今後のマーケティングのあり方、マーケターが目指すべき姿について切り込む連載企画「Tomorrow's Marketer」。今回は、デジタルマーケティングのコンサルティング会社である株式会社プリンシプルの取締役副社長/チーフ・エバンジェリスト 木田 和廣氏と、弊社のシニアビジネスコンサルタント 大里 紀雄の対談をお届けします。

Googleアナリティクス公式ヘルプフォーラムで2000以上の投稿実績を誇り、初の「トップコントリビューター」として認定された木田氏は、『できる100の新法則 Tableau タブロー ビジュアルWeb分析』(2016年9月 インプレス)や『できる逆引き Googleアナリティクス』(2017年11月 インプレス)など、マーケターなら誰もが目にしたことのある名著を数々執筆しておられます。

前編では、そんなアクセス解析業界のパイオニアであり、業界の先頭を走り続ける木田氏が歩んできた道程と、これからのマーケティングのとらえ方について、語っていただきました。

苦節の時を経て辿り着いた場所

大里:まずは、改めて木田さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか。

木田氏:最初はトヨタ系の商社に入り、海外駐在員も経験しました。その後、縁あってWebtrendsの営業として、この業界に入ったのが2004年です。それからはWeb解析一本ですね。

大里:以前、"ガラス板の上で爪を立ててダッシュする猫"のように苦しい時期があったと伺いましたが、それはいつ頃のことですか。

木田氏:2009年頃ですね。Web解析は営業よりもコンサルタントの価値の方が大きいのではないかと思い、Webtrendsの営業をやめて、自分でGoogleアナリティクス(GA)のコンサルタントを名乗るようになったんです。自分では、お客様にしっかりと価値を提供できると思っていたのですが、お声がかかりませんでした。悔しかったですよ。結婚して子供もいるのに、収入が上がらず、将来も不安な状態が続きました。

大里:当時は、まだ時代が追いついていなかったんでしょうね。

木田氏:それもありますが、私の認知度がなかったですからね。だからGAの公式ヘルプフォーラムに2000件も投稿できたんです。コンサルタントって、芸者みたいなものじゃないですか。自分では踊りが上手だと思っているんだけど、お座敷に呼ばれないからお稽古ばっかりしているみたいな......それが2年ほど続きました。

大里:私が初めて木田さんと飲んだのは5年前くらいでしたかね。あのとき、「今は爪を立てたら前に進むんだよ」とおっしゃっていましたもんね。やはりその2年間でマーケットの状況が変わりましたか。

木田氏:そうですね。時代もそうですが、2011年に今の会社に入って、状況が一変しました。

大里:GAのフォーラムでトップコントリビューターに選ばれたのもその頃ですか。

木田氏:はい。日本で3人いるトップコントリビューターの初代が私です。トップコントリビューターになると、2年に1度くらい招待旅行に呼んでもらえるのですが、これまでに3回呼んでもらって、Google本社のサンフランシスコ(アメリカ)・ダブリン(アイルランド)・シンガポールに呼んでいただき、米国・欧州・アジアを制覇しました。

大里:木田さんはGAだけでなくTableauもやっていますよね。

木田氏:そうですね。2013年にGooogle Analytics Certified Partner(GACP)の登録をするためにアメリカに行ったら、パートナーのうちの1人がTableauを使っていたんです。もう初めて見た瞬間に、「これだ!」と思いましたね。

大里:それはなぜですか。

木田氏:データを深堀りするというのは、突き詰めるとディメンションの掛け合わせだと思うんですね。いかに特異なセグメントを見つけられるか。ディメンションがあまり小さくならないうちに、コンバージョンレートが高いセグメントを見つけられれば、なんでだろうと考えられるし、短絡的に言えば、そこを増やすことで全体のパフォーマンスを上げられます。Tableauは、そういった多ディメンション分析がすごくやりやすい。GAだとレポートを切り替えたり、セカンダリディメンションを適用するのに時間がかかるところが、ドラッグ&ドロップで思考を妨げずにできるんです。

コンバージョンの一辺倒はもう古い、これからのマーケティングはどこへ向かう?

大里:木田さんはGAやTableauを使ったデータ分析をされているということですが、これからのマーケティングはどうなっていくと思いますか。

木田氏:マーケティングの"要"って、"適切なお客様に・適切なタイミングで・適切な手段で・適切なオファーをする"ということに尽きると思っていて。ジェネラルコンシューマーは、常にブランドのことを考えているわけではない。でも、時折ブランドのことを考えているときに「こんなイベントがありますよ」「こんな買い物ができますよ」と提示できれば、マーケティングが邪魔なものではなく、むしろありがたいものになりますよね。それこそが1to1マーケティングの真髄だとすると、それがDMPという基盤によって、やっと実現できるようになっていくのではないかと思っています。嫌がられない&うざくないマーケティングに向かっていくのではないかと、強く思っています。

大里:確かにそうですね。Marketoユーザーで成果を上げている方たちも、お客様に喜ばれることをしたら、結果として数字が上がりましたとおっしゃっています。

木田氏:マーケターはどうしてもコンバージョンの一辺倒になりがちだけど、コンバージョンの背景には、人の気持ちとかブランドに対する好き嫌いがあると思うので、そうしたエンゲージメントが醸成されない限りは、LTVが上がってこないじゃないですか。1to1マーケティングのいいところは、一人ひとりのLTVが測れるところだと思うんです。

大里:その流れでいうと、KPIの設定もコンバージョンとか特定ページへの到達とかではなく、LTVなどへと視野が広がっていくのではないかと思うのですが。

木田氏:そうですね。GAが見てきたのは、ずっとセッションだったわけじゃないですか。でもセッションって、単に解析しやすいからセッションになっていただけで、何の必然性もなかった。そんなGAも少しずつユーザー軸に動いてきているし、やっぱりセッションよりユーザー、コンバージョンよりLTV、LTVの背景にはエンゲージメントって方向になっていくんだろうなと思います。とはいえ、自分のエンゲージメント度合いはこうだ、とお客様は自己申告してくれないので、Webで取れる行動をもとに推測するしかない。行動からお客様の心理や状況、不足感といったものをデータから察してあげるのが、これからのマーケターに求められる能力なのかなと。

大里:確かにそうですね。同じデータを見ていても、インサイトを得られる人と得られない人がいますから。大体インサイトを得られる人は、頭の中にお客様の仮説を相当たくさん持っていますよね。なんとなくデータを眺めていて答えが出てくるものではない。「こういうお客様は、きっとこういうものを求めているんだろうな」という仮説がちゃんとあって、その上でセグメントを切ってみて、「あぁ想像通りだった」とか「全然想像とは違う動きをしているじゃないか」と、答え合わせをしていくものだと思うので、発想力や想像力と、お客様のことをどれだけ真剣に考えられるかっていうのが、マーケターにとっては重要ですよね。

木田氏:そういうことですね。

後編では、木田さんが大切にされている仕事観や、これからの生き方に迫ります。

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