「Marketing Nation Summit 2018」で行われた当セッションでは、サッカー界から株式会社Jリーグデジタルの笹田 賢吾氏と、ラグビー界からサンウルブズ(一般社団法人ジャパンエスアール)野田 大地氏を迎え、スポーツマーケティングにおけるファンエンゲージメントのあり方についてお話を伺いました。

来年のラグビーW杯、2020年の東京オリンピック開催を前に、盛り上がりを見せているスポーツマーケティング。スポーツ業界では、"ファン"をどのような人たちだと定義し、どんな関係を目指しているのでしょうか。Marketoの導入を決めた両社の狙いに迫りました。

<パネラー紹介>
株式会社Jリーグデジタル
プラットフォーム戦略部 部長 笹田 賢吾氏

ニフティ株式会社にてWEBサービス事業の責任者(事業部長)、経営戦略(事業戦略担当)、新規事業開発(イノベーション担当)などに従事。2015年から公益社団法人日本プロサッカーリーグへ転身。グループ再編により株式会社Jリーグデジタルに在籍し、Jリーグのデジタルマーケティング戦略を担当。

サンウルブズ(一般社団法人ジャパンエスアール)
ゼネラル・マネジャー 野田 大地氏

2009年にゴールドマン・サックス日本法人入社、2016年まで同社バイスプレジデントに在籍。アナリストとして金融セクターの展望レポートの作成、企業の財務分析、株式の投資判断、増資やIPO関連業務等を行う。2017年より現職。ビジネス部門全体の事業企画と運営、シンガポール・香港での主催試合の運営統括等を行う。

<モデレーター紹介>
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社
アンバサダー事業部 営業チームコミュニケーション・デザインユニット チーフ・コミュニケーション・デザイナー 水口 麻希子氏

広告制作会社、デジタルエージェンシー、総合広告代理店などを経て、2012年にアジャイルメディア・ネットワークに入社。現在は、一般消費財メーカーからJクラブまで多岐に渡るクライアントに対し、ファンベースを軸としたプロモーション・マーケティング活動を支援する、チーフコミュニケーションデザイナーとして従事している。

ラグビーファンをサンウルブズファンにするために

水口:これからスポーツにおけるファンエンゲージメントについて伺っていくのですが、まずは野田さんから現在の取り組みについてご紹介いただけますでしょうか。

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アジャイルメディア・ネットワーク株式会社
アンバサダー事業部 営業チームコミュニケーション・デザインユニット チーフ・コミュニケーション・デザイナー 
水口 麻希子氏


野田:
私は高校1年生でラグビーを始めてから、ラグビー発祥の地である英国の大学を卒業するまで、ラグビー漬けの日々を送ってきました。新卒でゴールドマン・サックスの日本法人に入社して、保険会社の株式アナリストとして従事した後、2016年にサンウルブズの運営法人であるジャパンエスアールに入社しました。

サンウルブズは、ラグビーのプロ球団です。選手に年俸を支払ってプレイしてもらい、そのアセットを使ってお金を稼ぎます。そこで私はスポンサーシップ・チケッティング・ファンクラブといったビジネス部門の統括をしています。

サンウルブズのユニークな点は、日本のリーグではなく、スーパーラグビーという世界最強の4カ国が集うプロラグビーリーグに所属しているところです。また、日本だけでなくシンガポールと香港でもホームゲームを行っており、過去に所属した選手は10カ国を超える多国籍チームになっています。とはいえ、リーグに所属する他のチームが強豪ぞろいということもあり、全15〜16試合のうち発足初年度の2016年は1勝、2017年は2勝、今年は3勝という中で、来年のスーパーラグビーシーズンでのプレーオフ進出、そしてサンウルブズの多くのメンバーから構成される日本代表がW杯で結果を出すという大きな目標を掲げています。

サンウルブズの国内試合が行われるのは秩父宮ラグビー場です。2015年に五郎丸フィーバーで火がついたラグビーブームによって、サンウルブズ元年である2016年2月の開幕戦のチケットはSold Out。そこから社会の注目が薄れていくにつれ、約1万8000人だった2016年の平均観客数から、2017年は約1万4000人、今年は約1万2000人へと減少の一途をたどっていて、かなり集客に苦戦しているというのが正直なところです。

いかに固定のお客様を獲得するかという課題に対し、2017年にファンクラブ「SUNWOLFPACK」を発足しました。目標会員数1万人に対し、3000人しか入らないという厳しい門出だったのですが、"サンウルブズのファンクラブに入ると来年のW杯チケットの最先行抽選に申し込める"というキャンペーンを実施した結果、9000人にまで会員数を増やすことに成功しました。しかし、そのほとんどはW杯のチケットが目的ですから、ファンクラブからの平均来場者数は、依然として各試合3000名から増えていません。

キャンペーンによって多層化したファンに対し、エンゲージメントの高さに応じた適切なメッセージを届けたいということで、来場しないファンクラブ会員を"アクティブ化"するために、Marketoの導入に至りました。

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サンウルブズ(一般社団法人ジャパンエスアール)
ゼネラル・マネジャー 野田 大地氏

Jリーグが先導するクラブチーム全体のデータ活用

水口:次に笹田さん、お願いします。

笹田:私はもともとWeb業界で18年くらいWebサービスをやってきました。2015年4月にJリーグに転職し、現在はデジタルマーケティングの責任者をしています。Jリーグは2017年4月にグループ再編を行い、デジタル戦略を強化していく流れの中で株式会社Jリーグデジタルが発足しました。現在(11月2日時点)、Jリーグの加盟クラブは38都道府県54クラブです。

世界的に見ると、スポーツ産業自体は伸びているものの、日本では伸び悩んでいるのが現状です。アメリカでは、ここ20年で3倍くらいマーケットが大きくなっており、その理由としてITやデジタルを活用している点が挙げられるので、我々も見習っていきたいと考えているところです。今年25周年を迎えたJリーグですが、2015年から3年連続で延べ来場者数が1000万人を突破しており、各クラブの収益も合わせると1300億円くらいのマーケットになっています。

私が2015年に入ってから、全クラブにヒアリングをして課題調査をしたところ、顧客データの整備に課題を持っていることがわかりました。そこで2016年にシステムを整備し、昨年から共通の顧客データベースの運用を始めています。具体的には、サービスごとに存在していたIDを「JリーグID」に統一し、チケットやグッズのECサイト、公式アプリ、スタジアムWi-Fiなど、そのIDを活用できる場を増やしています。そうしてIDに紐付いたデータは、すべてマーケティングデータベースに統合されており、今後はプライベートDMPやMarketoを使って、よりパーソナライズしたコミュニケーションを図っていきたいと考えています。

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なぜ、このような取り組みを行っているかといえば、ひとえに顧客体験の向上と、それにともなうビジネスの拡大を狙っているからです。ここで大事なのは、環境整備だけでは意味がなく、各クラブにデータを有効活用してもらう必要があります。この2つが成立しなければビジネスはうまくいかないと思っていますので、デジタル人材の育成を目的とした集合研修を月一で行っており、現在54クラブ中49クラブが参加してアクティブな活動を行っています。

今、Jリーグでは来場回数と観戦経験の有無によって、ファンを6層に分けて定義しています。現状、JリーグIDのユーザー層はライトファンが非常に多いので、"この人たちをいかに右側のマニア層に引き上げていくか"ということと、スタートから1年で100万人を突破している"JリーグIDの規模をさらに増やすこと"が大切だと考えています。

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今回、Marketoを導入して、よりきめ細かいコミュニケーションをしていくことで、新たにJリーグIDを取得したり、SNSを見たりした方に対して、まずは最初の観戦につなげて、その後リピートしていただけるようなコミュニケーションを型化したりしていきたいと考えています。

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株式会社Jリーグデジタル
プラットフォーム戦略部 部長 笹田 賢吾氏

多層化するファンに個別最適なメッセージを届けたい

水口:一般的に"ファン"といえば、いつも観戦に行く人・応援している人というイメージがあると思いますが、スポーツマーケティングにおけるファンとは、そのスポーツを好きな人全体を指すのか、それともチームのファンだけを指すのか、どちらでしょうか。

野田:ファンの定義は難しいですが、ラグビーだとチームに帰属しない形で、ラグビーファンと自認している方が多くいらっしゃいます。その一方で、サンウルブズに愛着を持ってくださる方もいるので、多層化したファンがいると考えています。

笹田:Jリーグは地域密着がベースにあるので、クラブについているファンが、一番熱量の高いファンです。その外側に、もう少しぼんやりとサッカーファンやJリーグファンがいると思っています。

水口:その上で、エンゲージメントについては、どのように捉えていらっしゃいますか?スポーツにおいてエンゲージメントを測るものは、SNSのいいね!やRT(リツイート)の数だけではありませんよね。

野田:SNSのエンゲージメントを軽んじているわけでは決してありませんが、それ以上にエンゲージメントといえば"実際クラブに収益が落ちるか"という目線で見てしまいますね。試合に一回でも来てくれた人やファンクラブに加入してくれた人が、エンゲージメントの高い人だと思っています。

笹田:同じく、Jリーグの情報に触れてもらうためにSNSは非常に重要ですが、やはり試合に来てもらうことも大切です。最初は誰かに誘われて来る人がほとんどなので、その人たちに"JリーグIDに登録してもらう"というのが一つのポイントになっています。

水口:サンウルブズの場合、国内試合が年間6試合しかないということで、1回の来場に対する重みが変わってきますよね。

野田:そうですね。しかし、リーグ自体は世界中でやっていますので、どうやってファンをつなぎとめて、満足してもらうかというのは、大事な点だと思っています。

水口:そうしたところもMarketoの導入につながったと思いますが、お二人はこれからMarketoで何を実現されたいですか?

笹田:導入を決める前に、手動でメールを配信してみたところ、40%以上の開封率があり、さらにそのうち半分がクリックされていました。世間で言われているよりも、Jリーグのお客様に対しては、メールマーケティングの価値が非常に高いことがよくわかったので、ファンの層別で、よりきめ細やかにコミュニケーションしていくために、Marketoでシナリオを作って自動化していきたいと考えました。

野田:我々はファンクラブ専任の担当者がおらず、他の業務を兼任している状態なので、ファンクラブの方とのコミュニケーションに割ける時間が限られている中、先ほど申し上げたW杯キャンペーンによって多層化したファンに向けて、できるだけ手間をかけずに、それぞれに合ったコミュニケーションを図っていきたいという思いで、Marketoの導入を決めました。

水口:なるほど。個別最適でコンテンツを提供していきたいというところが共通しているのですね。そうやって丁寧にエンゲージメントを高めた先の未来として目指す姿をお聞かせください。

笹田:スポーツ産業全体を大きくして、サッカーを通じて社会課題を解決することが一番大切なことだと思っています。スポーツビジネスで一番大事なのは、箱の収容率、つまりスタジアムが埋まっているかどうかなのですが、世界の5大リーグではすべて平均来場者数が2万人を超えています。今Jリーグは去年の実績で1万8900人なので、ここをまずは超えていきたいですね。

野田:国内で試合がないときでも、ファン同士が集まって、海外で開催している試合を応援してもらえるような文化を作っていきたいということと、あとはW杯に行きたい人たちに、少しでもサンウルブズに振り向いていただいて、秩父宮ラグビー場を満員にしたいと考えています。

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両社ともファンを一括りにするのではなく、熱量に応じたメッセージを届けるために、Marketoを使っていきたいとのことでした。2020年に向けて、今後さらに熱くなってくるスポーツマーケティング。ファンと真摯に向き合うその取り組みから、ますます目が離せません。