働き方改革、深刻化する人手不足などを背景に、企業間の人材獲得競争は熾烈を極めています。さらに就活ルール廃止の議論なども受け、企業と個人の関係構築のあり方も問われるなか、セールスマーケティングの手法を採用に生かす「採用マーケティング」が注目を集めています。「Marketing Nation Summit 2018」で行われた当セッションでは、マルケトを含めた3社の採用マーケティングへの考え方、具体的な取り組みについて紹介しました。

<パネラー紹介>
株式会社ビズリーチ
人事本部 採用マーケティング室 マネージャー 冨里 晋平氏

2007年に神戸大学工学部卒業後、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(株)に入社。 広告主へのアクセス解析やオンライン広告のコンサルティングに従事。15年に(株)ビズリーチに入社。プロダクトマネージャーとしてサービスの戦略設計などを担当。18年に人事本部へ異動。採用ブランディングや採用活動においてMAの活用を推進している。

株式会社NTTデータ
人事本部 人事統括部 採用担当 部長 髭 直樹氏

2000年NTTデータ入社。大規模銀行向けの開発プロジェクトでシステムエンジニア、プロジェクトマネージャとして数々のサービスを開発。その後人事本部へ異動し、全社育成戦略の策定や海外グループ会社での研修講師を担当。17年からは採用責任者となり、「採用One Team」を掲げ、新しいチャレンジに取り組む組織への変革を目指している。

<モデレーター紹介>
株式会社マルケト
タレントエンゲージメント & セールスオペレーション ディレクター 千葉 修司

大日本印刷で人事総務を担当後、マーサージャパン、アクセンチュアにて組織・人材マネジメント分野従事。その後、セールスフォース・ドットコムを経て、マルケトで組織人材開発施策企画・運営(Sales Enablement)を担当。2018年に新設された人事領域全般を担当するタレントエンゲージメント部を担当し、採用マーケティングや人事制度設計を推進。

属性、関心、"就活熱"ごとのセグメンテーションにより、適切なアプローチを実現

千葉:今回はエンゲージメントをキーワードに、企業と個人の関係性や採用のあり方、そこに果たすマーケティングの役割についてディスカッションをしていきたいと思います。

では、まず採用マーケティングに取り組まれるにあたっての課題についてお伺いできますか。

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株式会社マルケト
タレントエンゲージメント & セールスオペレーション ディレクター 千葉 修司

髭:当社では、毎年、新卒で400名超を採用し、近年は労働市場の流動化を背景に、中途採用にも力を入れています。新卒採用だけで数万人の学生に会っていますが、ありがたいことに、新卒の人気ランキングでも上位につけ、認知度もある程度高い。しかし、ITビジネスの「サービス化」が進むなか、情報システムを勉強したからといってIT業界を志望する時代ではなくなっています。

また、事業ポートフォリオもグローバル化が進み、より広く、高付加価値なサービスが求められるなか、多様なバックボーンを持った人材を獲得する必要性が高まっています。そのためには、待ちの姿勢ではなく、広く候補者に積極的にアプローチし、いかに「攻めの採用」に転じるかが課題となっていました。

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株式会社NTTデータ
人事本部 人事統括部 採用担当 部長 髭 直樹氏

冨里:当社は、2009年に創業し、どう知名度を高めていくかというフェーズからスタートし、現在は約1300名の社員が在籍しています。しかし、創業10年目を迎えた今も、候補者の方々が持っているイメージと、会社の実態とのギャップに開きがあるのは悩みの一つです。

CM効果もあって、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」や、挑戦する20代の転職サイト「キャリトレ」は徐々に認知度が上がっていますが、その他の事業については知られていない。

また、全社員の3分の1程度がエンジニアやデザイナーですべてのWebサービスを自社で開発しているのですが、転職・人材紹介の会社というイメージから、エンジニアやデザイナーの転職先として想起されにくい点も挙げられます。

加えて、新卒含め社員数の伸びが前年比+40%を超えるのですが、今後は人数の成長だけではなく、入社後の活躍を見据えた採用を実践していきたいと考えています。マーケティングで言うカスタマーサクセスのような考え方を取り入れるべきではないかというのも、人事部門に移ってからの問題意識です。

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株式会社ビズリーチ
人事本部 採用マーケティング室 マネージャー 冨里 晋平氏

千葉:テーマとなる候補者とのエンゲージメントに通じるポイントですね。では、具体的な取り組みについて髭さんからお話しいただけますか。

髭:今回、新卒採用に関してお話ししますと、一口に学生といっても属性や興味・関心などによって多様なタイプに分けられます。タイプ別に適切にアプローチしていく上で、まず学生のセグメントからスタートしました。

従来の文系、理系、男女といった分類に、首都圏、地方、留学生などの項目も加え、自由応募、推薦、インターンなどの流入経路も考慮したセグメンテーションを実践。認知度やリーチの状況に合わせたヒートマップを作成しました。

千葉:まさにマーケティングの手法と同じですね。

髭:加えて、注力したのが学生の就活熱(得ている情報量)を意識したアプローチです。

同じ就活生でも、夏のインターンから継続的に活動するタイプもいれば、3月の解禁時期にも出遅れてしまうタイプもいる。また、採用現場で気づいたのが、他業界から内々定を得た後、考え直して別の業界も見てみようという学生も少なからずいるということでした。

画一的な自社説明会の場だけでなく、個々で異なる就活熱に合わせて情報を提供していくことも肝要だと捉えています。

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千葉:現在議論されている就職協定の撤廃が実現されれば、さらに時間軸が長く伸びることになりますが、"就活熱"というセグメントを入れることで、個々人の"やる気スイッチ"に合わせた情報提供が可能となるわけですね。

多様なセグメントに応じてOne to Oneマーケティングをやっていく上で、オンライン、オフラインの掛け合わせについてはどうお考えでしょうか。

髭:オンラインではホームページ、Webセミナー、Twitter、オフラインではインターン、説明会、OB訪問など、既にコンテンツ自体は豊富にあるものの、大事なのは両者の結合だと考えています。

例えば、最近のトレンドとしては、「OB訪問はしない」という学生も増えています。しかし、私の経験からしてやっぱりオンラインだけではなく、実際に会ってみないとわからないことがある。

ならばオンラインで興味を持たせて、オフラインに引き込むか、あるいはその逆か。また、私自身、リクルーターなどを経験して思うのは、学生に気づきや宿題を与えていくことで、彼らはどんどん成長していくんですね。

だからこそ、オンラインとオフラインのコンテンツを有機的に結合させ、Marketoなどを活用し、セグメントごとの心理、行動特性を踏まえて情報提供し、育成につなげていく。いわば「採用プロセスを通じたナーチャリング」は今後、さらに強化したい分野です。

「採用マーケティングファネル」で候補者体験および入社後のロイヤリティ向上も図る

千葉:実に興味深いですね。では、続いて冨里さん、先に挙げられた課題を踏まえた具体的な取り組みについて伺えますか。

冨里:当社の代表が常々言っているのが「事業づくりは仲間探し」。そのモットーのもと、創業当初からリファラル採用の実践や、エンジニア勉強会などを開催し、参加者の中にいい人がいたら面談につなげるなど、地道な取り組みを繰り返してきました。

その蓄積が、16年12月の採用マーケティング室立ち上げにつながり、翌年から採用ブログ「Reach One」をスタート。そこから約1年、ブログを見て応募してくださる方も増え、次第に成果が上がってきている状況です。

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千葉:まさに施策をくり返し、成果を積み上げてきていらっしゃるわけですね。

冨里:その取り組みの仕組み化として、作成したのが「採用マーケティングファネル」です。私自身、マーケティング業務の経験から、「認知、興味、応募、選考、面談、面接、オファー」という採用の流れは、まさにBtoBの商談化につなげるファネルと同じで、候補者体験を向上し、入社に導くとともに、入社後のオンボーディング(定着プロセス)、ロイヤリティを持ってリファラル採用に繋げるといった取り組みもカスタマーサクセス同様、"エンプロイーサクセス"への取り組みとして捉えています。

さらに、当社では事業の特性から、ATS(採用支援システム)を自社で開発しています。ATSの運用で大事なのが、候補者のデータベースを中心に置き、状況を正確に把握すること。その上で、例えばどのタイミングでどういったコンテンツを出すべきか。その管理ツールとしてMAを活用しています。

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千葉:ありがとうございます。当社でも「採用=マーケティング」という考えから、そのエンゲージメントツールとして、「コンテンツ×MA×ATS」構築を進めて参りました。

コンテンツに関してはPR Table、MAはMarketo、ATSではHRMOSを活用し、ファネルの全体を設計、推進。この数カ月でようやく成果も出始めています。

最後に、今後の展望やテクノロジーの役割などについても、お一人ずつうかがえますか。

髭:人材獲得は事業の継続性を左右する大きなファクターです。その観点から「採用One Team」を合言葉に、全社員で採用活動に取り組む重要性をメッセージとして伝えています。

その上ではテクノロジーの活用も肝要。省力化をはかりつつ、候補者のアクションを軸にした中長期的なエンゲージメントをはかっていければと考えています。

冨里:セールスマーケティング同様、採用とは"ファンづくり"のようなもの。そのためには、今いる社員がビズリーチのファンとなり、いかに別のファンを連れてくるか。社員全員の意識の醸成も含めた仕組みづくりが、採用マーケティング室のミッションと捉えています。

テクノロジーの強みはスピード感を持ちながら試行錯誤し、改善をはかっていけること。その成果をお客様にも還元していければと考えています。

千葉:当社も、テクノロジーをフル活用しながら、企業と個人の出会いから採用、育成を含め、時代にあった採用スタイルを模索していきたいと思っています。本日はありがとうございました。

今回のセッションを通じて、改めて就職・転職活動とセールスマーケティングには高い相似性があることが明らかとなりました。今後は、採用の世界でも候補者の属性や感情に寄り添いながら、エンゲージメントをはかるという手法が主流になっていくことが予想されます。そこにテクノロジーが果たす役割もさらに大きくなっていくのではないでしょうか。