マーケターに必要な素養は何なのか。そして、マーケティングの将来像はどうあるべきか。マーケティングの近未来について、現場のマーケターにズバリ斬り込む「Tomorrow's Marketer」も12回目を迎えました。

今回、ご登場いただくのは、株式会社リクルートライフスタイルのAir事業ユニット・カスタマーエクスペリエンス(CX)チームリーダーの遠田 望氏です。

同社は、リクルートグループの一員として、日本最大級の宿・ホテル予約サイト「じゃらんnet」、レストラン予約・グルメ情報サイト「ホットペッパーグルメ」、オンラインショッピングモール「ポンパレモール」といった日常消費領域に軸足を置き、サービスを提供してきました。

そこに2013年11月、新たな業務支援サービスとして加わったのが、レジ業務がスマートフォンやタブレットで行える上に、0円でカンタンに使えるPOSレジアプリ「Airレジ」です。

iPadなどの画面上で直観的に操作でき、売上や売れ筋などもリアルタイムに把握できます。面倒だったレジ締めも10分程度で完了し、経営判断に必要な数値の分析も簡単にできる使いやすさが、日々忙しい店舗オーナーの高い支持を集めています。

しかも、ランニングコスト0円という手軽さもあり、17年3月末時点でアカウント数が27.9万を突破。今や利用店舗数No.1のPOSレジアプリへと成長した「Airレジ」を中核に、予約管理をシンプルにするWebサービス「Airリザーブ」、待ちの不満を解決する受付管理アプリ「Airウェイト」など、BtoBビジネス領域を拡大しています。

遠田氏が率いるCXチームでは、これらAir事業における顧客接点に関わるコミュニケーション全般をマネージ。主に「Airレジ」を導入検討している見込顧客や導入済みの顧客に対し、購入から利用に至るまでのCX向上を図るべく様々なサポート、コミュニケーションを実践しています。

「テクノロジーの力で、もっと広くリアルなビジネスを変えたい」という一心で...

まずは遠田氏のキャリアを紐解くと、元々はエンジニアとして受託開発に関わるなど、開発畑でキャリアを蓄積。

その後、「自社サービスを手掛けたい」という思いから、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)に転職。店舗のPOSやバックエンドのシステムの両者を管轄するIT部門に所属していました。

"日本一オシャレな書店"とも言われる代官山の蔦屋書店開業に合わせ、店内のIT企画を担当。書籍検索端末、レストランのメニュー、試聴機といった店内施設のiPad化などを推進したと言います。

これらの経験を経て「テクノロジーで、もっと広くリアルなビジネスを変えられるような、新たなサービス提供に関わりたいと考えるようになりました」と振り返る遠田氏。

そのタイミングで「Airレジ」をリリースしようとしていた同社との出会いがあったとは、まさに運命的ですが、それから約3年。

日々、BtoBマーケティング、そのCX向上に取り組む中で、何に注力し、どのようなポイントを重視しているのでしょうか。

まず、一点目として挙げるのが、あらゆる顧客接点を探り、拡大していくことの大切さです。

実は、「Airレジ」をリリースした当初、我々のチームの役割といえば、ヘルプデスクに寄せられる疑問や相談に対応するといったインバウンドの施策がメインでした。

しかし、ここで浮上した課題が、せっかく「Airレジ」を導入したものの初期設定でつまずいたり、機能を使いこなせなかったりといった顧客の声が意外に多いということ。

「Airレジのお客様の多くは、スモールビジネスで人員のリソースにも限界があり、ITツールに不慣れな方も多いのです」と遠田氏。

ならば、インバウンドで問い合わせを待つだけでなく、先回りをして課題解決ができないか。その思いから、新たにアウトバウンドチームを結成します。

まずは、顧客行動の分析を経て、ハードルとなっている問題点を把握し、初期設定などをサポートするステップメールを配信。

こうして問題点、課題感を整理した上で、架電により顧客の疑問、相談に個別に対応する二本立ての作戦を実施。デジタルとアナログな合わせ技により、アクティブユーザーへの育成、支援を実践しています。

UI/UXを考える際には、「使いやすさ」だけでなく、顧客の「納得感」を重視

それに関連し、二つ目に挙げるのが、テクノロジードリブンに終始しないこと。

AI、ビッグデータ、IoTといったバズワードが頻出する時代にあって、「とかく最新のテクノロジーを使って、何か新しいサービスを提供したいと考えがちですが、こうしたテクノロジーありきの発想はうまくいかないことが多いです」と遠田氏。

マーケティングでも、CXでも、大事なのは「顧客にどのような体験、価値を提供したいのか」。そこを基点に、フィットするテクノロジーを考えるという順番の大切さを、日頃からチームのメンバーにも伝えていると遠田氏は言います。

メール配信だけでなく、あえて電話によるアナログなコミュニケーションも活用しているのもそのためで、特に信頼関係がカギとなるBtoBにおいては、「電話でフォローする。あるいは店舗に直接出向いて話を伺うといった、アナログな手法の併用が欠かせない」と指摘。

人対人の繋がりが基軸となる店舗運営をサポートするからこそ、リアルなコミュニケーションも重視し、ヘルプデスクに寄せられる電話の問い合わせについても、制限時間の目安を特に設けることなく、納得感、満足感を第一に対応しています。

三点目に挙げるのが、UXとCXは、時に似て非なるものということ。

ここで遠田氏が明かしてくれたのが、「Airレジ」のリニューアルにまつわる、ややほろ苦いエピソードです。

「実は2016年、Airレジのサービス、UXを大きく変えたんです。今となっては、お客様から『前より使いやすい』と評価はいただいていますが、リニューアル当初は『なぜ変えたのか』とお叱りを受けてしまって......」(遠田氏)

特に日々の現場仕事となる店舗運営では、急に導入ツールのUI/UXが大きく変わると、たとえ以前より使いやすくなったとしても、スタッフの再教育やマニュアルの修正が必要になるなど、現場の混乱につながるケースもあります。

事前にリニューアルの告知はしていたものの、「制作・サービス提供サイドとして、『いいモノを作ったから喜ばれるはず』といったエゴがあったかもしれない。深く反省をしました」と振り返る遠田氏。

顧客、利用者にとっては、「なぜ変わったのか」という納得感が大事であり、そこが解消されない限り、モヤモヤ感が残ってしまう。

サービスメニュー、UI/UXを変える際には、開発陣とも連携しつつ、事前に時間をかけ、しっかりとイチから理由や背景についてもコミュニケーションをする。こうしたひと手間がCXを大きく左右すると指摘します。

そもそも、テクノロジーの力で店舗運営をサポートし、店舗オーナー、スタッフに売上アップにつながるサービス向上に注力してほしいという思いから生まれた「Airレジ」ですが、今や、日本国内だけでなく、海外のお客様にも利用いただいています。

広告やメディアを通じたBtoBtoCのビジネス、クライアント企業とユーザーのマッチングサービスをメインに事業を拡大してきたリクルートグループとは毛色が異なる新たな領域で、いかにグローバル規模でのCX向上に挑んでいくのか。

続く後編では、弊社マルケトのコンサルタント 安竹 由起夫が加わり、対談スタイルで遠田氏が考えるCXのあり方、今後の展望に迫ります。

marketo-curstomers-blog-banner