マーケティングオートメーション(MA)を使ったデジタルマーケティングにおいて、必ずと言っていいほど多くの企業がぶつかる壁として、組織体制や人材育成の課題が挙げられます。「THE MARKETING NATION SUMMIT 2017」で行われた、BtoBマーケティングの先駆者によるパネルディスカッション「マーケティングの組織と人材育成」では、どんな議論が巻き起こり、どのようなヒントがもたらされたのでしょうか。当日の模様をお届けします。

<モデレーター紹介>

早稲田大学大学院
経営管理研究科 教授 川上 智子氏

大阪大学文学部を卒業後、ミノルタカメラ株式会社(現コニカミノルタ株式会社)に入社。基礎研究所にて新製品開発・マーケティングに従事。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程及び神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。関西大学教授等を務めた後、2015年4月より現職。

<パネリスト紹介>

シンフォニーマーケティング株式会社
代表取締役 庭山 一郎氏

中央大学を卒業。1990年にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。データベースマーケティングのコンサルティング、インターネット事業など数多くのマーケティングプロジェクトを手がけ、97年よりBtoBにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。製造業、IT、建設業、サービス業、流通業など各産業の大手企業を中心に国内外向けのマーケティングサービスを提供している。

横河電機株式会社
執行役員 マーケティング本部長 阿部 剛士氏

1985年、インテルジャパン株式会社(現インテル株式会社)に入社。2005年、同社マーケティング本部長に就任、07年、芝浦工業大学専門職大学院 技術経営/MOT卒業、09年、同大学地域環境システム専攻博士課程修了。11年、同社取締役副社長 兼 技術開発・製造技術本部長に就任。16年、横河電機株式会社に入社し、現在に至る。

日本に必要なのはマーケティングを生かす全社的な組織変革

川上:デジタル時代のマーケティング組織について、米国と日本ではどのような違いがあるとお考えですか?

早稲田大学大学院
経営管理研究科 教授 川上 智子氏

阿部:違いは2点あります。1点目はマーケティングの地位です。CEOがどれくらいマーケティングを大事に思っているか。日本では良いものさえ作れば売れるという時代が長く続いたので、マーケティングが必要ありませんでした。特にBtoBでは、マーケティングの地位が低い傾向があると思います。私はマーケティングの地位を上げていきたいので、社内の"まみむめも"を強化しようとしています。ま=MA:Marketing Automation、み=MI:Marketing Intelligence、め=ME:Marketing Everything/Everywhere、"む"と"も"は当てはまるものを募集中です(笑)。

横河電機株式会社
執行役員 マーケティング本部長 阿部 剛士氏

そして日本と欧米の違いの2点目は、マーケティングアセットに対する感度です。マーケティングアセットというと、PRや広告といったマーケティングコミュニケーションに関するものを思い浮かべる方が多いと思いますが、これらはマーケティングアセットのごく一部でしかありません。技術力や調達力、工業デザインや特許なども、すべてマーケティングアセットです。今、私が統括しているマーケティング本部には、マーケティングコミュニケーションだけでなくR&Dや特許室、新規事業開発など、マーケティングアセットに関わる様々な部署が入っています。マーケティングは基本的にコストセンターですが、将来的にはプロフィットセンターになってもいいと思っています。

川上:私が長年研究しているマーケティング部門が果たすべき役割をまとめた「マーケティング・イノベーション・プロセス(MIP)」という図をご覧いただくと、マーケティングが行うべきタスクがいかに多岐にわたるかお分かりいただけるかと思います。このマーケティング部門の枠外にある技術部門のR&Dまで阿部さんの管轄に入っているというのは、非常に画期的な組織の作り方ではないかと思います。

阿部:CEOの理解が不可欠ですね。

川上:次に、営業や他部署の連携についてお伺いします。マーケティングを教えていると、マーケティングの定義として「セールスを不要にすることだ」という文言が出てきますが、これは嘘。営業は絶対に残りますし、組織も営業の方が大きくなるのが普通です。そこで営業部門とマーケティング部門のコンフリクトが起きる。そうしたときに、どのように連携を進めていくべきだとお考えですか?

庭山:お客様からよく「デマンドセンターを作るときに、どこに組織を置くべきか」というご質問をいただきます。営業の中に置くべきなのか、独立させるべきなのか。その質問に対して、私はいつも「営業とマーケティングに上も下もない。営業の下にマーケティングを入れることで、営業からマーケティングに指図する関係は望ましくない。製造業で言えばマーケティングと営業は前工程と後工程。規模は小さくてもいいから、あくまでも同格で位置付けてほしい」とお願いしています。そして営業とマーケティングの仲が悪いというのは、最初は仕方がありません。営業が苦戦している企業のリードをマーケティングが取ってきて初めて「マーケって、結構やるじゃん」と信頼関係が生まれるものです。1?2年かけてマーケティングが売上に貢献できると証明できれば、すごく仲良くなりますよ。

シンフォニーマーケティング株式会社
代表取締役 庭山 一郎氏

阿部:まさに庭山さんのおっしゃる通りです。営業とマーケティングと事業本部の3つがサイロで断絶されていて、お互いにコミュニケーションがうまくできていないという課題はよくあると思いますが、今はITの力で解決する良いタイミングです。MA・SFA・PLM(Product Lifecycle Management)・DLM(Device Lifecycle Management)といった役者が揃い、これがIT的につながると、組織も人もつながらざるを得なくなります。ITサイドからの組織変革を起こすことができる時期に、ようやく来たのではないかと。

日本企業が見習うべき成功企業の共通点

川上:成功している企業の特徴について、お気付きになっている共通点はありますか?

庭山:我々がプロジェクトに入る際に必ずお伝えしているのは、「スモールスタートでも良いけれども、全社戦略の一環としてスタートさせてほしい」ということです。特に、デマンドジェネレーションをやろうと思ったら、組織をまたぎます。もっとも案件化率が高いデータは、営業の引き出しの中にある名刺です。そのデータを使わせてもらえなければ、話が始まらない。マーケティングと営業が断絶されているために「俺の客に手を出すな!」と言われてしまい、せっかくMAを導入しても中身は空っぽというのは、よくあることです。日本の場合は、製品事業部ごとに工場・研究開発・設計・営業とあって、縦糸は強いけれど、隣の部門の製品のことはよく知らない。本当は他の事業部の顧客の中に優良な見込み顧客がいるはずなのに。大きな機会損失をしているケースがたくさんあります。CEOがそういう問題意識を持っており、「マーケティングが横糸になれ」というミッションを与えた上でのスモールスタートのプロジェクトなら成功しますが、ただ限定的な部門で始めるだけのスモールスタートはうまくいかないケースが多いのが実情です。そこは気をつけてほしいポイントですね。

阿部:欧米で成功している企業の共通点は3つあって、まず1つ目が柔軟性です。私が前にいた会社では毎年恒例のように組織変更が戦略的に行われていました。組織は戦略に従わなければならないのに、日本企業は組織に対する思い込みが強いので組織が硬直しているし、人材のモビリティも弱い。みなさんの会社にも同じポジションで10年以上やっている人がいませんか? そして2つ目はトップの熱量が高く、共感が得やすいこと。3つ目はお客様に見つけてもらう努力を怠らないことです。

庭山:昨年、アカウントベースドマーケティング(ABM)の本を書いたのでABM関連のお問い合わせがすごく多いのですが、みなさんいきなりABMをやろうとしている。私の書き方が悪かったのかと反省しているのですが(笑)。ABMはパワフルなマーケティングですが、実行は社内にデマンドセンターが構築されていることが大前提です。ターゲットアカウントは最重要顧客なので、絶対に失敗できません。データベースを中心にしたシステムがなければ、今のマーケティングは展開できないと私は考えています。

阿部:テクノロジーの進化によって、世の中の何もかもが変わっていますよね。オンラインとオフライン、インバウンドとアウトバウンド、リアルとサイバー、量と質、伝統的なマーケティングとデジタルマーケティング......といったように、世の中は白黒をつけがちですが、どちらか片方がもう一方をテイクオーバーすることは、しばらくありえません。両方のバランスを取るために組織も対応していかなければなりません。それを私は「汽水マーケティング」と呼んでいるのですが、汽水の部分をどうやってマネージするか、戦略に合わせて組織を柔軟に変えていくというのが、今後の勝負になっていくだろうと思っています。

失敗を恐れるな

川上:最後に、みなさまへアドバイスをいただけますか。

庭山:私は実務でいろんな企業のマーケティングに携わっていますが、成功したプロジェクトの裏にも失敗はあります。失敗する瞬間はあるのですが、それは学習曲線の過程にいるだけです。学習曲線を早く走ったほうがナレッジが溜まって成功しますから。私は「ストラテジー」「ストラクチャー」「システム」の頭文字をとって"3S"と呼んでいるのですが、ストラテジーを作るためのストラクチャーを作って欲しいし、自分たちのマーケティングにあったシステムを導入して、成功する企業になっていただきたいというのが、私の願いです。

阿部:"Fail Fast, Fail Often, Fail Forward"とよく言われますが、このFailを"失敗"と訳してはいけません。失敗ではなく経験です。そういうFailを容認するようなカルチャーでなければならないし、査定の方法もそれに合わせなければなりません。世の中は何が起こるかわからないので、Failすることを容認する企業になっていただきたいですね。最後に、私は横河電機をマーケティングの会社にしたいと思っており、マーケティングの地位を向上させたいと思っています。機会があればまたみなさんとどこかでご一緒できればうれしいです。

最後に、川上氏は「お二人とも共通して"失敗を恐れるな"というメッセージをいただきました。システムが入って試行錯誤をはやく回せるというのはあると思いますが、大きな絵を描くためには学びも必要だと思いますので、その両輪があると一番いいのではないかと思いました」と語り、パネルディスカッションを締めくくりました。

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