株式会社ニューズピックス 取締役CCO 佐々木 紀彦様をゲストにお招きしてお届けしている「Fearless Marketer」。

前編に続き後編では、ROIだけでは測れないリアルな空間やブランド広告の価値などについて、NewsPicksの事例を豊富に交えながらお話いただきました。聞き手は弊社マーケティング本部長の小関 貴志と同社のMarketo活用を支援しているソリューションコンサルタントの石野 真吾が務めます。

大切にしたいのはデジタルとリアルのバランス感

小関:一般的にはコンテンツを相手の好みに合わせて出し分けていくことが良いと言われていますが、それが進みすぎると自分が目にするコンテンツが偏りすぎてしまう危険もあると思います。その点、NewsPicks Booksで送られてくる本は、私が本屋さんではおそらく手に取らないであろう類の本で、読んでみると興味深いものがたくさんあるんですよね。これは私にとって"揺らぎ"であり、これこそが大きな価値を生んでいると思うのですが、この辺りのバランスについては、どのようにお考えですか?

佐々木氏:2つの軸があって、ひとつ目は、「デジタルの中で『パーソナライズされたコンテンツ』と、『みんなが見ている一般化されたコンテンツ』の両方を用意しておくこと」が大切だと考えています。NewsPicksの中で言えば、総合トップのコーナーは人力で編成して、みんなで共通の話題が語れる空間になっていますが、隣のマイページではパーソナライズされたコンテンツだけが表示されるようになっています。

ふたつ目は、「リアルな空間を大事にすること」ですね。リアルな空間はパーソナライズが難しいので、未知なコンテンツと出会うチャンスがある。今も東急プラザ銀座でNewsPicksがプロデュースするポップアップ書店をやっているのですが、それはリアルな空間でしか体験できない新たな発見を提供できるからです。今後もネット企業ほどリアルビジネスに力を入れていくでしょうし、中長期的に見ればそのほうが伸びると思いますね。ROIでみると、そんなに効率的とは言えないのですが。

小関:リアルな空間は重要ですよね。

佐々木氏:どうしても労働集約的になってしまうので、ビジネスとして効率が良いかと言われると難しい所にはなるものの、それをちゃんとデジタルに還流できる仕組みさえあれば、絶対にやったほうが良い。コストがかかるのでみんなやりたがらないのでうまくやればビジネス戦略的にも差別化できますし、リアルを体験したユーザーのロイヤルティやエンゲージメントはグッと高まりますからね。

六本木にいるとネット空間で7〜8割の物事が起きているような錯覚に陥りますが、オフラインでユーザーと実際にお会いすることによって、意思決定も変わってきます。デジタルだけでも、リアルだけでも歪みが生じる。両方あることがバランスの良い意思決定に繋がります。これからはデジタルとリアルのミックスをいかにうまく設計するかが、鍵になるのではないでしょうか。

恐れずに"誰に愛されたいのか"を定めよう

石野:デジタルとリアルのミックスというのは非常にアーティスティックな部分で、中長期的な視点で先を見据えた強い意思がないとできないことだと思うんです。特にBtoBのマーケターにとっては、非常にハードルが高い。経営者にその意識がないと、ROIの観点で一刀両断されておしまいになりがちですよね。

佐々木氏:つまり、マーケティングはセンスのあるトップが直轄していないと厳しいということですね。

石野:そうです。良いモノを作ったら売れると信じている経営者が、いまだに多く残っていますから。佐々木さんはいろいろなチャレンジをされていると思いますが、ROIを考えたらできないような取り組みを実行するときには、どのような基準で意思決定をされていますか?

佐々木氏:良い質問ですね。うちも数字ベースで判断するので、結構厳しいですよ。ただ、最後は社長の梅田が決断するのですが、彼は数字を見ながらも、その企画が「面白いかどうか」、「クリエイティブかどうか」というところを大切にする人間なので、彼を唸らせるようなアイデアであれば、実現できます。

例えば、我々は昨年、日本経済新聞の朝刊に「さよなら、おっさん。」というコピーを載せた全面広告を出したのですが、あのキャンペーンは有料会員の獲得だけを考えると、Facebook広告に投下したほうが効果はあるんですね。それでもあえて新聞を選んだかというと、社会にメッセージを投げかけたかったからです。

スタートアップの良くないところは、広告費のほとんどを獲得に投じるところですよね。クリエイティブな広告を出しているところがないからこそ、あえてそれをやることが面白い。それに、今の広告業界ではネガティブなメッセージを出すことはタブー視されている中で、批判が来そうなメッセージを逆張りで出せば、目を引くことができます。こうした意義を細かく私が説明することで、この企画が通りました。

佐々木氏:これができたのも私が記者出身だからなのかなと思っています。記者や編集者は「面白ければ読者が反発しても良い」と考えるので、好かれることだけを求めたりはしないんですね。その発想を広告に入れたことで、ちょっと新しいものができたのかなと。

だからマーケターの方も、データを見て「ユーザーに共感してもらえるか」と過剰に考えすぎるのは、良くないんじゃないかなという気がしますね。ユーザーも気まぐれですから。ユーザーを大事にしながらも、ユーザーを信じ切るのも良くない。ユーザーがまだ気付いていないような一歩先の未来を提示したり、ちょっと違和感を覚えるようなことを提示したり。ユーザーに驚きを与えるのも立派なマーケティングではないかと思います。

小関:まさにFearless Marketerですね。

佐々木氏:"Fearless"は、とても良いキーワードですね。言い換えれば、「誰に愛されたいかを明確にする」ということかもしれない。みんなに好かれようとするサービスは、誰からも愛されないことになりかねないと思います。

マーケターは教養人であれ

小関:かつて、お客様の購買基準は人脈だと言われていたところから、合理性に基づいて購買の意思決定をするようになり、今になって再び人脈が大きな影響を与えるようになっている気がするんですね。情報が溢れているがゆえに、信頼する人が推薦するものを選んでおけば間違いないと。

佐々木氏:その最たるものがNewsPicksのニュースですよね。昔は「新聞を読まないと大人として恥ずかしい」とか「仕事相手と共通の話題を作るために新聞を読んでおかなければならない」といった社会的な強制力がありましたが、今はソーシャルメディアを眺めているだけで、自分にとって必要なニュースは自然と入ってきていると思うんです。それに加えて、NewsPicksで自分の信頼する人がPickした記事を読むだけで、未知な情報にも出会えますし。

小関:ちなみに佐々木さんの情報源はどこですか?

佐々木氏:NewsPicks、Twitter、本屋に行く、テレビをざっくり見るといった感じで、バランスは悪いと思いますよ。

小関:どこかのタイミングで基礎ができていたから、今はそれで事足りているということではありませんか?

佐々木氏:基礎を何と定義するかですが、若いときに何らかの専門性を定めて、読書や勉強をしっかりとしておくのは大前提だと思いますね。それができたら、あとは好奇心のおもむくままに、芋づる的に情報を取ってくるのが、一番イノベーティブな発想に繋がる気がします。

小関:やはりそうですよね。その前提を踏まえた上で、若いマーケターの方がご自身のキャリアを考える際に、何かアドバイスはありますか?

佐々木氏:まずは、電通の人に負けないような力をつけること。彼らとコラボレーションしながら刺激を受け、彼らに負けないくらいの実力をつけることが大切だと思います。

そして、出来るだけ早く、大局を描ける立場に行くこと。日本のマーケティング部門だと50〜60代の上司がいて、若手にはTwitterだけ任せるといったことになりがちです。それでは狭い専門家にしかなれないので、早いうちにすべての予算を管轄して自分で考えることができる場所に行ったほうがいい。

最後は、幅広い知識を身につけること。これからビッグデータやAIが発達すればするほど、科学では証明できない「人の心をどう動かすか」といったセンスが求められるようになるはずです。進化生物学を学ぶことで人間の本能がわかるようになるかもしれないし、文学でストーリーテリングを学ぶことも大事でしょう。心理学や哲学を学ぶことも意義がありますよね。マーケターほど教養が試される仕事はないんだろうなと思います。

小関:趣味も大切にしてほしいですよね。

佐々木氏:そうですね。本を読むのも、音楽を聴くのも、旅に出るのも、きっと何かプラスになる。マーケターって、相当面白い仕事ですよ。

小関:本日は貴重なお話をありがとうございました。

取材日:2018年11月13日