2017年4月12日、日経カンファレンスルームにて、「日経産業新聞フォーラム「マーケティングインパクト2017 エンゲージメントエコノミー時代の新成長戦略」が開催されました。

本フォーラムより、アクセンチュア デジタルコンサルティング本部 マネジング・ディレクター、アクセンチュア・インタラクティブ日本統括 兼 株式会社アイ・エム・ジェイ 上席執行役員 黒川 順一郎氏と、富士通 イノベーティブIoT事業本部 デジタルマーケティング事業部 シニアマネージャー 鈴木 謙一氏の講演内容をレポートします。

パブが、旧態依然とした銀行の経営スタイルで運営されたとしたら?

「デジタル時代の産業革命 ―今、企業が考えるべきこと―」と題し、登壇した黒川氏が、まず掲げた言葉が「THE BATTLEGROUND IS EXPERIENCE」。



アクセンチュア株式会社
デジタルコンサルティング本部 マネジング・ディレクター
アクセンチュア・インタラクティブ日本統括 兼 株式会社アイ・エム・ジェイ 上席執行役員
黒川 順一郎氏

「顧客体験が、どんなビジネスにおいても主戦場になっているというのは、疑いのない事実である」とし、そのバックグラウンドとして「あらゆるモノのデジタル化」、「流動的な消費者の期待」を挙げます。

例えば、書店にある書籍検索端末。自身の体験から、15~20年前であれば、先端的と感じたであろう機器が、スマホなどの日々進化し続けるユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンスの登場により、「消費者はタッチパネルの操作性や、画面の案内図のわかりにくさに不満を持つようになっている」と指摘します。

もう一つ紹介されたのが、英国の先端的モバイル銀行のTandem Bankが作成したユニークな動画。「行きつけのパブに、銀行のような運営をされたら?」というタイトルで、客はカウンターに表示される"番号"で呼ばれたり、窓口や担当をたらい回しにされたりして、一斉に怒りの声をあげます。

会場から時折苦笑が漏れる中、「なぜパブではガマンできないのに、銀行ならガマンするの?」といった問題提起で動画は終わります。

ここから見えてくるのは、消費者の期待が業種をまたがって"流動化"している中、直接競合しない企業のブランド体験とも比べられる時代が到来したということ。つまり、業態、業種に関わらず、Google 、Amazon、Apple、Uberといった世界トップクラスのエクスペリエンスを提供する企業と肩を並べていかねばならないという現実です。



まさにこれこそが、黒川氏の指摘するデジタルをテコにした新たな"産業革命"というわけです。

では、企業は何をすべきか。黒川氏は3つのポイントを挙げます。

1 自社の存在価値(ブランド)を再確認する

例えば、顧客体験提供に注力する先端的企業の一つ、Airbnb。



現在のミッション、ブランドコンセプトは、「人と人とをつなぎ、ユニークな旅行体験を叶えます」。しかし、09年創業時のビジョンは「Forget hotels, save money with Airbnb(ホテルを忘れろ、そしてAirbnbでお金をセーブしよう)」でした。

初めから完璧なビジョンを作らなくてもいい。「ビジネスを進め、顧客行動を見ながら、自分たちの価値を再定義していくようなフレキシビリティも大事」だと語ります。

そのやり方として、アクセンチュア・インタラクティブのグループ会社Fjordが毎年刊行している「TRENDS 2017」に挙げられたトレンドの一つ、「FROM STORYTELLING TO STORYDOING」を紹介。

「CMのように、完成されたストーリーを一方的に発信する手法(STORY TELLING)から、未完成でも発信し、SNSなどを通じて顧客と一緒に作り上げていく、自身で体験を発信してもらう手法(STORY DOING)へ」と、マーケティング、ブランディングのあり方が変化していると指摘します。

2 良質な体験設計を第一に考える

旅行を例に挙げると、顧客にとっては出発前からホテルに到着するまでが一連の"体験"です。しかし現状では、地図アプリの企業、電車・バス会社、航空会社といった具合に、分断してそれぞれのサービスが提供されるため、一つトラブルが起こることで全体の満足度が左右されるリスクがあります。



ならば、自社の業種・業態にこだわらず、「"買い物をする""決済をする""移動する"といった顧客の行動に基づく目線で体験をとらえなおすことで、ビジネスの幅が広がっていく。体験設計・提供を第一に、様々なプレーヤーが協業するという考え方も生まれます」(黒川氏)。

3 人間を中心としたテクノロジーの使い方を考える

テクノロジーの歴史を振り返ると、まずは電話などの「人間のためのテクノロジー」、つまり人間が外部のモノ・ヒトとインタラクションすることをサポートする技術が生まれ、その発展形として、企業システムのような「業務のためのテクノロジー」が誕生してきました。

しかし、今、起こっているのは顧客体験にフォーカスした「人間のためのテクノロジー」への揺り戻し。例としてハンズフリーの音声認識エンジン内蔵スピーカー「Amazon Echo」、香り伝達デバイス「oPhone DUO」などを挙げ、今後は人間の五感を醸成し、体験をリッチにするようなテクノロジーの活用を考えることも大事だと言います。

ITありきではなく、リアルな接点強化→デジタルチャネル強化で成果アップ

今後の顧客体験のあり方を考える上での新たなコンセプトを共有したところで、富士通の鈴木氏の講演に移ります。



富士通株式会社
イノベーティブIoT事業本部
デジタルマーケティング事業部 シニアマネージャー
鈴木 謙一氏

タイトルは「顧客理解に基づくマーケティング・イノベーション」。最初にスライドに掲げられたのが「あなたのお客様は誰ですか?」という問いと、4人の20代の女性、その個性あふれるハンドバックの中身と服装の写真です。



「20代の女性」という同じセグメントでも、嗜好、ライフスタイルは多様化している。

さらに、スマホの普及、EC市場の拡大といった変化を受け、「個人に最適化されたメッセージをタイムリーに実践するほど、売上アップにつながる効果が高い」というデータを紹介。その変革ドライバーとしてデジタルテクノロジーを活用し、顧客接点、顧客体験の最適化に取り組むことが肝要だと指摘します。

例えば、同社がサポートする事例の一つが、生涯学習を推進するベネッセコーポレーション。webログ等のデータを「ユーザ単位」に整理。ユーザの行動把握・予測により「施策」単位の最適化から「個客」単位に施策を変え、入会前の顧客体験の向上を図っています。



静岡ガスの事例では、事業パートナーとして、全社戦略立案から、営業戦略、デジタル戦略への展開を支援。



まずは、営業担当とディスカッションしながら、データ分析・ペルソナによる顧客理解を経て、仮説を元に営業マンが顧客を訪問。成約率アップなどの成果を経て、営業支援システムのモバイル化、デジタルチャネル活用による営業力強化で、さらなる成果を挙げています。

鈴木氏は、「エンゲージメントを高めていくには、デジタル接点に加えて、営業マン、店舗といったリアルな接点の強化も重要。スモールスタートで成果アップを実現しつつ、現場に受け入れられやすいIT導入にも注力している」と言います。

業務プロセス、システム、データの全体最適化が理想のカスタマージャーニーを実現する

こうした事例を踏まえ、顧客とのエンゲージメント向上においては何が大事なのか。鈴木氏が挙げるのが、「部門間の連携とKPIの一元管理」です。

例えば、Webサイトでゴルフクラブの新製品を見つけ、早速、店舗に出向き購入。2週間後のゴルフコンペを楽しみにしていたところ、購入2日後、その店から「今なら一律5%割引のキャンペーン実施」といったメールが配信されてきたらどう感じるでしょうか。

このように縦割り組織の部門ごとに、個別にメッセージ、施策を打ってしまうと、顧客は混乱してしまいます。例え、一部署のKPIが達成できても、顧客満足度は下がり、会社全体の売上もマイナスに働きかねません。

そうではなく、宣伝、マーケティング、営業、ITといった部門を横断したシームレスな連携により、商品認知から、検討、購買に至る購買プロセスごとに、全社に点在する各種データを統合。顧客を一元で理解し、その上で想定顧客から、見込客、リピーター、優良顧客に至るフェーズに合わせたマーケティングアクションを実施していくことが大事だと言います。




さらに施策によるデータ、KPIも一元管理。データマネジメントプラットフォーム上で総合的な顧客体験を提供。PDCAを回し、最適化を図っていく。「業務プロセス、システム、データすべての整合を図っていくことで、理想とするカスタマージャーニーを実現していくことが肝要」だと鈴木氏は語ります。

最後に富士通のデジタルマーケティングの新ブランド「CX360」を発表。

文字通り、顧客行動を全方位からビューイングし、冒頭でも挙げた顧客起点の「リアルタイム×パーソナライズ」されたマーケティングの実現で、お客様一人ひとりの顧客体験の向上を継続的に図っていくことを目的とする戦略です。



ワンストップでサービスを提供すべく、「マルケトさんのようなソリューションパートナーや、データパートナー、デザイナーなどのプロフェッショナルとも連携し、お客様の課題解決に向けた最適なサービスをご提供したい」と表明し、同社ならではのリアルな事例満載の講演が終了しました。