が、山頂から見るとまるで違って見えます。見えなかったものも見えてきます。知らない場所に行く、新しいことを体験する、読書やネットサーフィンを通じてでもいい。今の環境にいたら持てない視点を、ぜひ積極的に取り入れるようにしてみることをお勧めします。

私自身、通信、動画、音楽、デジタルマーケティング、キャラクターなど多様な分野に従事してきました。分野は違えど、一貫してインターネットビジネスに身をおき、この4月には、マーケティング本部 デジタル統括部 部長兼CDOに就任しました。チームメンバーとともに、サンリオのデジタルイノベーションに貢献したいと改めて思っています。

様々な経験を経たからこそ、今があります。空振りを恐れず、好奇心を持って自己の世界を広げることこそが、マーケターにとって何より大事な"ユーザー目線"を広く持つことにもつながっていくと思います。

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