これからのマーケティングのあり方やマーケターが目指すべき姿について斬り込む連載企画「Fearless Marketer」。今回は弊社 マーケティング本部長の小関 貴志が株式会社セガホールディングス様を訪ね、IT本部 CRM推進部 副部長(ICT企画)の小島 雄一郎氏と、IT本部 CRM推進部 副部長(顧客窓口運営/IT導入)の岡田 淳良氏に、お話を伺いました。

"感動体験を創造し続ける"というミッションのもと、コンシューマ事業、アミューズメント機器事業、トイ・映像事業、アミューズメント施設事業の4つの事業領域において、エンターテインメントに関する幅広いコンテンツを手がけているセガグループの持株会社として、2015年に誕生した株式会社セガホールディングス(以下、セガ)。

IT本部に所属しながらも、お客様のことを深く理解しようと努めておられるお二人は、日々、お客様とどう向き合っていらっしゃるのでしょうか。

前後編の2部制でお届けします。

周りを巻き込めば、なんでもできる

小関:まずは小島様のこれまでのキャリアについて、お聞かせいただけますか。

小島氏:実は、僕と岡田は同期で、94年に新卒で入社しました。そこから5年半くらいは営業として、ゲームセンターで使うような業務用の機器をルートセールスで販売していました。2年目くらいに「プリント倶楽部(通称プリクラ)」が出てきて、最初は背景も何もない16枚のシールができるというものだったのですが、そこに背景画像が入るようになって広がり始めたことで、"どんな絵を入れて、どう売っていこうか"という展開計画を立てる中で、ライセンス・生産・デザインといったものづくりに関わる仕事にも携わるようになっていきました。

そしてUFOキャッチャーの第二次ブームが始まった頃に、UFOキャッチャーの景品を作る"プライズ"と呼ばれる事業側に異動しました。そこではマーケティング担当として、カタログ制作やお取引先様向け内覧会の運営などを手がけるようになったのですが、1年超で再び営業に呼び戻されて約4年くらい景品の営業責任者をしつつ、一時期はマーケティング責任者も兼務していました。

そしてプライズ部門に所属していた頃に「ムシキング」や「ラブandベリー」といったキッズカードゲームが世の中で大ブームとなっており、その事業部門に誘われて異動し、営業に始まり "どういうタイミングで、どういった排出確率で、どんなカードを出すか"といったマーケティングに近いキッズカードの仕掛けを開発部門と共に考えたり、ゲームやアニメ・書籍などと連動させて "ゲームをより楽しくするためのアイデア出し" なども考えていました。

キッズ事業は一時期250億円くらいまで市場規模が拡大したのですが、我々はキッズ系IP(版権)をあまり持っていなかったので、それらを有する他社に押されてシェアが縮小し、苦戦を強いられ一旦事業撤退するに至りました(現在は「新甲虫王者ムシキング」が稼働中)。その際にはロスを最小化すべく、「引き続き市場で稼働させるためにマシンを改修しよう」とか、「他製品の生産コストを下げるために社内で再利用しよう」とか、「金属として売れば廃棄ではなく売却できる」といった撤退計画を組み、いろいろな部署に「〇〇してもらえないか」とお願いをしながら、事業をクローズしました。

小関:なんと事業の撤退まで。小島様のように営業とマーケティングを行き来するキャリアというのは、御社の中では普通のことなのでしょうか?

小島氏:いえ、おそらく僕のみですね。"とりあえず何かやらせておけば、手離れよくマルチに動かして、それなりにまとめてくるだろう"という評価があったのではないかと思います。日ごろ前例がないところからスタートする案件を、単身あるいは少数で推進することが多かったため、社内でもかなりユニークな存在でした。

とはいえ、ゴールだけは明確に示されているので、ヒト・モノ・カネといったビジネスリソースを...なんていうロジカルな考え方はしていませんでしたが、決められた時間内に求められた結果を出すためには、どこにどういったものが必要なのかを考え、それまでのご縁でのネットワークを辿っていったり、ないところはどなたかに紹介してもらったりしながら、自分自身が縦横無尽に動いて、どうにか繋げていくということをやっていました。

小関:マーケターが抱える課題として、自分が一生懸命考えても営業の方が動いてくれない、あるいは社内の説得が難しい、ということを耳にすることがありますが、小島様のように周囲の人を巻き込んで、協力を得ていくには、どのように動けば良いのでしょうか。

小島氏:大事にしているのは、交渉する際には平身低頭の謙虚な姿勢でいくものの、上下の関係が生まれないようにしています。そのためには、相手に依存しすぎないことと、相手の観点で「ゴールはここだよね」という話から入るようにしていますね。

「こうすべき、ああすべき」から入ると、初動で相手は気分を害しますので、「こういうことをやれば、こんな結果が出ると思うんだけど、どう思う?」と"?"からキッカケをつくり、相手にまず意見を聞かせてもらってから、「だったら、これはいかがでしょうか?」と自分の考えを述べ、「じゃあ、やりましょう」というところまで持っていく。そして最終的には「僕はここを担うので、あなたたちにはここを担っていただきたい」と、餅は餅屋になるように分業について折衝します。

一度、事例さえ作ってしまえば、良くも悪くも結果が出るので、外野で異論や反論を唱える人を黙らせるためにも、何かしらの結果を出してしまうのが、一番手っ取り早いと思います。有言実行するにあたり、営業経験が生かされているのでしょうね。

テクノロジーがお客様相談室の意味を変えた

小関:それでは岡田様のキャリアについて教えていただけますか。

岡田氏:私の方はシンプルで、入社して最初の6年間はゲームセンターの運営をしていました。小学生低学年の頃からゲームセンターがすごく好きで。店内を明るくしたり、メダルゲームをカップルで遊べるようにしたりして、昔は不良のたまり場というイメージの強かったゲームセンターを変えたのはセガなんです。

お客様の不満の解消が店舗スタッフのミッションだったわけですが、当時、本社にクレームを吸い上げる仕組みはなかったですし、お客様からの声が本社でどう扱われているのかわからなかったので、担当部署に直接文句を伝えてやろうという動機で本社に異動して、お客様相談室に配属されました。

以降、これまでの17年間、お客様のホットボイスを取りまとめて開発に届ける仕事をしていることには変わりありませんが、オンラインゲームの普及を契機に、「お客様の声を迅速に取り入れ、もっと大切にしなければ」という風潮が強くなってきたのが、2000年代の後半くらいからですね。

カセットやCD-ROMなど有形のゲームソフトは、世に出た後なかなか直せないんですよ。苦情や要望に対し「次回作で生かします」と謝るしかないことも多かった。けれどもオンラインゲームはアップデートができるので、早ければ明日・来週にもお客様の声を反映することができてしまいます。このような技術変化の中で、私たちお客様相談室の位置付けは、自然と上がってきたように思います。

小関:ゲームのお客様相談室は、きっとヘビーですよね。悪い評判はすぐに広まるでしょうし、お客様相談室の重要性は非常に大きいのではないかと思います。

岡田氏:そうですね。想いが強いお客様が多いですし、ややネガティブ寄りのネットコミュニケーションの中では、私たちユーザーサポートが送ったメールが貼られてネタにされてしまうようなこともあるので、貼られて当然という覚悟と、しっかりとした文章で開発の考えを伝えられる技術は必要です。

ECサイト以外のヘルプデスクの業務には、まだまだクレーム処理・不具合対応のイメージが強い感があるのですが、一方で、マーケティング活動に参画し、ゲームの活性化に貢献したいという思いも強いんですね。

表舞台のマーケティングと、裏方のアフターサポートは、これまでまったく繋がらなかったところですが、テクノロジーの進化によって、そこが繋がり始めていますので、その辺りがIT本部の中で私に求められている役割なのかなと。

小関:御社ではユーザーの動向をどのように分析されていますか?

岡田氏:例えば、オンラインゲームに対するお客様の反応は早く、アップデートから30分もすると、その内容が良かったのか悪かったのかが、ほぼ見えてくるのですが、今までは同じ内容のご意見を手動でカウントし、件数の多いものから届けていたんです。ところが、オンラインゲームは、プレイした時間も、費やしたお金も、異なるプレイヤーが同居するゲームですので、すべての声を一緒に取り扱ってはいけないものなんです。

小島が「SEGA ID」という会員IDサービスを立ち上げ、顧客情報を一元管理できるような仕組みを設計したのですが、ゲーム個々でのデータの前提の違いや、技術的な壁もあって、完全なDBの構築には至っていないため、今は顧客対応履歴と利用状況をかけ合わせて推察したり、個々のサービス開始日時から新規ユーザーか古参ユーザーかを見分けて考えたりして、アナログでやっている部分が多いです。

一方、開発者側では、お客様がどんな遊び方をしているのかというのを、徹底的に分析しています。定量的なデータから考え出した彼らのアイデアを支援するために、私たちの定性的な情報をどうつなげていけるか、模索しているところです。

お客様への還元につながるサイクルを回すためには、私たちがもっとお客様のインサイトを深く理解して、ロイヤルカスタマーへと一歩近づけられるような精度の高い情報を、開発側に届けられるようになることが必要だと考えています。

小島氏:実際、ゲームを1個作るにしても億単位の投資が必要なので、メーカー側も乱発はできないですし、ユーザーの可処分所得・可処分時間も限定されていますから、複数のゲームで遊んでもらおうというのは、昨今では現実的ではありません。それであれば、好みのゲームを見つけて深く楽しんでもらわない限り、LTVなんて語れるわけもなく、ロイヤルカスタマーが離れてしまえば、死活問題になります。

だからこそ、今、楽しんでくれているお客様を逃さないようにすることが大切で、岡田がお客様相談室で対応している日々の積み重ねが、とても大事だと思っているところです。

小関:まさに私どもが提唱しているエンゲージメントマーケティングそのものですね。

次の後編では、お二人が取り組まれているインナーブランディングや、後進の育成について、深く語っていただきます。