Marketing Nation Summit 2018」で行われた当セッションでは、AI時代の働き方についてお話を伺いました。様々な分野でAIに注目が集まるなか、私たちの働き方は今後どのように変わっていくのでしょうか。AIとともに働く未来について紹介します。

<パネラー紹介>
経済産業省
商務情報政策局 総務課長 伊藤 禎則氏

1994年に入省し、日米通商交渉、筑波大学客員教授、大臣秘書官等を経て、産業人材政策室参事官として、政府「働き方改革実行計画」策定に関わる。「多様な働き方」の環境整備、リカレント教育、HRテクノロジー推進などを担当。2018年7月から現職。経産省のAI・IT政策を統括し、企業組織のデジタルトランスフォーメーションを推進。

Japan Digital Design 株式会社
代表取締役 CEO 上原 高志氏

三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、産業調査でアナリスト(小売)を7年務めた後、企画部にて経営計画策定や取締役会等の運営を担当。その後、電子債権事業を立案し、日本電子債権機構を日本初の事業化に成功。2016年、MUFGイノベーション・ラボ初代所長に就任、翌年同ラボをスピンオフさせJapan Digital Designを設立。代表取締役CEOに就任。

<モデレーター紹介>
日本放送協会(NHK)
報道局 経済部 記者 野上 大輔氏

1987年神奈川県生まれ。NHK入局後、報道記者としてキャリアをスタート。警察・司法分野の記者を経て、報道局経済部に所属。経済産業省・通商分野や総務省の担当後、2015年より情報通信・IT業界を担当。IT大手やベンチャー企業の取材を続ける。これまでに「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代」などを放送。

国と企業、それぞれの目線で見る、これからのAI戦略

野上:私は記者として情報通信とIT業界を担当しているので、本日ご登壇いただいたお二人は私にとって最先端の取材先でもあります。まず、伊藤さんは政府の中枢で働き方改革を進められたわけですが、今のポジションについて教えていただけますか。

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日本放送協会(NHK)
報道局 経済部 記者 野上 大輔氏

伊藤:これまで経済産業省で人材政策の責任者を2年半務めている間に、「働き方改革」や「人生100年時代」の社会人基礎力やリカレント教育に携わってきました。7月からは商務情報政策局という部局で、AIやIT政策の統括をしており、来年のG20に向けて、日本のAI戦略について取り組んでいます

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経済産業省
商務情報政策局 総務課長 伊藤 禎則氏

野上:続いて、上原さんは三菱UFJ銀行からスピンアウトしたフィンテックベンチャーであるJapan Digital Design 株式会社(以下、JDD)を率いていらっしゃいますが、現在の取り組みについて教えてください。

上原:私は新卒で銀行員として入行し、小売のアナリストや事業開発、またスタートアップ支援や新規事業開発に携わってきました。その延長線上で、新しい金融体験をつくるべくJDDを創業し、テクノロジーとビジネスを掛け合わせた取り組みを行っています。4月にJDD内にAIモデルの開発・研究・実装を進める「MUFG AI Studio(通称M-AIS)」を立ち上げ、外部のデータサイエンティストをヘッドハンティングしながら、来年度の事業化に向けて取り組んでいるところです。

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Japan Digital Design 株式会社
代表取締役 CEO 上原 高志氏

野上:外部から人材を登用されているとのことですが、JDDの社内構成はどのようになっていますか?やはりエンジニアが多いのでしょうか。

上原:JDDの設立当初はMUFGの10人でしたが、1年経った今は80人を超えています。特徴としては、3種類の人材がいることですね。まず35行の地方銀行さんと連携しているので、各行から1人ずつ計35人のトレイニーが来ています。それからエンジニアとデザイナーが20人強いて、データサイエンティストが10人くらい。非常に多様なバックグラウンドの方が働いています。

野上:これまでの銀行の組織とは全然違いますね。現在、進めているプロジェクトはどのようなものですか?

上原:車にATMを搭載した「ATM mini」という"移動式ATM"では、どんなところでどのくらいのフィーだったら回るのかとか、ATMでクロスセルできる商品を模索するために、今秋から音楽フェスや花火大会などで実証実験を重ねているところです。あとは、JDDと「みんかぶ」が共同開発する保険ロボアドバイザー「みんかぶ保険」や、中国のSNS最大手Tencentと一緒にWeChatアプリ内で動画を投稿するコミュニティサービス「第j站(jStation)」、クラウドワークスとジョイントベンチャーをつくって、フリーランス向けのデジタル・ウォレットアプリケーションの開発に取り組んでいます。

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いずれも共通しているのは、"いかに人々とのタッチポイントを持つか"というチャレンジだということです。金融が持つデータは属性情報以外、あまり有意義なトランザクションではないため、直接ユーザーとタッチすることが非常に大切だからです。

人口が減り続ける日本ではAIを恐れなくていい

野上:AIで働き方の変革の時代が来ると言われていますが、伊藤さんはAIが労働市場にもたらす変化は、どのようなものだとお考えですか。

伊藤:来年のG20に向けて、各国と話をしていて痛感するのは、AI・データに牽引される"第4次産業革命"によって、雇用や産業構造が大きく変わるということです。世界各国共通の悩みの種であると言えるでしょう。ブレグジットやトランプ大統領の誕生の背景にもなっているであろう、"第4次産業革命"からこぼれ落ちる中間層の不安や不満をどう解消していくのか。"AIが人間の雇用を奪うのではないか"という議論が、その最たる例です。

ここに答えはないものの、実は日本にはアドバンテージがあると思っているんですね。「人口が減る」ということ自体がピンチであると同時にチャンスを生みます。これだけ急激に人口が減っている日本では、むしろAIやロボットと人間が共存しないことにはやっていけないという思いが、みなさんの中にもあるのではないでしょうか。したがって、日本ならではのAI戦略として、"AIと人間が対立するのではなく、AIと人間が共存していく"というビジョンを打ち出していきたいと思っています。

野上:メディアでは"AIとどう対峙していくか"という論調が多いですが、そうではなく"AIと協調していく"べきではないかということですね。上原さんはどう思われますか。

上原:マニュアル通りにやるというのはAIやロボットが得意な領域なので、より意識して、自分の基本特性を出していかなければならなくなるとは思います。最終消費者である人間は曖昧で気まぐれな生き物じゃないですか。本来100点のサービスでも、なぜか70点と言われたり、いつもと同じ70点のサービスを提供していても、今日は120点と言われたり。だからこそ、お客様とのインターフェイスでは、人間の役割はなくならないと思いますね。

あと、AIのアルゴリズムをつくるデータサイエンティストは、論文に書かれたアルゴリズムを回してみたいとは思うけれど、それを何に使うのかということには興味がないことが多いです。だからこそ、ビジネスでAIを生かすには、テーマ選定やゴール設定をする人が別に必要で、その二者をつなぐ接着剤になる人も絶対に欠かせません

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伊藤:おっしゃる通りだと思います。例えば、私たちが子供の頃は、駅に切符を切る人が必ずいましたが、今は自動改札機になっていますよね。同じように、いずれ自動運転化されるようになれば、運転士は必要なくなります。しかし、車掌はどうでしょう。車掌はいろいろな仕事をしていますよね。酔っ払いのケンカを仲裁したり、急病の人がいたら電車を停めて救護したりもします。まさにアンテナを張り巡らせて、新しい課題の発見と解決に勤しんでいます。求められるタスクと資質が変わってくるということなのかもしれませんね。

AIを取り入れた働き方改革は待ったなし

野上:仕事の最適配分という観点で伺いたいのですが、給与計算とかHRといった様々な領域で自動化の波が来ていると思います。ルーティンワークの見直しは、どう進めていくべきですか?

上原:まずうちは完全にペーパーレスです。JDDを設立するときに決めました。銀行の様々な規則を見ていくと、印鑑を押せなんてどこにも書いていないんですよ。つまりあれは、慣習なんです。あと、社内では原則30分、できれば15分以内の会議しかしません。仕事のやり方は、トップが変えてしまえばいい。抵抗は出るけれど、やってしまえばいいんです。

エンジニアやデータサイエンティストから「もっとテレビ会議を活用してくれ」という要望が出る一方で、銀行出身者は「やっぱり集まらないと」と言います。そこで私は、次の手段として火曜と木曜の午前中は出社しないことにしました。それでも会議は溢れてくるので、テレビ会議を使うしかなくなるんです。もし何か問題になれば、その仕組みを変えればいいだけですから、トップダウンでやってしまった方がいいと思います。案外変えるのは簡単ですよ。1〜2カ月でだいたい慣れてしまいますから、議論する前にやってみた方が早いです。

野上:一方で決められない企業はまだたくさんあって、それが日本の成長性を考えたときに、かなり機会損失になっていると思います。伊藤さんはいかがですか。

伊藤:上原さんのように進めようとしたときに大きな障害となるのが、"無限定正社員"の存在です。要するに、自分の仕事は上司や同僚から頼まれたこと"すべて"だという日本特有の考え方ですね。よく言えば、日本企業の働き方は可変的でフレキシブルなのですが、できる人ほど仕事が集まってしまう。仕事に対して必要な人員が配置されるのではなく、人に仕事が張り付いている状態です。生産性の向上を進めていくのであれば、自分の仕事を分解して、どの仕事はAIにやってもらい、どの仕事はアウトソースして、どの仕事は自分でやるべきなのかを明確に振り分けなければなりません。"タスクの分解"が大事なポイントになってくると思います。

上原:今の議論の前提条件は新卒プロパーの人が終身雇用で働き続けるのがベースになっていますが、我々がほしい人材は引く手あまたなエンジニアです。どの言語が必要なのか、どのレイヤーの人と仕事をするのか、といったジョブディスクリプションを明確にしていなければ、優秀な人は入ってこないし、すぐに出て行ってしまいます。採用した瞬間から出て行くリスクを抱えながら、付加価値をつくって前に進まなければならない。そうすると、必然的に"その人が最適配置されているのか"というのが、経営に直結する切実な問題となるわけです。

野上:最近ではフリーランスや副業をされている方が増えていると思いますが、制度的な見直しはまだまだ追いついていないように見えます。

伊藤:そうですね。今年の3月にモデル就業規則を改定して、制度も少しずつ整いつつありますが、一方で変わっていない部分もあります。それは企業の人事部です。個人の意識は変わりましたが、企業の人事が変わっていないのです。これからの人事は、職場が多様化するなかで、いかに人を使ってROIを高めていくかを考えなければならず、とても重要な役割になってくると思います。

野上:そんななか、これからのAIとともに働く時代に向けて、私たちはどんな能力を身につければいいのでしょうか。

上原:最初は、いろいろ興味を持つことですね。生きていれば何かしらの特技や趣味くらいはあると思うので、興味を持ったものについて、自分とは違う産業で働いている人の意見を聞いていく。そうすると、「この業界でやっていることをうちに置き換えたら、こうなるよね」といった新しい価値が生まれてきます。

これは副業でも同じことが言えます。専業で雇った瞬間から、その人が持っている情報の鮮度が落ち始めるからです。副業で他のことに片足を突っ込んでおくことで、やっていることをこちらにもたらしてくれて、企業として効率よく情報収集できるんです。

伊藤:よそへ行って自分の幅を広げるという意味では、大企業の人材を地方の中小企業に、副業で送りこむ取り組みが注目されています。とはいえ、どなたでも活躍できるわけではありません。大企業の人材で中小企業でも活躍できる人には、次の4つの共通項があると分析しています。

  1. 実績を持つ「スキル」が2つ以上あること
  2. そのスキルに「再現性」があること
  3. 自分のスキルを「自信」をもって「言語化」して説明できること
  4. 「人脈」があること

こういったことが「人生100年時代」に求められるのであれば、早くからそういった学びを意識して仕事をしていくのがいいと思います。

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野上:これから新しくAIが人材の代わりになる資本として入ってくると思いますが、上原さんから何かアドバイスはありますか?

上原:AIはチームプレーなので、必ずどこかにポジションがあるはずです。アルゴリズムをつくる人たちと、インタラクティブにコミュニケーションを図れるよう、自分のバックグラウンドに基づいたスキルを磨いていくといいのではないでしょうか。

最後に「AIと協働することを恐れずに、飛び込むことが大事なんですね」と締めくくった野上氏。AIとともに働く未来は、すぐそこに迫っているようです。