今後のマーケティングのあり方、マーケターが目指すべき姿について斬りこんでいく連載企画「Fearless Marketer」。今回は、 Japan Digital Design株式会社 代表取締役 CEOの上原 高志氏をお迎えし、弊社 代表取締役社長 福田 康隆とともに、語り合っていただきました。

Japan Digital Design株式会社(以下JDD)は、次世代の新たな金融UXを創り出すために、三菱UFJ銀行内のイノベーション・ラボがスピン・オフして2017年10月に創業されました。銀行のアナリストから海外留学を経て、同社の創業をリードされた上原様。大企業で自己実現を果たすために、どんな風にキャリアを歩んで来られたのでしょうか。上原様のエキサイティングな仕事遍歴について、お話を伺いました。

前後編の2部制でお届けします。

大企業で自分のやりたいことを実現するために

福田:まずは上原様のご経歴と会社概要について、教えていただけますか。

上原氏:大学では建築や都市設計等の社会工学を専攻していたのですが、1995年にまったく畑違いの金融機関に入りました。拠点で営業を少し勉強した後は、小売・外食・アパレルといったリテールセクターを中心としたアナリストとして、7年間くらい勤めました。それから企画に異動して経営のサポートをした後、新規事業の企画を担当している中で、2007年から企画を始めて2009年にローンチした電子債権・電子手形のビジネスを日本で最初に事業化した経験があります。これが1社目に創った会社で、このときは企画の立案〜システム開発〜広報まで何でもやりました。この事業はスケールして、今では10万社の法人にご利用いただいており、平均決済額が約5兆円、連結で約60〜70億円の収益が上がるようになっています。

そこからロンドンに留学して、帰ってきて新しい企画を立てようとしたのですが、もっとお客様が育たないと、銀行業務の将来は成り立たないという考えに至りました。いわゆるゲームアプリではなく、ライフサイエンスやロボティクスのスタートアップを育てようということになり、アクレラレーターをしたり、大企業とマッチングをしたり、シリコンバレーのベンチャーキャピタルに投資をしたり。そのような仕事を、3年くらい続けているうちに、シリコンバレーでネットワーキングができまして、ちょうどフィンテックという言葉が流行りだした時期でもあり、経営陣から、2016年にイノベーション・ラボ室というものを立ち上げるので、そこの初代所長に就任しろということになりました。

そのときにブロックチェーン・AI・認証といったテクノロジーを自ら扱う立場にサイドチェンジしたのですが、銀行の中で続けるには、都度の予算確保や人材採用において、どうしても制約が生じてしまうということで、「このままでは偉大なる無駄遣いに終わってしまうので、スピン・オフの形で外に出してもらうか、あるいは潰すか、選んでいただきたい」とMUFGグループのCEOである平野に提案して、この会社を設立することになりました。

福田:これまでエリートコースを歩んで来られた中で、ご自身の声を通されてきた印象を受けたのですが、三菱UFJ銀行という大企業で働きながらご自身のやりたいことを実現する秘訣は、どこにあるのでしょうか。

上原氏:ひとつは、若い頃アナリストとして鍛えてもらったことですかね。当時のアナリストは徒弟制度でしたので、国会図書館にしかないような情報も含めて、「その業界で知らないことはないくらい調べあげろ」と指導されました。そのときに、"ミクロで起きている現象をマクロで捉えて、論理的に思考する力"と"自分の考えを文書に落とし込む力"が養われたと思います。当時は、経営に関する書籍を週に1冊読んでいましたね。年間52冊。それくらいしないと、経験を積んだ経営者に対してインタビューすることができませんので。自分からの質問のレベル以上の答えは返って来ないので、質問の質が良くないと、インタビューの意味がなくなってしまうんです。

福田:すごくプレッシャーを感じますね(笑)

上原氏:もうひとつは、企画をやっていた30代前後の頃に、銀行経営者が経営判断をするための材料を集めて、「こういう判断をすべきなのではないか」といった物事を決める場に立ち会えたことが大きいと思います。その後、新規事業を立ち上げて、定款の作成から0→1で会社の創業からスケールさせるところまで経験できたので、自分の頭の中にあったものがリアルになる体感を得られたことは、今に生きています。結果的に、これまでやってきたそれぞれの体験が、すべて今につながっているんですよね。

福田:素晴らしいですね。留学では、どんなことを感じられましたか?

上原氏:それまでインターナショナルとは縁遠い世界で生きてきたので、留学でロンドンに行くまで、まったく英語が話せなかったのですが、人事から留学を命じられたので、そこから試験勉強を始めて...。非常にダイバーシティに富んだクラスで、52人の学生が22カ国から集まっていたので、いろいろな考え方や宗教観を知ることができましたし、訛りのきつい言葉の方とも意思疎通を図ることができる、コミュニケーション能力は身についたと思います。

多様性を大切にしたJDDの組織作りとは

福田:今も海外に行かれることは多いですか?

上原氏:平均すると月に1回くらいですね。一番多いのはシリコンバレーですが、今は中国とやり取りをしていますので、上海・深圳・広州にも行きます。

福田:まさに最先端ですね。上原様が培って来られた論理的な思考とテクノロジーをマージして、ビジネスをスケールされていくと思うのですが、そうした世界観を実現するために、今後どのようなチームを築かれていく予定ですか?

上原氏:ようやく昨年の10月にこの会社が立ち上がって、エンジニアもそれぞれの領域から入ってくるようになりました。今いるメンバーは、外部採用だけで16人、あと地方銀行のパートナーシップで、トレイニーの方を35名受け入れています。他にもベンチャーキャピタルの投資を10年間やってきた銀行出身の人とか、銀行で長年デジタルに携わってきた人とかもいたりして、ようやくモノが作れる体制になってきたところです。

その中で私が大切にしているのは、多様性です。いろいろな働き方の人や、いろいろな経験を持った人を混ぜていく。その上で、混ぜた後のコーディネートができるスクラムマスター的な人材も必要です。その人によって、デザインシンキングに基づくモノの捉え方や考え方を広めていき、最終的には一人ひとりができるようにならないといけないと考えています。今は、ひたすらそういう人を中に入れて、彼らがちゃんと仕事ができる環境を用意しながら、多様性の確保に向けて動いているところです。

福田:一見、矛盾するようですが、多様性が大事な一方で、共通の価値観を持つことも大事だと思っています。御社では、どのような価値観を大切にされていきたいですか?

上原氏:"新しい金融の体験を通じて、社会を変えよう"というのが我々のビジョンになっていますので、"新しい体験を作りたい"というのがひとつの価値観ではあります。"こんなテクノロジーをやりたい"というのは個人の趣味嗜好として持っているのは構いませんが、我々が体現したいのは、あくまでも新しい金融の次世代の体験です。ここに共感できる方に集まっていただきたいですね。

福田:私どもの組織では、営業・マーケティング・エンジニア・バックオフィスといった旧来の縦割り編成にしているのですが、御社のようなイノベーションを起こしていく企業では、どのような組織体系を採られていますか?一人ひとりがビジネスプランナー的な存在なのでしょうか。

上原氏:一人ひとりがビジネスプランナーにはなれないですね。ビジネスのコンセプトやアイデア出しができるかどうかは、それまでの体験やもともとの性格・性質・キャラクターに依存するところが大きいので。どちらが良いか悪いかではなく、できるタイプの人に任せるしかない。コンセプトができあがれば、それを実現するためにチームプレーで動ける人は、結構いるんですよ。そこのバランスをとりながら、コミュニケーションを良くしたり、自分のビジョンを適宜伝えたりするようにしています。

実働としては、個々のプロジェクトメンバーにお任せ状態なのですが、私の直接の部下に当たるメンバーが5~6人くらいいて、その人たちに私のイメージや感覚をわかってもらうことが、私が最もやらなければならない仕事で、これはどんなに忙しくても毎週やってます。また、2週間に1度の全体会でのディスカッションも大切にしていますね。

福田:今後も採用は積極的に続けていく予定ですか?

上原氏:そうですね。あと20〜30人は増やしたいです。うちの組織は平均年齢が34.5歳で、下は27歳〜上は私の45歳。主なメンバーは30代です。いろいろな会社やフリーランスで働いて、サービスをちゃんと仕上げたことがあるという脂が乗った方々がそれぞれの分野で入っています。みなさんプロなので大変なこともありますけど、新しい発見がずっと続いていて、面白いんですよ。

うちは働き方もかなり柔軟で、"副業可"ではなく"副業でも可"としているくらいなので、お子さんが生まれたばかりの方とか、ご両親の介護をしている方など、9時-5時を固定でフル稼働するのは難しいという方も普通にいます。べったり会社にいることが重要なのではなく、経験があって、腕も良くて、頭も良いという方を求めているので、メールやSlackだけではなく、ZoomやSkypeでのFace to Faceをうまく使いながら、あたかもここにいるかのようにちゃんと仕事ができるようなリモートの環境作りには、力を入れて取り組んでいます。

次の後編では、JDDが思い描く、新しい金融の次世代UXについて、深く語っていただきます。