Japan Digital Design株式会社 代表取締役 CEOの上原 高志氏をお迎えしてお届けしている「Fearless Marketer」。

前編に続き、後編では、上原氏が思い描く、新しい金融の次世代UXについて、弊社 代表取締役社長 福田 康隆がお話を伺いました。

次世代の体験がもたらす未来の暮らしとは

福田:だいたい月に1度の頻度で海外に行かれているとのことでしたが、特にアメリカのテクノロジーは日本より先行しているとよく言われる中、上原様はどのような印象をお持ちですか?

上原氏:クラウドやマーケティングの分野では、確かにアメリカの方が先行しているかもしれませんが、実際に何かを体現するデバイスやメカといったモノづくりの部分では、まだまだ日本が優れていると思っています。シリコンバレーで学べるのは、多様性のある着眼点やトレンドですね。

福田:御社では次世代の新たな金融UXを創造することがひとつのテーマになっているかと思いますが、具体的にどのような領域を見ておられますか?

上原氏:我々の母体である三菱UFJ銀行にもR&Dのセクションがありますので、近々ローンチするようなRPAやMUFGコイン等の領域は、彼らがやっています。僕らが見ているのは、もうちょっと先の未来ですね。"次世代の体験をどう作るのか"というミッションなので、特定のテクノロジーに固執することなく、次の体験を作るために必要な要素・技術であれば、取り入れますし、将来、良い体験が生まれそうだなという予感のあるものは、ウォッチしに行くというスタイルでやっています。

ペイメントや貸出といった個別の機能というよりは、"どういう場面で、どんな人たちが困っていて、どう改善しようか"といった包括的な体験に目を向けています。

例えば、今、関心を寄せているのがATMです。今はモバイルアプリやインターネットバンキングがありますが、実際の利用者数はMUFGの3,400万ユーザーのうち、アクティブなのは約2割弱に過ぎないんですね。そうすると、どんなにオンラインの世界を高度化しても、残りの3,000万人は置いてけぼりになってしまいます。

宅配業者さんと話をしていると、今でも代引きが結構使われているそうなんですね。ネットショッピングを利用している若い女性で、クレジットカードの情報をオンラインに上げたくないという方がいる一方、それ以外のかなり大きなマーケットとして、50代〜60代くらいの方が利用するテレビや新聞の通販があるんです。その人たちはクレジットカードをそもそも持っていなかったり、使う習慣がなかったりするので、実際に商品を受け取った引き換えにお金を渡したい。

そのような方々にとってみれば、インターネットバンキングは必要ないのですが、彼らをデジタルに引き上げることはできないかと考えているところです。ATMでキャッシュカードを入れて暗証番号を入力することには、みなさん抵抗がありませんから、この一連の体験中のどこかで、ある認証をすればデジタルにつながるようにできないかと。

ATMの機能はフルバンキングなので、住所変更もできれば、納税もできますし、宝くじだって買えますし、行政サービスを受けることも可能です。つまり、キャッシュをともなう入出金以外は、モバイルで代替できてしまうので、そのようなATMの一部の機能を切り出したアプリを作ろうということで、今、取り組んでいます。

福田:面白いですね。キャッシュレスの世界へ一足飛びに行こうとするのではなく、慣れた体験をベースに、一歩ずつステップを踏みながら、デジタルへ引き上げていこうとされているのですね。

上原氏:東京だけをベースにして考えるのではいけないと思っていて。都心はSuicaのオートチャージさえあれば生きていけますから、すごく便利なんですよ。しかも日本は車社会ではありませんし、働く人々の定期券に結びついていますから、Suicaは最強ですよね。あれだけの体験があるのに、それでもデジタルを使わない人たちって、UXの問題ではなく、根本的に"困っていない"のだと思うんです。

もしかしたらポイントを付与すれば使うかもしれないけれど、キャンペーンを止めた瞬間に、みんなが使わなくなったら意味がないので、困っているところにソリューションを提供すべく、"まだ使っていない人が、どんな場面なら使いたくなるのか"という観点で体験を生むことにより、結果としてデジタルになっているというアプローチを模索しています。

福田:確かに、先日、福岡に行った際に、福岡のタクシーはクレジットカードさえ使えないという現実に、衝撃を受けました。東京だとApple PayやSuicaで支払っているので、手持ちのキャッシュがなくて「ちょっとコンビニに寄ってください」とお願いして、現金を下ろして払ったんですよね(笑)

あと、私どものオフィスは六本木ヒルズにあるのでUber Eatsでランチを頼む人も多いのですが、同じ東京でも少し離れるとサービスが使えませんし、こうした体験の格差は、だんだん広がっているんでしょうね。

上原氏:そうですね。晩婚化や高齢単身世帯が増える中、Uber Eatsのように事前決済しておけば、"家の前に置いたらおしまい&顔を合わせることなく安心して受け取ることができる"というサービスであったり、宅配のついでに訪問介護の担当者も一緒に運んであげるサービスであったり、わざわざどこかに鍵を取り行かなくても何かしらの認証で要介護者のお宅の鍵を開けられたり...。

考えられることは色々ありますが、こうしたソリューションの体験をシェアすることで、1つのサービスでは不採算であったとしても、いくつかコネクトすることで採算が成り立つようになる。それによって最低限のインフラが整って、単身世帯でも互助的に生活することができますよね。

まさに金融とは、そういう仲介する立場なんですよ。僕らは何も作っていないので、大企業やスタートアップと組みながら、仲介するようなモノや媒体ができれば、掛け算で新しいサービスや暮らし方が提供できると考えています。

福田:シェアリングエコノミーの基盤作りには、金融の存在が不可欠だということですね。

シュリンクする時代に求められる顧客視点のビジネス戦略

福田:何か他にも御社でチャレンジされている領域はありますか?

上原氏:今までだと計算機能の限界があったので、銀行の口座同士をつなぐのは、次の次、または次の次の次の支払先までが限界だったのですが、大規模マッピング技術やトポロジーといった技術を使って、無限大までつなげていく取り組みも始めています。これが実現すれば、突如として現れた口座は詐欺だと判別することができますし、企業の経済活動を立体的に見ることで、決算書がいらない世界が創れるのではないかとトライしているところです。

福田:企業の信用力の判断も自動的に行えるようになると。

上原氏:私はアンチ目利きなんです。目利きなんて嘘だと思っていますので。かつて高度経済成長の頃はGDPが非常に伸びていたので、目を瞑っていてもデフォルトしない時期というのがあったんですね。経済成長している時代には、たくさんの名経営者がいましたけど、じゃあその人たちが今、経営してみたら、そううまくはいかないと思うんです。

それは中国も同じで、今はアリババやテンセントが台頭していますが、GDPが10%、落ちたと言っても6%も伸びていれば、放っておいても、そうした巨大企業は出てくるんです。何も持っていない人がモノを買うのですから、まぁ10社あったら5社くらいは当たるわけです。しかし、今の日本ではGDPが縮小しているので、10社中1社しか当たらない可能性もある。経営の難易度が全然違うんですよ。過去は目利きができていたのではなくて、経済環境が良かっただけだと。だから今はビジネスモデルの変革が迫られているのだと思います。

福田:上原様のお話を伺っていると、非常に顧客に視点が置かれているなという印象を受けましたし、体験という表面的なところだけではなく、さらに踏み込んだところに目が行かれていると強く感じました。そのような中で、広く市場を見渡したときに、今後どのようなビジネスの展開を考えていらっしゃいますか?

上原氏:まず日本で言えば、全国、東京だけでなく地域全体を考えています。データやマーケティングの観点では母数を増やさないといけないので、MUFGの中で取り組みを重ねながら、共感いただける地方銀行に対して、我々のノウハウをどんどん出して共に収益化していくことと、逆に我々が持ち得ない接点は地方銀行から提供していただいて、データの質と量を上げていくというのが第1フェーズです。

次のフェーズでは、そこで我々が培ったアプローチやアーキテクチャーを、MUFGが持っている世界の子銀行(西海岸のユニオンバンク、タイのアユタヤ銀行など)に移植していくことで、わかりやすくスケールアップしていきたい。

中国は少し時間がかかると思っています。リーガルも含めて難しい国なので。ただ、莫大な人口や経済活動は無視できないですし、アメリカよりも地理的な近さがあるので、マーケットとしてはやはり魅力的です。なので、中国では中長期的に良好な関係を構築するところから始めていき、彼らの中に入り込んで協業体制を築き上げていくことが重要かなと。

福田:ITの世界ではエコシステムという言葉でよく語られていますが、いろいろな企業と連携しながら大きな経済圏を作っていくとするならば、どんなプレイヤーに興味がありますか?

上原氏:やはりテンセントは外せないでしょうね。インフラ周りでいくとAWSも非常に重要なパートナーです。大企業や金融機関はクラウドを使うことに対してハードルが高いと思っているので、我々が培ったセキュリティの知見等を生かして、どんどん効率的に使っていただくためのアーキテクチャーを我々が創り、そして、提供できるのではないかと考えています。もっと言えば、「MUFGのアカウント上に構築したアーキテクチャやアルゴリズムをPaaSとしてご利用いただければ、安全ですよ」とオペレーションも含めて提供できるようになりますので。

福田:様々な方面に広がる可能性があって、非常に面白いですね。我々も顧客の深いインサイトを感じ取る能力を持った、バランスの良い人材を育てていきたいと思っていますので、上原様のお話は大変参考になりましたし、領域は違っても根本で目指している顧客体験や1to1、エンゲージメントといった考え方には、非常に近しいものがあると感じました。本日はどうもありがとうございました。