これからのマーケティングのあり方やマーケターが目指すべき姿について斬り込む連載企画「Fearless Marketer」。今回はデジタルを活用し、中小法人に向けた新たな価値創造に取り組まれておられる、株式会社みずほ銀行 リテール・事業法人業務部 新規事業推進室 室長の半田 邦雄様をお招きし、弊社 代表取締役社長 福田 康隆とともに、語り合っていただきました。

みずほ銀行様は、昨今の時代の変化をどのように捉え、テクノロジーを活用した営業変革を起こされていくのでしょうか。前後編でお届けします。

どういったアプローチによる価値創造に取り組んでいるのか

福田:一般的に、日常生活の中で銀行様と触れ合う機会といえば、オンラインバンク・支店・コンビニのATMなどでお金の入出金や振込をするときだという方が多いので、どうしてもBtoCのイメージが強くありますが、半田室長がご担当されているのは、BtoBでいらっしゃいますよね?

半田氏:はい。私は1993年にみずほフィナンシャルグループに入社して、いくつかの部署を経た後、今の法人向けの企画部門に12年半くらい勤めています。これまで必ずしも十分に対応できていなかった、中小法人に対するアプローチの仕方について考え続けていたものが、今ようやく形になろうとしているところです。

福田:それを実践する術が「デジタルを活用した価値創造」だということですね。今回のお取り組みを始められた背景には、何があったのでしょうか。

半田氏:〈みずほ〉は80万社ほどの法人のお客さまとお取引いただいています。"銀行の法人営業といえば、担当者がお客さまと膝を突き合わせるスタイルが基本だ"というイメージがあり、我々も長きにわたりそうした営業活動を行ってきたわけですが、残念ながら80万社のうち、膝を突き合わせて十分な接点を持つことができているお客さまは、それほど多いわけではありません。〈みずほ〉として日本の産業を支援するためのいろいろなサービスやソリューションを用意している一方で、口座を開設していただきながら、必ずしも十分なご提案ができていないお客さまが、多くいらっしゃると感じていました。

このため、今までとは違ったお客さまへのアプローチ方法を模索したり、中小法人のお客さまにとって、より使いやすいサービスを追究したりする取り組みを、3年ほど前から本格的に始めています。

とはいえ、人手に頼ったやり方には限界がありますし、従来とは違う発想で"いかにお客さまとの接点の質や量を上げていくか""お客さまの利便性を感じていただけるか"というのが、一番難しいチャレンジだと考えています。

法人分野にもフィンテックの波を

福田:3年ほど前から中小法人の営業変革に取り組まれているとのことですが、日本全体でも人手不足が叫ばれる中で、貴行でも大きな変化を感じ取っていらしたのですか?

半田氏:そうですね。ひとつには、よく言われている"フィンテック"というキーワードがあると思います。

フィンテックというのは、一般的に既存銀行や金融機関の在り方自体を破壊するような、新たな非金融系企業のビジネス・サービスのことと捉えられているものと理解していますが、これが普及することによって、我々が従来の発想やスタンスでお客さまにサービスを提供し続けるだけでは、これまでお取り引きいただいていたお客さまにもいずれご満足いただけない状況になるのではないかと危惧しています。

ましてや、これまで十分にアプローチできていなかったお客さまにとっては、銀行と取引する意味が次第に薄れてしまう可能性も十分にあるだろうと。

一方で、我々、銀行は、経済活動にとって単なる"資金融通"だけでなく、"安心・安全の提供"など本質的に重要な機能・役割を持っていると考えていますので、むしろ、従来とは違った考え方やアプローチの仕方、我々自身がフィンテックを体現していくことで、お客さまとの新たな接点が見えてくると考えています。

福田:確かにフィンテックという言葉は、この数年で一気に注目度が高まりましたよね。その中で、みずほ銀行様はいろいろな外の企業とパートナーシップを組みながら、いち早く次世代に向けたお取り組みを進めていらっしゃったように思うのですが、いかがですか?

半田氏:そうですね。〈みずほ〉全体では、いろいろなチャレンジを早い段階から進めてきたと思っています。個人分野では、例えば、ソフトバンクさんと連携し、AIを活用したスコアリング融資を行っている「J.Score(ジェイスコア)」や、法人分野では、クラウド会計事業者との連携などが挙げられます。

とはいえ、フィンテックの文脈では、コンシューマーサイドで先行してきた部分が大きく、法人の分野では依然として "最後はやっぱり膝の突き合わせが大事だよね"という発想が日本には残っていると思うのです。

我々は、"日本のマーケットは独特だから"とお茶を濁すのではなく、既に先行する海外を見据え、日本においても従来の既成概念にとらわれない考え方で、新たなマーケティング手法の確立に向けたチャレンジをもっと進めていこうと考えています。

ペルソナを限定できない中小法人のBtoBマーケティングの難しさ

福田:お話を伺っていると、業界は違えど、私どもITの世界でも、同じような課題や動きがあるように思います。IT業界でもコンシューマーサイドは、メルカリのような新たなサービスがどんどん出てくる一方で、法人向けでは"オンラインだけで済まそうとするなんて"といった風潮も残っていますよね。

そうした中でも、ようやくこの数年、Web会議やチャットツールでのサポートなど、テクノロジーをうまく使って、幅広い顧客層にリーチする取り組みが、次第に進んできている状況だと思います。

みずほ銀行様が想定されている"中小法人が本当に求めているサービス"とは、具体的にどのようなものでしょうか。

半田氏:これが難しいところで、中小法人と一括りに言っても、法人のペルソナは、コンシューマーサイドのように1対1で見ることができません。当然のことながら、業種によっても違いますし、たとえ同じ業種であっても、我々と接しているお客さまが、例えば、代表者なのか、役員なのか、財務担当なのか、といった職位や役割によって、抱えている課題や銀行に期待していることがまったく異なってきますよね。

加えて、昔から長く商売をされている方は、依然、膝を突き合わせたダイレクトな接点の期待が強い印象に対し、スタートアップの企業の中には、"煩わしいことは極力省いて、個人のようにスマホでシンプルに物事を進めたい"とお考えの方も多くいらっしゃると感じています。

あるいは、飲食店のような個人事業主は、事業規模の拡大よりも安定性を志向している方もいれば、創業間もない法人だが、3年後にはIPOを目指している方もいらっしゃるわけで。

このように、お客さまのシチュエーションによってもさまざまなニーズがあり、我々はできるだけ多くのお客さまに寄り添って、エンゲージメントを高めていくことが大切だと思っていますし、また、お客さまの業務効率化・コスト削減など、目に見えるベネフィットをご提供したいと考えています。

福田:まさに、中小法人が一括りにできないというのは、我々も同じようなことを感じています。私どもの初期の頃のお客さまは、成長企業のスタートアップが多かったんですね。確かに従業員規模で見れば、スタートアップも中小法人ではありますが、一方で創業100年の老舗企業も中小法人なわけで。この両者では、同じ課題をお持ちだとしても、私どものマーケティングメッセージに対する受け止め方はまったく異なりますし、アプローチの仕方にしても、訪問して欲しい方もいれば、できるだけメールで済ましたい方もいらっしゃいます。

そうしたペルソナを限定できない難しさがあるからと言って、大企業だけ1to1でしっかりと対応していてはダメで、そうした多種多様な粒の集まりである中小法人に対しても、きちんと向き合っていかなければいけないと、私どもも考えています。

ちなみに、口座開設後の商品提供というお話がありましたが、顧客のライフサイクル全体を見据えるという考え方は、もともとお持ちでいらっしゃったのですか?

半田氏:そうですね。特に、中堅法人であれば、"成長戦略支援"という形で、潜在的なニーズを掘り起こしから寄り添い、お客さまの求めているものの提供を通じて、成長を支援する取り組みを行ってきました。

今、我々が考えているのは、この中堅法人に対する取り組みと同様に、中小法人に寄り添った成長戦略支援を実践したいということです。

そのためには、まず我々の基本的なサービスを通じて、効率的な経営体制を構築いただくことで、中小法人のトップの方がより本業に注力できる環境を整えることが重要だと考えています。

次の後編では、みずほ銀行様のMarketoをはじめとするテクノロジー活用やデータ戦略に対する考え方などについて、さらに詳しくお話を伺っていきます。

取材日2018年10月24日