これからのマーケティング、マーケターのあり方について、ズバリ斬り込む企画「Tomorrow's Marketer」。今回は "CMO対談"として、弊社のバイスプレジデント 小関 貴志と、オイシックスドット大地株式会社 執行役員 統合マーケティング部 部長の奥谷 孝司氏にご登場いただきます。

「オイシックス」といえば、ミールキットを中心に安全・安心にこだわった食品宅配大手としておなじみですが、2017年10月より、同じく有機・無農薬野菜販売の草分け的存在である「大地を守る会」と経営統合。

自然派食品宅配のNo.1企業として、業界をけん引するリーディングカンパニーへと成長を遂げています。

奥谷氏は、「Oisix」「大地を守る会」の2ブランドの強みを生かしつつ、マーケティング活動を推進、統括。また、前職の良品計画に在籍していた際には、モバイルアプリ「MUJI passport」をプロデュース。ネットストアとリアル店舗の買い物履歴の可視化を実現したオムニチャネルのプロフェッショナルとしても知られています。

現在もcoco(Chief Omuni-Channel Officer)の肩書きを擁する奥谷氏が考える、これからのマーケティング、エンゲージメントのあり方とはいかなるものなのか。弊社・マーケティング本部長の小関 貴志と共に、語っていただきました。

ネット企業こそオフラインを意識したブランディングを実践すべし

小関:この10月に経営統合され、新オフィスでスタートされたわけですが、改めて2ブランドを擁する新会社として志向するマーケティングの方向性、奥谷さんの役割について教えていただけますか。

奥谷氏:大前提として、2ブランドとも、産地との関係性を大切に、安心・安全な食材をご提供するというビジネスのコンセプトは共有しています。

ただし、「Oisix」は、購買やコミュニケーションのチャネルがネット中心、「大地を守る会」はどちらかといえば紙、アナログを志向するといった、お客様の層、プロファイルに多少の差は存在します。

その中で、統合マーケティング部としては、ネット・Webを通じてのオウンドメディアの管理や他社とのコラボ、さらにはリアルなイベントを通じたブランド発信、広報活動など、ブランディング全般を実施し、私がその管理・統括を担っています。

小関:デジタルな施策だけでなく、すべてのチャネルを通じてのブランディングを推進していらっしゃるわけですね。

奥谷氏:「オイシックス」という、ネット企業に在籍してきて思うのは、ユーザー自ら名前、住所、その他の情報を教えてくれるので、EC企業はいとも簡単に顧客のことがわかってしまいます。それがゆえに、データドリブンなコミュニケーションに終始し、KPI達成や顧客獲得ばかりに目がいきがちです。

けれど、ネット企業こそ「今、見えていないものを見る」努力をし、顧客の行動プロセス全体、顧客時間を見据えたブランディングを実践していく必要がある。

つまり購入したら終わりではなく、購買した後の体験も可視化し、重視していくことが大事だと考えています。

そのためには、テクノロジーだけに頼るのではなく、イベントを実施する、お客様の声に耳を傾ける、産地を回って生産者の話を聞く、といったリアルなコミュニケーションも並行して実践していく。それでこそ真の意味でのエンゲージメント向上が実現するのではないでしょうか。

小関:お客様とのエンゲージメントを重視する弊社としても、非常に共感できるお話ですが、そういった発想に至ったのは、数字、統計の分析を徹底してやってこられたキャリア、ご経験があったからこそでしょうか。

奥谷氏:そういった側面もあると思います。前職の良品計画と比較すると、「無印良品(MUJI)」は他にはない揺るぎないブランド力が強みといえます。しかし、そうした強いブランドでも、ネット時代にあっては盤石ではない。ライバルと競合していくには、データを重視する必要がある。

そこで開発したのが、ECサイトのデータを紐づけたモバイルアプリ「MUJI passport」でした。こうして、リアルとECサイトの購買履歴、カスタマージャーニーの可視化を実現することで、既存顧客のリテンション強化において一定の成果を上げることができました。

「Oisix」はその逆で、まだブランド力が弱い。従来、ネットといえば機能的価値ばかりが重視されてきたのが、ネットショッピングが定着してくると、快楽性が求められるようになり、ファッション通販の「ZOZOTOWN」がやっているような、ネットならではの面白い施策も可能となります。

では、食料品のみを扱う弊社はどうするか。まだまだオフラインのメジャーチャネルであるスーパーと競合していくには、ネットならではの快楽性とブランド力の両方を発信していくことが必須となります。

よって、購買に至るまでの心理的ハードルを下げるためのコミュニケーションはもちろん、ファンになっていただき、さらにSNSを通じてお客様から発信、拡散していただけるような関係性、価値を作らねばならない。

そのためにはデータを見ているだけではダメで、マーケターとしては、いわば右脳と左脳のバランスをとって、多方面から施策を打っていくべきだと考えています。

社員全員がブランドコミュニケーターという意識を持つことが大事

小関:先ほど、2ブランドで、デジタルか、アナログかというメインチャネルの違いがあるという指摘がありました。経営統合によって、お客様層、プロファイルが異なってくると、マーケティングのやり方をどう変えていくのか。そのあたりのチャレンジについてはいかがですか。

奥谷氏:統合マーケティングという観点では、お互いの強み、ノウハウを生かし、トラディショナルなマーケティングとデジタルマーケティングを融合した手法が考えられます。

例えば、紙広告では東京メトロ内で、全国の農家から取り寄せた厳選野菜、肉や調味料をセットしたミールキット「kit Oisix(キットオイシックス)」の広告を出しています。

同商品は、近年の働き方改革などの流れもあり、時短ニーズで売上を伸ばしている商品ですが、こうした交通広告を出すと、やはりネットでの検索数が上がる。DMなどについても「即、捨てたくない」というような保有効果が働くことが指摘できますし、デジタル時代でも、アナログのメディアが完全になくなることはなく、効果は一定数あるといえます。

その観点から、「大地を守る会」が持っている強さと、「Oisix」の強さを統合させることに、双方のブランド力が共に高まるヒントがあるのではないか、と考えています。

小関:お客様やマーケターにお話を伺っていると、デジタルに強い人材は数多くいても、オフラインのコミュニティづくりも含めたブランディングを担う人材をどう育成していくか。そんな課題を抱えている企業も多いようです。

御社では、いわゆるブランドコミュニケーターを育成していく上で、どのような点に注力されているのでしょうか。

奥谷氏:弊社では、経営統合を機に「社員全員が創業者である」という意識を持つべく、統合後最初の名刺限定で"ファウンダー"という肩書を入れました。

つまり、全員が創業者であれば、ブランドコミュニケーターでもある。ブランドを体現するオイシックスのロゴについても、オイシックスに由来のある41種類の野菜や果物を組み合わせたデザインをデザイナーの水野 学さんに依頼するなど、会社全体として、ブランディングをしっかり実践していかねばという機運が少しずつ高まってきていることを感じます。

例えば、「Oisix」では、値段を安くしてユーザーを獲得するというフェーズではなく、食を通じたカスタマーエクスペリエンスの向上にシフトしていく動きが出ています。

具体的な施策としては、人気漫画『宇宙兄弟』や、映画『深夜食堂』に出てくる食のシーンを再現できるミールキットを出し、大きな反響を得ました。食を通じて、いかに楽しい体験をご提供するか。こうした顧客時間を意識したブランドの体現化に取り組む動きが、加速しつつあります。

小関:まさにテクニックや知識ということでなく、どうお客様と接するかという根本を意識することが、適切なマーケティング施策、ひいてはブランディングにつながっているということでしょうか。

奥谷氏:そうですね。さらに2ブランドのコミュニケーションの違いでいうと、「大地を守る会」は、川上を重視し、生産者を守りたい、安心できるいい野菜を作る環境を整備していきたいという思いが強い。お客様は、その理念に共感するパートナーという位置づけに近いといえます。

いい意味でお客様に媚びすぎない姿勢を貫いている点では、「大地を守る会」のほうが、強いブランド力を擁しているといえるかもしれません。そういった立ち位置の違いも2ブランドで学び合い、切磋琢磨していくことで新たなチャンスが生まれると考えています。

後編は、人間の根源である食に関わる企業として、何を実現していくのか。日本が抱える食糧事情や食の安全に関する問題意識と、そこに貢献しうるテクノロジーの可能性についても語っていただきます。