2017年4月12日に開催された日経産業新聞フォーラム「マーケティングインパクト2017 エンゲージメントエコノミー時代の新成長戦略」の最終プログラム、パネルディスカッションでは、「顧客との新たな関係性が育む成長」と題し、「経営者/リーダーの役割や組織のあり方」「コンテンツ」「テクノロジーの選択」の3つのアジェンダに沿って、議論が行われました。その概要をレポートします。

<パネリスト紹介>

株式会社ローソン
マーケティング本部 本部長補佐

逸見 光次郎氏

1994年三省堂書店入社、99年ソフトバンク入社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)立ち上げ、2006年アマゾンジャパン入社、ブックス マーチャンダイザーを務め、07年イオン入社、ネットスーパー立ち上げ後、デジタルビジネス事業戦略構築に関わる。11年キタムラ入社、執行役員EC事業部長、17年3月より現職。

逸見氏が登壇する、「特別講演2 ~「オムニチャネル」に成功した企業に学ぶ、リアル店舗とECのリレーションの法則~」の内容はこちらから

アクセンチュア株式会社
デジタルコンサルティング本部 マネジング・ディレクター

アクセンチュア・インタラクティブ日本統括 兼 株式会社アイ・エム・ジェイ 上席執行役員
黒川 順一郎氏

大学卒業後、国内のシステムインテグレーターを経て、アクセンチュアに入社。現在は、アクセンチュアのデジタルマーケティングサービス部門の統括責任者を務め、業界を横断し、多数の企業に対するIT戦略、デジタルマーケティング戦略、顧客体験/サービスデザインを中心としたコンサルティングサービスに従事している。2016年7月からは株式会社アイ・エム・ジェイの上席執行役員も兼務。

黒川氏が登壇する、「協賛社講演1・2 ~マーケティングイノベーションを推進するソリューションカンパニーが考える「今、企業が取り組むべきこと」~」の内容はこちらから

富士通株式会社
イノベーティブIoT事業本部 デジタルマーケティング事業部 シニアマネージャー

鈴木 謙一氏

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科修士課程修了。アジア地域を中心とした通信インフラビジネス、国内でのサービス企画や事業開発業務を経て、2010年より企業の新規ビジネス創出支援やマーケティングコンサルティング業務に従事。様々な業界で、マーケティング部門とIT部門が連携したプロジェクトを多数経験。

鈴木氏が登壇する、「協賛社講演1・2 ~マーケティングイノベーションを推進するソリューションカンパニーが考える「今、企業が取り組むべきこと」~」の内容はこちらから

<コーディネーター>

株式会社マルケト 代表取締役社長
福田 康隆

福田が登壇する、「基調講演 前編 ~エンゲージメントエコノミー時代に繁栄し続ける企業の条件とは?~」の内容はこちらから



部門間の壁を超える"侍"が組織を変革するキーマンとなる

福田:まずは、今回のキーワードの一つである「顧客体験」の定義、その変遷を踏まえ、「経営者/リーダーの役割や組織のあり方」について、お考えをお聞かせください。

逸見:一貫して小売業でEC立ち上げなどに携わってきた中で、共通の課題として浮上するのは、部門間のギャップでしょうか。例えば、同じテーマで話していても、現場でお客様に接している店舗スタッフと、財務諸表上の視点から考える経営層では"言語"が違い、話がかみ合わない。すると、黒田さんのご講演で指摘されたように、せっかくITを導入しても、"使いにくい書籍検索端末"のような結果になってしまう。

デジタル化の大前提として、組織改革、つまり顧客に対して横通しで機能する組織を作ることが肝要で、人事評価の設定もカギとなります。ただし、一朝一夕にはいかず、私の講演でご紹介したキタムラの「宅配売上+店受取受注=EC関与売上」という評価法も、全社で腹落ちするまで話し合い、導入までに半年かかりました。

黒川:確かに、お客様と話していても、顧客を起点とする組織変革は、頭では必要とわかっていても、実際にはなかなか難しい。そこで、突破口としてジョイントベンチャーを設立するという新しい流れも生まれています。

特に、新たなデジタルビジネスの種を生み出せるようなタレントを採用するには、ドレスコード一つとっても企業カルチャーを大きく変える必要がある。生き残りをかけた経営者の危機感も強まる中、手っ取り早い策として、別組織を切り出し、採用活動に乗り出すような企業も増えています。

鈴木:組織のあり方という点では、お客様とのプロジェクトに関して、従来、情報システム部門の担当者経由で商談を進めることが多かったのです。ただ、ダイレクトにマーケティングの担当者にパスを作るほか、新たなアプローチもとっています。

当社では「侍」と呼んでいるのですが、ポジション、部門に関係なく、本気で会社を変えたいと考えている人を見つけ、その人を中心に色々な部門を巻き込んで横断的にプロジェクトを作っていく。部門の壁を超えたキーマンを見つけていくことも重視しています。

大量に垂れ流しされるCM、Web上のリターゲティング広告は果たして有効なのか

福田:そういった組織を縦断できる人材の育成も今後の課題となりそうですね。次のアジェンダの「コンテンツ」については、顧客とパーソナライズされたコミュニケーションを実現しようとすると、コンテンツの量産が求められるという課題に関して、ご意見をうかがえますか。



逸見:一昔前、書店勤務時代を思い返すと、例えば1冊の本のWebサイト用とチラシ用のコンテンツを作るにも、画像の拡張子が両者で違うため、個別に作らざるを得ない不便さがありました。

ところが、テクノロジーが劇的に進化した今でも、それをやっている企業が意外に多い。基本的なところですが、社内のコンテンツ作成体制の整備、管理はまず手を付けるべき作業だと思います。

黒川:コンテンツの意義から考え直す必要もあるのではないでしょうか。例えば、テレビCM。正直、視聴者にとっては邪魔な存在ですし、Web上でもリターゲティング広告をされて不愉快に感じてしまう人も多い。

ここで基本に立ち返り、正しい人に正しいタイミングで、正しいチャネルで、正しい内容を出すことを追求すると、もしかしたらLINEを使ったほうがいいかもしれない。手法の選択、費用対効果含め、コンテンツの本質を見直すことも大事だと思います。

鈴木:コンテンツについては、三点ほど思うところがあります。まず一つは、基本としてお客様を知る。単純にコンテンツを作るだけでなく、コンテンツをホワイトペーパー化するなど、お客様の興味を知るための設計、仕組み化が大事だと考えています。

二点目は、お客様の多様な購買ステージに目を配ること。自社HPのコンテンツは、プロダクトアウトに細かい商品説明のコンテンツが充実しがちですが、検討初期のお客様も多く、そのようなお客様は業界動向などを求めているケースもあるので、注意する必要があると思います。

三点目のコンテンツ量産の解決策としては、「同じ素材で切り口を変える」という考えも有効ではないでしょうか。例えば、マーケティングオートメーション(MA)の導入事例というコンテンツでも、「産業別」「SFAとの連携」「企業規模別」といった切り口を変えるだけで、三つのシナリオが生まれ、響くメッセージも変わってくると思います。

バックグラウンドにある"設計思想"こそが、テクノロジー選択のカギを握る

福田:視点を変えれば、同じものでも切り口を変え、適切なメッセージをご提供できる。その観点からも、顧客を知ることが最優先すべきステップといえそうですね。最後のアジェンダは「テクノロジーの選択」です。今やマーケティングに関するテクノロジーの会社一つをとっても数千社にものぼると言われ、自分に適したものを選択していくことが困難な時代に突入しています。事業者サイドとして、逸見さんは何を注視していますか。

逸見:第一に、シンプルな目線で、会社全体を俯瞰し、全体最適を考える。つまり売上、顧客満足度向上といった観点から、費用対効果を見ています。また、店舗やマーケティングチームといった現場、さらに大前提としてお客様が使いやすい道具であることも重要です。上流から下流まで、最終的に消費者が便利に買い物ができて、そのデータが上流工程にフィードバックされ、ユーザーニーズが視覚化できる。そういうテクノロジーの構造の構築、技術の活用がポイントだと思います。

そのためには、例えばECのシステム構築に関わる社員に、実地で店舗のレジを打たせてみる。そうすると、机上ではわからない課題、現実が見えてくる。そこからどのテクノロジーを採用したらよいかを考えるといったアプローチも有効ではないでしょうか。



黒川:お客様の要件実現に向け、適切なソリューションを推薦する立場として注視しているのが企業や製品の思想です。プレーヤーが非常に多いデジタルマーケティングの世界においても、機能性には正直大きな差はない。それよりも、ソリューションの提供により、顧客にどう貢献したいと考えているか。ベースとなる設計思想を理解することが重要だと考えています。

福田:確かに同じMAでも会社によって、違った個性や設計思想を持っている。その理解がテクノロジー導入の成功のカギを握るという意見には私も賛同するところです。鈴木さんはどうお考えですか。

鈴木:お客様と最初にお話しすることは、まずはマーケティングで何をやりたいのかを整理することです。例えば、Webコンテンツの出し分け一つとっても、お客様の目的や意識によって、CMSやMAなど、選択肢が変わってきます。さまざまなソリューションの機能が拡張する中、二重投資のリスクを防ぐためにも、重要なポイントだと思います。

福田:テクノロジーに関して、もう一つ。これから皆さんが注目されているテクノロジー、また、その注目ポイントについてお聞かせいただけますか。

逸見:お客様と会社の現場サイドの使いやすさでいうと、Chatbotやビデオチャットは意外に面白いのではないでしょうか。例えば、店舗での接客に手が回らない時でも、ある程度までのQ&AはChatbotが対応する。あるいは、コールセンターのビデオチャットで対応するなど、さまざまな活用法が考えられると思います。こうした表の技術を支える、裏の技術である回線処理速度の進化も重要なポイントですね。

黒川:人間の五感や感性を拡張していくテクノロジーの進化に注目しています。例えば、帰宅したら、体調に合わせて部屋の温度や湿度が自動的にコントロールされている。冷蔵庫を開けると水が補給されている。無意識的に顧客体験をリッチにしてくれるような世界観の実現に期待しています。

また、新しいものを追いかけるだけでなく、Amazon Dash Buttonのように、今ある技術の組み合わせによって、新しい体験を生み出す視点も大事だと考えています。

鈴木:企業の投資意欲の高まりという観点から、AIは今後のテクノロジーを語るキーワードの一つに挙げられると思います。ただし、大事なのは、それをどう使うのか。なんのためにそれが必要か。当社としても、適応領域をお客様と一緒に考えることを前提に、テクノロジーの活用を推進していきたいと考えています。

最後に、それぞれのパネリストから来場者に向け、共にお客様とエンゲージメントを深め、顧客体験の向上を目指す同士としてエールが送られ、パネルディスカッションおよび本フォーラムは終了となりました。