今後のマーケティング施策は、どうあるべきか。マーケターに必要となる資質は何か。マーケティングの将来像について、現場で活躍するマーケターに聞く連載の第9回目は、株式会社i-Plug(アイプラグ)取締役・CMOの田中 伸明氏をお迎えします。

同社では、企業が会いたい学生にダイレクトにオファーを送ることができる、新卒版ダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox(オファーボックス)」を提供。

深刻化する人手不足、雇用のミスマッチの問題などのソリューションツールとしても、HR担当者、メディアなどで注目を集めています。

2015年6月より、法人向け(to B)マーケティングにおいて、Marketoを活用。施策実行から約半年で、月のアポ獲得数30件→230件、サイトコンバージョン数60件→380件、5名前後だった自社主催セミナー参加者も毎回満員御礼となるなど、高い成果を達成しています。登録している学生向け(toC)にも、フォローメールを送信するなど活用フィールドを広げ、18年卒の利用学生数は7万人見込み、利用企業数は2300社を達成するなど、急成長を遂げています。

"神は細部に宿る"。いかに細かく、リアルに顧客の思いに寄り沿えるか

その立役者となったのが、CMOとして法人向け(to B)、学生向け(toC)のマーケティングを統括する田中氏。

元々は株式会社グロービスで法人営業に従事し、西日本の法人営業ユニットのリーダーとして法人開拓とマーケティングのキャリアを積むと同時に、グロービス経営大学院大学でMBAを取得します。

創業メンバーである現社長・中野 智哉氏、取締役・山田 正洋氏と出会ったのは、同大学院の同級生同士、ビジネスプランコンテストなどに参加したことがきっかけでした。起業を志していた2人と日本の新卒採用市場や教育のあり方について問題意識を共有するなか、若い人の可能性を広げられるようなビジネスに携わりたいと決意。新たなビジネスモデル「OfferBox」を提供すべく、12年、3人で会社を立ち上げます。

それから5年あまり、確実に業績を伸ばしている同社同様、順風満帆にキャリアを積んできた田中氏ですが、実はグロービスに入社し、法人営業に配属となった時期が、リーマンショック後に重なったそう。多くの企業が人材育成コストを大幅削減するなか、「1年間、まったく新規案件を獲得できませんでした」と明かします。

しかし、厳しい状況下で、「試行錯誤しながら顧客との向き合い方、自分なりの営業スタイルを構築していった経験が、今に役立っている」とし、マーケティング業務における顧客とのコミュニケーションスタイル、そのポリシーにつながっているといいます。

では、田中氏が考えるマーケティングのあり方、マーケターに必要な資質は何か。ポイントは大きく3つ挙げられます。

一つ目が、顧客サイドの課題や悩み、ニーズを知ること。至極、当たり前のことのようですが、「顧客の思いをどれだけ細かく、リアリティを持って考えられるかで、打つ手の精度が変わってくる」と語ります。

顧客によって異なるフェーズをとらえ、どういう興味関心があり、何が好きで嫌いなのか。

"神は細部に宿る"という言葉があるように、細かいことにこだわってこそ、理想とするカスタマージャーニーも実現します。

「逆にうまくいかない場合は、顧客の理解度が浅いことが多い」とし、その分析ツールとしてMarketo を活用しつつ、常にカスタマーオリエンテッドな視点に立ち戻ることが大事だと語ります。

ザ・リッツ・カールトンやディズニーランドを目標に心地よい体験を提供

それと関連し、第二に挙げるのが、顧客が嫌がることをしないこと。

またもや当然のことのようですが、電話のアポイントやメール施策においても、つい「売らんかな」の姿勢で、相手に不快感を与えていることは意外に多いもの。

「営業やマーケティングに関わっているメンバーにもよく話すのが、一番大事なのは、お客様にまた会っていただけるか。お客様にとって価値ある情報を提供し、喜んでいただければ、次がある。こうしてコミュニケーションを蓄積していけば、いつかチャンスは巡ってくる」と田中氏は言います。

マーケティングも同様で、顧客の興味、関心時に合わせた情報をタイムリーに届けることを重ねていくことが大事で、逆に興味がないときにはぶしつけなアプローチをしない。つまり嫌がられることをしないということです。

「当社がマーケティング施策として、送信するコンテンツの質と、採用担当者のフェーズに合わせた内容の細分化にこだわったのも、そのためです」と語り、人材業界にありがちな、かたっぱしからリストの上から電話をかけるようなやり方は、「顧客にとっても、営業担当者にとっても無用な負荷でしかない」と言います。

目指すは、ザ・リッツ・カールトンやディズニーランドといったサービス業の視点に立ち、とにかく心地がよい体験(ユーザーエクスペリエンス)を提供すること。

まさに、前職の法人営業で悪戦苦闘しつつ、数年ごしで大型案件を獲得するような経験を踏まえての田中氏ならではの知見といえます。

フォワード(営業)に、いかに確度の高いセンタリングを出し続けられるかが大事

第三のポイントが、前線に立つ営業の良きアシスト役であること。

「企業にとって、新卒採用は年1回の長期スパンで考えるべき高い"買い物"です」(田中氏)。よって、オンラインだけで受注となることはなく、しっかりと採用担当者に相対し、リアルなコミュニケーションで寄り添う営業担当の存在が必須となります。

その前線に立つ営業をアシストするのがマーケターであり、「サッカーでいえば、営業担当者はゴールを決めるフォワード。フォワードに対し、どれだけ確度の高いセンタリングを出し続けられるか。あるいはキーパーにはじかれた際に、もう1回、球を拾って、再ゴールを狙うべくアシストできるか」がマーケターに課せられた重要な役割だと田中氏は言います。

さらに言えば、スタープレイヤーばかりのチームであれば、マンパワーだけで華麗なゴールを決められても、ミドルレンジのメンバーで、しかも長期スパンで"勝ち続ける"のはハードルが高い。

特に競合大手がひしめくレッドオーシャンな人材サービス業界で、新興企業が属人的な気合と根性だけで打ち勝っていくには限界があり、「マーケティングオートメーションのようなテクノロジーの力でレバレッジを利かせることが肝要」と田中氏は語ります。

同社が、時短・在宅勤務の育児中の社員を数多く雇用し、成功報酬型30万円/名という業界最低水準の価格帯実現と業績アップを両立させているのも、テクノロジーを活用し、顧客とのコミュニケーションの量、質の拡大を実現しているからこそなのです。

「今後も競合他社と異なるやり方、経営手法で成長優位性を追求していきたい」と今後の抱負を語る田中氏。

同社の「Offer Box」のコンセプト然り、多様な個の力を引き出し、生産性向上を目指す「働き方改革」を実践する先端的事例としても、多くの企業にとって参考となる視点があるのではないでしょうか。

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