経済産業省 産業人材政策室 参事官 伊藤 禎則氏をお迎えした「Tomorrow's Marketer」は、前中後編の3部制でお届けしています。

前編に続き中編では、長く働き続けるために重要な仕事の選び方をテーマに、弊社 代表取締役社長 福田 康隆とともに語り合っていただきました。

人生100年時代のキャリア形成を支える"Enablement"

福田:AIやデータを活用できる分野として、採用・労務管理・人材育成の3つの領域でHRテクノロジーに注目されているというお話でしたが、採用・リテンションと育成というのは、ちょうど私どもの会社でも直面している大きな課題です。今年は縁があって、初めて新卒を2名採用しました。1名は2年前にインターンをやってくれていた学生で、もう1名は私が神戸大学のMBAで授業をしたときに、それを聞いてくれていた学生です。

伊藤氏:それは会社のマーケティングそのものだから、すごいですね。

福田:ありがとうございます。とても嬉しかったです。最初に入った会社で受ける教育は、その人のキャリアにとってすごく大事だと思いますし、今後、彼らの後輩となる人材を採用していきたいと考えているのですが、彼らが一番求めているものは学習の機会なんですね。そこで"Talent Enablement"という担当職種を設けました。

海外では、"Marketing Enablement"とか"Talent Enablement"という職種が一般化してきておりまして、直属の上司ではなく斜めとか横の視点から社員のキャリアを作っていこうというものです。なぜ、このような職種が必要かというと、戦略や指示を出すスキルと、他者の能力開発をするスキルは、必ずしも1人が両方を持ち合わせているとは限らないからなんですね。

伊藤氏:それはすごく面白いですね。これからは人口が減っていきますから、働き方改革で選択肢を広げると同時に、一人ひとりの生産性を高める必要もあります。"生産性を高める"というと、なんとなく無機質なイメージがありますが、要は、その人が持っている潜在的な能力を解放することですよね。だからEnablementのお話にはすごく共感するのですが、それこそが社会人の学び、リカレント教育だと思います。

経産省でも「人材力研究会」を立ち上げて、その中でずっと議論してきたものを、最終的なレポートとしてまとめたのですが、その中の一つのメッセージは「会社の社会的な責任の形が変わってくる」ということなんです。

これまでの大企業では、社員を採用したら定年まで雇用保障してきました。それどころか、昔は「生活給」という言葉まであって、社宅や保養所、医療年金まで、会社が丸抱えでした。しかし、人生100年時代になると、私も福田社長も80歳くらいまでは働くことになると思うんですよ。そうなれば、職業寿命を終えるまで「雇用保障」を続けるというのは、もはや履行できない責任になってきます。

だからこそ企業には、「雇用保障」ではなく、「成長の機会」を提供してもらう必要があります。求職者は、もうみんなそこに気づいているからこそ、副業・兼業が注目されているのだと思うんですよね。

福田:そうだと思います。

伊藤氏:ところが、現実的には大企業のほとんどの社長さんは副業に反対しています。2016年に日本経済新聞社がまとめた「社長100人アンケート」で副業への考えをたずねたところ、「反対・否定的」との回答が8割でした。なぜ反対しているかといえば、本業に支障があるからだと。でも、「勤務時間外」の副業も反対、土日でもダメだなんて、本当は変じゃないですか。副業していなければ本業に支障が無いというのは本当か、真夜中までカラオケしてたらそれはどうなるのか。

厳しく言えば、経営層に自信がないということです。本来であれば、経営者として"ある勤務時間内に、こんな具体的な成果を出してくれればいい"ということを明示して、それが満たされているのであれば、あとは何をやってもいいはずです。必ずしもすべての企業が副業を認めなければいけないとは言いませんが、若い方は本能的に"企業が自分に成長の機会を提供してくれる気があるかどうか"をベンチマークとして見極めているのだと思います。

福田:そうですね。おそらく副業が本業に支障をきたすと考えている経営者が多いのだと思いますが、実際には、能力がない人や本業に集中できない人が副業をしたとしても、結局はどこからも引き合いがなくて、淘汰されていく気がします。

伊藤氏:まったくもって、そうですね。副業もフリーランスも、そんなに甘い話ばかりではありませんから。その人の持つスキルや持ち札によって、差が出てきてしまうのは否めないでしょう。企業という後ろ盾がないからこそ、学ぶ必要があるわけですが、それは本質的にはサラリーマンでも同じことですよね。雇用されていたら自ら学ばなくていいというのは、もはや幻想です。副業やフリーランスといった「多様な働き方」で浮き彫りになるのは、日本の働き方の問題そのものではないでしょうか。

"Will"を大切にした仕事選びを

福田:先日、新卒向けの説明会で、「社会的使命のある仕事は何か」とか、「自分が足跡を残せるものは何か」といったことを、まじめに考えれば考えるほど、変な罠にはまっていくのではないか、という話をしました。

以前、何かの記事で読んだのですが、"What does the world need?"(=世界が何を必要としているか)、"What do you love?"(=あなたは何に情熱を燃やせるのか)、"What are you good at?"(=何が上手にできるのか)、"What can you be paid for?"(=何でお金を稼げるのか)という4つの丸がすべて重なるところが、理想的な仕事であるというんですね。

確かにそうだなと思う一方で、今の時代、世の中のニーズはどんどん変わっていくので、自分にとって理想的な仕事が、ずっと同じであり続けることはないと思うんです。自分の情熱も常に変わり続けるものですし、自分の専門性が高くなってくると、できることが変わってくるのも当然のことです。そう考えると、世の中の変化に合わせて、自分を変化させられる"柔軟性"が、働く上で非常に大事なことなのではないかと。

伊藤氏:なるほど。面白いですね。確かに、大学生が"世の中に貢献できること"だけを考えて職業選択をするのは、実際にはやめたほうがいいと思います。私がいつも言っているのは、シンプルに、"Will(=何をしたいか)・Can(=何ができるのか)・Must(=何をすべきか)"のある仕事を選ぼうということです。

この3つの中で最も大事なのは、やはり"Will"なんです。これは変わり得るものですよね。大学4年生の時点で、自分が何をしたいかというのは、それほど言語化できていないのは普通のことなのですが、「自分にどんな興味があるのか」とか「何に重きを置いているのか」くらいはわかるはずなので、その中で自分の"Can"とつなぎ合わせていくんですね。

さすがに社会人になるのですから、"Can"とまったくリンクしない"Will"、つまり行動をともなわないビッグマウスでは困りますから、Canを広げていくことは大切です。これが、まさに人生100年時代のリカレント教育です。それを最終的には"Must"(自らがなすべき務め)につなげていくのですが、"Will"と"Can"がない"Must"だけしかないというのはブラック企業ですから、その点は気をつける必要があります。

まず"Will"があって、それを"Can"で支えて、最終的に"Must"につなげて全体をリーチさせる。だから最初の出発点は、やはり"Will"であると思うんですよね。

福田:それは確かに、わかりやすいです。

伊藤氏:逆に言えば、"Will・Can・Must"がない仕事は、単にホワイトというだけで、いい就職先とは言えないのではないでしょうか。今後、80歳まで働く時代に一つの会社に勤め上げることが、相当イレギュラーになってくることは間違いないわけですから、最初にどんな仕事を選ぶのかというのは、とても大事なことです。仕事を通じて「自分はどんな成長ができるのか」「成長の糧として何が得られるのか」という観点で、仕事を選んでほしいと思っています。

最後の後編では、現状の日本社会に関する課題と、それを解決するために必要なテクノロジーの有用性について、語っていただきます。