これからのマーケティングのあり方やマーケターが目指すべき姿について斬り込む連載企画「Fearless Marketer」。今回は株式会社ReBoostの代表取締役 河合 聡一郎様をお招きし、弊社タレントエンゲージメント&オペレーション ディレクターの千葉 修司が、お話を伺いました。

ビズリーチやラクスルなど数多くのスタートアップの創業に参画し、2017年に株式会社ReBoostを創業された河合様。独立後は、スタートアップを中心に事業戦略と連動した組織戦略の設計、採用戦略全体の策定・実行、ミッションや行動規範の策定、各種研修/育成のフォロー、評価制度の策定や、出資サービスを提供されておられます。

プロのリクルーターとして、多くの企業の経営戦略や組織、採用戦略をご覧になっている河合様に、今、日本で起きている、採用を取り巻く環境の変化について、お話を伺いました。

良い採用をしたいなら、良い会社づくりから始めよう

千葉:昨年11月に、自社採用活動で「採用マーケティング」を実践としてリリース発表をさせていただきました。マーケティング概念を採用活動に取り入れることや、テクノロジーを活用するというのは、これまでのご経験や、採用コンサルを多数されていらっしゃる河合さんからご覧になって、どのように感じられますか?

河合氏:マルケトさんのおっしゃる通り、採用マーケティングは目の前の採用だけでなく、「採用候補者や自社の社員」と言ったカスタマーや経営のことも考えながら、全体像を数字ドリブンで設計しなければならないんですよね。そうしたところが立体的に表現されていたので、「みんなが待っていたのって、これだよね!」と思わず膝を打ちました。

採用マーケティングファネル図
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千葉:ありがとうございます。この採用マーケティングファネルは、決して奇をてらったものではなくて、見る方が見たら、"逆に、なんで当たり前に、こうなっていないのだろう?"と思われるはずなんですよね。

河合氏:少し前まで採用マーケティング関連で挙がっていた話は、「採用イベントをやろう」「採用メディアに記事を書こう」といった一部、テクニカルで局地的なところに議論が偏りがちで、こうやって全体を俯瞰したものはありませんでしたからね。

千葉:私は"良い採用=良い会社づくり"だと思っているのですが、普段、経営戦略や組織づくりの観点から、採用をご覧になっている河合さんは、この点について、どう思われますか?

河合氏:入社後のオンボーディングがしっかりしていて従業員のロイヤルティーが高い組織は、"仲間づくりをしよう"という意識が強いので、必然的に採用に積極的なんですね。だから、逆算して良い会社をつくることが良い採用につながるというのは、その通りだと思います。

千葉:そういう意味では、良い会社づくりが良い採用につながるからこそ、経営戦略から募集要項に落とし込んでいくことが大切だと思うんです。募集要項が経営戦略とズレていたら、良い方に入社いただくのは難しいでしょうし、現場も疲弊していくと思います。"会社にとってベストのタレントが活躍し続けられる環境を整えることが、経営にとって重要課題だ"という流れになると、嬉しいですね。

河合氏:そうですね。日本でも、ここ3年くらいでリファラル採用が流行り始めていますが、"なんだかお金をかけずに良い人が採れそうだ"という発想から取り組み始める経営者がいるのが気になっています。リファラル採用の本質は、そこじゃない。

そこで、私がリファラル採用のご相談をいただいたら、まずは簡単ではありますが、次の3つの質問を聞いていただくようにお願いしています。

Q.1:あなたは会社が好きですか?
Q.2:あなたのスキルや経験を今の仕事に活かせていると思いますか?
Q.3:自分の友人、前職同僚、家族を会社に呼びたいですか?

これらの質問に対してポジティブな回答が得られなければ、その組織のロイヤルティーはまだ改善の余地があるということなので、たとえリファラル採用をやったとしても、おそらく紹介してもらうのは難しいでしょう。逆に、ロイヤルティーの低い人に「誰か紹介してよ」と言うのは、さらにロイヤルティーを下げることにつながりますよね。

千葉:確かに。やはり良い採用と良い会社づくりの間には、密接な関係がありそうですね。

データ・ドリブンでPDCAを回すところから始めよう

千葉:河合さんは、コンサルタントとして、多くの企業の人材マネジメントをご覧になっていますが、リファラル採用以外に、気になるトレンドはありますか?

河合氏:最近、マーケティングやエンジニアリング、ファイナンス周りなど、多種多様な領域でプロとして活躍されてきた方が、人事や採用に入ってきていますよね。これは素晴らしい流れだと思っています。「HRはまだまだより良くできる余地がある」と経営層から見られている証ですから。

千葉:それは弊社のお客様を見ていて、私もすごく実感しているところです。外から入って来られる方は、これまでの当たり前に囚われずに、新たな視点でFearlessな取り組みをされているんですよね。

河合氏:そうなんです。私は今、ビズリーチさんと一緒に「プロ・リクルーター養成講座」という人事・採用担当者向けの実践に沿った講座をやっているのですが、その受講者の中には、他の部門から初めて人事に来た方もおられまして、良い意味でいろいろなことに疑問を持ってくださいます。ゼロベースで考えられるのが良いのではと感じています。

千葉:多様なバックグラウンドの方が人事に入って来られている背景には、どんな理由があるのでしょうか。

河合氏:最も大きな理由は、経営陣からの採用に対する期待値が変わって来ていることだと思います。既存の採用活動ではなく、強い採用をして欲しい、と。

千葉:そのように経営者のマインドがシフトしている会社には、規模や業種などの特徴はありますか?

河合氏:業種・サイズは関係ないです。地方・首都圏も問いませんね。先ほどの講座も様々な参加者がいらっしゃいます。

千葉:そうなんですね。先程、新しく人事に来られる方が持つコンピテンシーの1つに、"疑問を持つこと"を挙げておられましたが、その他で何か特長はありますか?

河合氏:みなさん採用におけるあらゆる「数字」に対してスティッキネスですね。

千葉:人事の施策には、効果が見えるまで時間がかかるものが多いので、"数字を見ながらPDCAをぐるっと回す"という経験が、どうしても少なかったのではないかと思うんですね。

河合氏:すごく同感です。いろいろなHR techが出てくる中で、「変わらなきゃいけない」という意識は多くの人事の方にありつつ「短気の成果につなげる」という意識もありますので、結果的に施策も"HOW"によってしまうのだなと思います。そうではなく、まずは現状の課題を洗い出して、それを解決するために小さな施策から始めて、データ・ドリブンで、自社の勝ちパターンを見つけていってもらいたいなと思います。

人材育成競争の世界が日本にもやってきた

千葉:先日、採用マーケティングでMarketoをご活用いただいているお客様とお話ししていて気付いたのが、"人事は3つくらい後ろのステージにKPIを置いたほうが良いのではないか"ということなんですね。

時間軸とプロセスにズレが生じるからです。研修終了直後のアンケートで満足度が高くとも、そこで学んだことが実際に現場で活かせていなければ、意図することと異なってしまいますよね。3ヶ月後に「あのときの研修が現場で活きてますか?」とフィードバックを求めたほうが、研修の意義に対する正しい効果測定ができるように思うんです。

河合氏:それはすごく素晴らしい発想ですね。人事の方は、強制的にファネルの後工程を意識することになるわけですし。

千葉:採用マーケティングを実践する上で、すべてのステージを一貫して1人の担当者が見るのは不可能に近いですが、ファネル全体を俯瞰するCHRO(最高人事責任者)がいて、KPIを置くステージをうまくズラしながら、PDCAを回せたら...何か良いことが起こりそうですよね。

河合氏:確かに。そうやって人事と事業づくりの目線が近づけば、採用担当の方が次のキャリアステップを考えたときに、経営者やマネージャーの戦略的パートナーとなって事業成長を促すHRBP(HRビジネスパートナー)としての役割を次のキャリアステップとしても、狙っていくことができますね。千葉さんのような方が、世の中にもっと増えると良いなぁ。

千葉:ちなみに、今、こんなに採用が注目されているのは、なぜだと思われますか?

河合氏:大きく2つあります。まずはインターネット業界が代表的ですが、それを始めとして、業種、企業規模問わず、あらゆる業界において事業の変化のスピードが速くなっているために、それに応じて採用のあり方も変えていかなければならないから、という理由が1つ。そして2つめは、人材獲得競争が激しくなっているからです。

20年近く前に出版された『THE WAR FOR TALENT 人材育成競争 (Harvard Business School Press) 』エド・マイケルズ著(翔泳社)という本の世界が、今、日本で現実になってきていますよね。労働人口が減り、顕在層の候補者だけでなく、潜在層からも採らなきゃいけなくなると、経営戦略やエンゲージメントも含めて真剣に向き合わなければ、採用できない時代が目前に迫っている。だからこそ、リクルーティングに対する期待が高まっているのではないかと見ています。

千葉:『THE WAR FOR TALENT 人材育成競争 (Harvard Business School Press) 』のポイントの一つは、上記の採用マーケティングファネルの右側、つまり入社後の給与やキャリアパスといった、これまでブラックボックスだったところが可視化される世界になることですよね。だから今、日本がグローバルに遅れていたA&R(アトラクション&リテンション)の取り組みが進み始めているんでしょうね。

河合氏:そうですね。日本でもSNSや関連サービスが浸透し、個人に情報発信ができることにより、会社の実情が可視化されるようになってきましたから。やっぱり、良い会社づくりが良い採用に繋がると改めて実感しました。

千葉:次回は、従業員エンゲージメントについてもお話したいですね。本日はどうもありがとうございました。

取材日:2018年12月6日