株式会社セガホールディングス IT本部 CRM推進部 副部長(ICT企画)の小島 雄一郎氏と、IT本部 CRM推進部 副部長(顧客窓口運営/IT導入)の岡田 淳良氏をお迎えしてお届けしている「Fearless Marketer」。

前編に続き、後編では、お二人が取り組まれているインナーブランディングや、後進の育成について、弊社マーケティング本部長の小関 貴志がお話を伺いました。

グループを1つにするためのインナーブランディング

小関:お客様により良いものを届けるためには、媒介となる社員がハッピーでなければならないと思いますが、御社の働き方改革の取り組みについて、教えていただけますか。

小島氏:セガサミーグループのトップは僕らよりも若く、かつグローバルで働いてきた人間なので、考え方がフラットかつ柔軟だし、世の中の流れを捉えているんですね。だからITインフラに関しても、かなり整備されています。ただ、それらを利活用する従業者がまだまだ追随できていないところがありますので、働き方を組織名に掲げる部署も存在します。そこが中心となりグループ内のWebサイトも作っていますが、僕もそこで情報発信の支援を行っています。

さらに今年の8月にセガサミーグループ20社の本社機能が品川区大崎に集約されました。移転に関する種々はコーポレート部門が担っていますが、こちらのグループ内発信についても支援しています。

いくら経営層がメッセージを伝えても、現場の人間は目の前の仕事に意識が向きがちです。そこを僕らが現場で動き回りながら、「この会社にこんな面白い人がいてね」「この会社ではこんな面白い取り組みをしているらしいよ」と、身の回りにあるネタを共有していくことで、いつの間にか個々の働き方が変わっていたという方向に持って行こうとしているんです。

小関:社内に向けてメッセージを届けるというのは、非常に難しいマーケティングだと思いますが、イントラを用意する以外に工夫されていることはありますか?

小島氏:そうですね。Webだけでは浸透力が弱いので、各クラスターのキーパーソンの意識改革や行動変革を起こせるようなトリガーをなるべく多く用意するようにしています。押し付けても嫌がられるのが目に見えているので、僕は押し付けるようなことはせず、情報として渡すことに留めて相手に判断を委ねるようにしています。

岡田氏:あとはファミリーデーの開催ですね。私たちが所属しているのは持株会社で、間接部門が多いので、「お父さんの仕事って何?」と子どもから聞かれたときに、うまく伝えられない社員が多いと思って。

去年、グループ各社からゲームや素材を借りてきてファミリーデーをやってみたら、参加してくれた社員のアンケート評価に「自分の仕事を説明できてよかった」という声がたくさん届いたんですね。また、セガの製品はマニアックなものが多いので、お土産を嬉しそうに持って帰る子供たちを見ながら、自社のキャラクターがこんなにも力をもっているのかと驚いた社員が多かった、というのも意外な反響でした。やはり会社としてメッセージを伝えるには、ライブあるいはオフラインで会うことが大切ですよね。

小島氏:経営が掲げているメッセージはすごくシンプルで、「グループシナジーの創出」です。なぜかと言えば、セガとサミーが統合されてから、もう10年ほど経つにもかかわらず、なかなか密な交流には至りませんでした。セガは品川と羽田、サミーは池袋と拠点が分散していることが要因として大きかったこともあって、まずは物理的な距離によるロスを解消することも、本社機能集約の大きな目的の1つです。

しかし、物理的に近づいたからといって、それがすぐ人の融和に繋がるかというと、そんな簡単なものではないと、僕は思っていました。そして移転に関する情報発信に関わっていたことで、新オフィスに関する情報を先行して得られていたため、"こんなに広いスペースがあるなら、実際に人や物が動く前にそこで何かイベントを行い、そこへの参加を通じて、自然にグループ内交流を生みだしてみてはどうか"と考えたんです。「新しいオフィスって良さそうだね」「楽しそうで良い会社だね」と家族を理解者にできれば、従業員も「この会社でがんばってみよう」と思うでしょうし、みんなでワイワイ楽しむ場を設けることで、「この人と会ったことあるな」と、将来の業務におけるシナジー創出の下地にもなります。これを実現できれば、経営のメッセージに対して、現場が取り組む初動のトライアルとして意義がありそうですし、自分自身のチャレンジとしても "手ごたえがあり面白そうだ"と考えました。

それをセガサミーホールディングスの社長に提案したら良い反応をもらえたので、グループ従業者とその家族を対象としたキッズイベントを6月末に、グループ従業者を対象としたエンタメイベントを7月中旬に行いました。

"想い"を叶えるためにやるべきこと

小関:お話を伺っていると、お二人とも組織の壁を感じさせないというか、ご自身の役割を超えた動きをされていらっしゃいますよね。そういうことは、やりたくてもやれない方が多いと思うのですが、何がそれを可能にさせているのでしょうか。

岡田氏:小島のような動きを現場の人間の誰もができるわけではありませんし、ある意味リスクを負っている側面もあると思います。"先輩は任せてくれるものの、何でも自分たちで解決しなければならない"という環境の中で培われた、いわば「昭和のバイタリティ」(笑)が原動力の1要素になっていると思うことがあるんですよね。"想い"を持っているというか。ツールにせよ、イベントにせよ、結局は手段や手法なので、"想い"を実現するための代替物や過程でしかないですから。

小島氏:社会全体が冒険しなくなってきていますよね。自分の仕事範囲を決めてしまうことで、"自分ができること" の可能性を狭めてしまっている。僕は「そこに本当に壁はある? 壁がないなら自由にやれば良いじゃん。誰もやっていないことにはチャンスがあり、ダメだと言われることはやらなきゃいいだけ」と考えます。それらを推進する上で、まず自分自身が価値を感じられなければ、いろいろな力が弱まってしまいますしね。

小関:我々の年代の人間が積極的に社内を動かして、若い人たちの"想い"を叶えてあげることが大事なのかもしれませんね。

岡田氏:そのためには、まず環境づくりが必要なのだと思うものの、正直なところセミナー等で耳にする成功事例の中には、「本当にそこまでお客様を追求できていて、アクションに落とし、"想い"をカタチにすることができているの?」と疑ってしまうような話も多いんですよね。セガもまだマスマーケティングの思考が主流と感じますし、私たちはお客様相談室に月間数万件単位で届く声を前に、日々加工して届けるだけで精一杯ですし...。
外に対しても、内に対しても、"個"に目を向ける余裕がなさすぎるんですよね。

小関:今のお話には2つポイントがあると思います。1つは、私が個人的に素晴らしいと思うマーケターの方々は、本当にお客様のことを知りたがっています。往々にして若い方が多いですね。なおかつ営業経験があるといった、マーケティング経験はあまりないけれど、お客様と真摯に向き合っている方が多いです。そういった若い方にちゃんと権限を与えれば、すごくいきいきと活躍されてます。

もう1つは、お客様のことを知ろうとすればするほど、本当にこれでいいのかと疑問が湧いてくるということですね。答えはありませんから。でも最初から100点を目指さずに、ある程度は割り切って、それがたとえ80点だったとしても今できる最善の方法を試してみることで、80点が85点になり、90点になり、少しずつ100点に近づいていくのではないかということです。

岡田氏: そうですね。お客様の分析において、絶対解なんてないと思いますし、その中でお客様のことを深く考えられる時間を若手に与えることが、環境づくりになるのかもしれませんね。

小関:例えば、若いマーケターの方がIT部門の方に「こんなツールを使いたい」とお願いしたいときに、こんな持って行き方をすればいい、といったアドバイスはありますか?

小島氏: この先もITとマーケティング間のギャップは、簡単には解消し難い状況が続くのではないか、というのが僕の見解です。IT部門にいる人間は基本エンジニアなので、専門性が高く、掘り下げる業務が主です。一方で、マーケターは広範囲の分野をバランスよく繋ぎ合わせながら進める業務が多いため、いきなり同じ視座で語ることが難しい状態にあり、そこへの配慮なり対処が不可欠です。しかし、各自にはミッションやタスクがあることに加え、昨今は長時間労働抑制や生産性向上といったことが求められていることもあり、現実としては、お互いを理解するための時間を双方が優先して割くことは難しいです。

だからこそ、僕らのようなキャリアパスの人間が、片方が言いたいことをいったん預かって、もう片方に「こういうことをやりたいらしいんですけど」と媒介してあげる必要があると思っています。僕らもエンジニアではないので、つたないオーダーにはなってしまうのですが、少なくとも"この人たちと話すためには、こういう要件は把握しておく必要がある"というラインはわかっています。ゆえに、緩衝材あるいは接着剤として、二者を繋ぐコーディネーター的な役割を担い、最初の一歩をスムーズに踏み出す支援を行っています。

小関:なるほど。それでは最後に、マーケティング部門の方にメッセージをお願いします。

小島氏:僕は常々、「自分の身の回りの人たちは、みんなお客様だ」と言っています。マーケターの意識や行動は消費者に向きがちですが、社内の周りの部署の人たちもみんなお客様です。その前提で付き合っていけば、社内だからという甘えや油断が生まれにくく、言動にも礼儀や謙虚さがともなうものです。それは仕事の上下関係を作るためではなく、理解者・協力者として仲間になってもらうために必要なものです。 そして、いち早く各所を巻き込みながら行動に移し、個々を引き立てながら結果に繋げることが、マーケターの役割なのではないでしょうか。

小関:本日は貴重なお話をありがとうございました。