10月13日開催した「THE MARKETING NATION SUMMIT 2017」から、ファッションブランド「TOMMY HILFIGER」(トミー ヒルフィガー)を手掛ける合同会社PVHジャパンエンゲージメントへの取り組みに関するセッションの模様をレポートいたします。

テーマは「『TOMMY HILFIGER』エンゲージメントの取り組み~よりお客様に寄り沿うために~」。登壇するのは、同社マーケティング&コミュニケーションズ CRM/Digital シニアマネージャーの宮垣 香氏、さらに導入をサポートした弊社コンサルタント 大里 紀雄も加え、双方の視点から語ってもらいました。

トミー フィルフィガーは、クラシックアメリカンスタイルを提唱するグローバルブランド。宮垣氏曰く、アメリカの伝統的スタイルを進化させ、新たな"ツイスト"を加えることで、世界の人々に新鮮な感動を提供していくことがミッションだと言います。

また、ロンドンの店舗、リージェントストリート店では、同社が目指す"未来"を表現。店内のディスプレイでコレクション全体をチェックしながら、その場でオンライン購入できるなど、「デジタルとの融合を意識し、ファッションブランドとしての進化にも取り組んでいます」(宮垣氏)

チームメンバー全員が"自分ゴト"としてプロジェクトに関わる大切さ

ブランドの紹介を経て、話は本題のMarketo導入の経緯に移ります。

まずはMarketo導入前の課題について。「2013年、私が入社した当初、発信している情報といえば、月数十通、セール情報を配信するなど、お客様視点というより、ブランドとして発信したい内容がメインでした」(宮垣氏)

これが果たしてお客様のためになっているのか。もっとパーソナルな情報が求められているのではないか。そう考えた宮垣氏は、チーム全体でテクノロジーを活用した手法を模索するなか、MAの導入を検討。2015年春、ボトムアップで導入を会社に初提案します。

ところが、あえなく提案は却下され、再びチャンスが到来したのは1年後。前回と異なったのは、ITチームの存在が心強い味方となったことでした。

「前回の準備不足を反省し、MAで何を実現し、会社にどのような効果をもたらせるのか。手動でA/Bテストを実施し、何度もミーティングを重ねました」と宮垣氏。

こうして2年越しで会社のGOサインを取り付け、プロジェクトが立ち上がります。

ここで大里にバトンタッチ。コンサルタントとしての立ち位置から、Marketo導入の経緯について解説していきます。

プロジェクトの伴走者として、同社で「GTO(グレート・ティーチャー・大里)」の愛称で呼ばれていたという大里は、「今回は具体的なシナリオや施策の効果などについてはお話ししません」と言い、「それよりももっと大切なこと、根源的なポイントがある」といいます。

まず、大里が掲げた最初のテーマは「プロジェクトの体制」について。

通常、MAを導入する際は、MA会社のコンサルタントと導入企業の担当者数名で、チームを作るのが一般的です。しかし、同社の場合「広告代理店、API開発会社、保守システムを担うメンバーなど、総勢26名という大所帯のチームで進めることになりました」(大里)

このように参画者が多いと、どのような問題が発生するか。大里は「コミュニケーションが複雑になりやすい」ことを挙げます。

大前提として、シナリオを考え、Marketoで実際に施策を打って行くうえで、必要なスキルはHTMLやコピーライティング、電話を掛ける際のトークスクリプトの制作、データ連携のためのテクノロジーの知識など、多岐に渡ります。

とはいえ、プロジェクトのマネジメント担当者が、全部のスキルを網羅できているケースは少ない。そうすると、複数の部門間の調整が難しく、プロジェクトのコントロールが現場任せにもなりがち。「メンバーの連携がうまくいかず、プロジェクトが遅々として進まなかったり、逆にあらぬ方向に進んでしまったりと、トラブルが起きやすい」と大里は指摘します。

しかし、同社ではそういった事態が発生することなく、コミュニケーションが非常に円滑に進んだといいます。その理由として、大里は2つ挙げます。

1つ目が、チームメンバー全員の「プロジェクトへの主体的かつ積極的な関与」です。

往々にしてありがちなのが、導入企業の担当者がデザインやコピーライティング、Marketoの機能も分からないからと、コンテンツ制作会社やMA会社に丸投げするケース。

API開発に関しても同様で、導入企業側がデータベース構造に関して知識がないといった場合、開発会社にお任せになりがちです。

ところが、同社はコンテンツについても「こういうデザインがいい、女性が対象ならばこういう内容がいいなど、やりたいことが明確で、リクエストも積極的にしてくださった」と大里。

API開発に際しても、ITチームがマーケティングチームに「こういうデータが必要なのではないか」と積極的に提案するなど、「ITチームとマーケティングチームが、いい意味でバチバチと議論を戦わしていました」(大里)

こうして現場で意見をとことん交わすことで、コンテンツや開発についても、後からの手戻りがなく、スムーズに運んだと言います。

ここで、API開発を手掛けた担当者のメッセージを紹介。曰く、「いつ、どのデータを連携するかは、マーケティング施策によって変わってきます」。その点、同社の場合は「ITとマーケティングが、積極的に話し合い、最適なソリューションを選択されていたことが印象に残っている」と言っていたそう。

大里が、2つ目の理由として挙げたのが、「PM(プロダクトマネージャー)とのコミュニケーションパスの確立と高頻度な接触」。

「MA導入は、PMと弊社側のコミュニケーションがうまくいかないと成立しない」と大里。

コミュニケーションのポイントは、ズバリ、"量 速 頻"という大里は、PM担当のディレクターと早朝から深夜まで、多いときは5分ごとの頻度でメッセージを交換。最後は「アイコンタクトで通じ合える仲にまでなりました」と言います。

顧客視点を突き詰めていけば、自ずとシナリオが生まれてくる

続いて、大里が「今回、もっともお伝えしたい」と語る第2のテーマに移ります。それは「シナリオ(アイデア)があふれ出てくる理由」について。

MAとはマーケティングを自動化するものですが、その大前提となるのが「マーケティングで何をするか」。シナリオがあってこそのツールです。

しかも、シナリオを設計できることとツールを使いこなすことは別の話。Marketoの機能を使いこなせても、シナリオがまったく出てこないというケースも多くあるといいます。

こうした企業で悩みや相談として挙がってくるのが、「Marketoで何を自動化すればいいんだろう?」「他社の事例、取り組みを教えてもらってから、何をすべきか検討しましょう」といったもの。

一方、同社は「プロジェクト開始前から、やりたいことの明確なシナリオがあったのが大きな違いでした」(大里)

たとえば、「Marketoで実現可能なのか分かりませんが、こんなシナリオはどうでしょう?」「ジャストアイデアですが、店舗と連動してこんなことをやってみるのはどうでしょう?」

といった具合で、プロジェクト進行中にも、新たなシナリオがどんどんメンバー間から挙がってきたといいます。

こうしたミーティングを続けていくなかで、大里は次の2つのポイントがシナリオ発想の根底にあったと指摘します。

それが、

・どうしたらブランドとして多くの人に好きになってもらえるんだろう

・どうやったら、お客様の求めていることが知ることができるんだろうか

「ブランドとしていかにお客様に喜んでもらえるのか、好きになってもらえるのか。マーケティング施策案へのディスカッションのテーマはいつもそこでした」とPMのコメント。

大里は、「今日の宿題として、来場者の皆さんにも『どうしたら〇〇(自社の商品やサービス名)をもっと多くの方に好きになってもらえるのだろう』というディスカッションを、社内でぜひしていただきたい」と提言します。

ボトムアップゆえの制約が、早期の成果に結び付いた

最後のテーマが、ボトムアップ型のプロジェクト進行についてです。

大里は「トップダウン、ボトムアップのどちらが良い悪いではなく、両者ともメリット、デメリットがあります」と指摘。

ボトムアップで導入を推進した同社の場合、メリットとしては「部門間の協力体制が得やすい」「導入目的が現場で把握されており、導入スピードが速い」「自ら導入申請をしているがゆえに責任を持って、うまくいくまで改善が行なわれるケースが多い」こと。デメリットとしては、「投資判断が困難で、与えられた枠のなかでやってしまいがち」などがあると言います。

では、同社はボトムアップ型でいかにプロジェクトを成功に導いたのか。再び、宮垣氏にバトンタッチし、そのポイントについて、今後の展望も含めて語ってもらいます。

これまでの取り組みを振り返り、宮垣氏は成功のポイントとして次の5つを挙げます。

1 CRMとデジタルマーケティングの経験者がチームのコアメンバーだった

2 ITからのCRMへの高い関心と、強力なサポート体制があった

3 MAをリード獲得やリードジェネレーションからではなく、すでに繋がっているお客様とのエンゲージメントを高めることを優先した(CRMが主導)

4 ボトムアップでのスタート→後に会社からのサポート・理解を得たこと

5 プロジェクトメンバーのチャレンジ精神と情熱

あるKPIについては、MA導入からたった5カ月という短期間ながら、125%の効果が出るなど成果を達成。会社の理解も深まり、サポートもついてきたといいます。

その点では、ボトムアップのデメリットである「トップダウンよりも投資判断が難しい」についても、それゆえに「与えられたリソース内の小規模で投資したことで、優先順位をつけたシナリオの検討が可能になり、早く結果を出すことができた」と宮垣氏は振り返ります。

最後に、同社ブランドの資料から、同社が掲げる、お客様との「コミュニケーションに関する10と2分の1カ条」について触れた宮垣氏。

「その10カ条目に『聞く耳を持つ。お客様の声に耳を傾けよう。自ら長々とおしゃべりをしないこと』が挙げられています。まさにブランドの根底にも、今、同社が推進するエンゲージメントの考え方があり、そのツールとしてMarketo導入につながっていったのも必然的な流れだったのかもしれません」と語ります。

ブランドの創業者でありデザイナーでもあるトミー・ヒルフィガーはこうも提言していると言います。

肩の力を抜いていこう」。

その言葉通り、自らがお客様とのコミュニケーションも楽しみつつ、エンゲージメント向上に取り組んでいきたいと笑顔で語り、来場者の大きな拍手を浴びていました。