これからのマーケティングのあり方や、次世代リーダー、マーケターが目指すべき姿について斬り込む連載企画「Fearless Marketer」。今回は弊社 バイスプレジデントの小関 貴志がfreee株式会社(以下freee)様を訪ね、執行役員 CMOの川西 康之氏に、お話を伺いました。

freee様が提供されているクラウド会計ソフト「freee」は、「アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォーム」というサービスコンセプトのもと、個人事業主から500名規模の中堅法人まで100万を超える事業所で導入されています。

創業から約6年で、従業員数が465名へと急成長しているfreee様とのおつきあいが始まったのは、マルケトが日本に上陸して間もない4年前にさかのぼります。2014年10月にMarketoを導入いただいて以来、数々のトライ&エラーを重ねながら、今では従業員500名のうち50名がMarketoをご利用いただいているのだそう。そんな同社のマーケティング組織を率いる川西氏は、"freeeで日本最強のBtoBマーケティングチームを作りたい"と熱く語ります。

事業部を横断したマーケティング組織を統括されている川西氏の前職は、Webマーケティング関連会社の経営者。経営者からCMOへと異色の転身を遂げた川西氏の人物像に迫ります。

前後編の2部制でお届けします。

経営者からCMOになったからこそ見えてきたもの

小関:まずは川西様のこれまでのキャリアを教えていただけますか。

川西氏:大学在学中の22歳のときにWebマーケティングの会社を起業して、freeeに入る32歳までの約10年にわたって、自分の会社を経営していました。僕が学生の頃って、ちょうど第二次ITバブルの時期で、大学の先輩の堀江さんが時代の寵児として、もてはやされていたんですよね。「自分もこうなりたい!」「起業家って、かっこいい!」と思って会社を作りました。

しかし、創業から3ヶ月後には堀江さんが逮捕されて、次第に追い風も吹かなくなってきて...目の前のキャッシュフローを作るのに必死で、「そもそもこんなことがしたくて、会社を作ったんだっけ?」という思いは常にありました。

小関:それはすべての経営者の方が感じる思いかもしれませんね。

川西氏:はい。そんな風に"創造的なことにフォーカスできていない状態"を自ら経験してきましたので、あの日々の苦労はすべて、今の私の最大の財産になっています。

小関:「freee」のお客様の気持ちを、実体験を通じて理解できるということですね。そもそもfreeeに入社されたきっかけは何でしたか?

川西氏:たまたま自分の会社でfreeeを使っていて、「こんなにすごいものが世の中にはあるのか!」と感銘を受けたのがきっかけです。加えて、freeeで運営しているオウンドメディアの「経営ハッカー」が外から見ても非常に良くできていたんですよね。コンテンツとして面白いし、マーケティングとしての狙いもクリアで。

自分の会社は安定していましたが、爆発的な成長はしていませんでした。そんなときに、"自分がもう一段レベルアップして、世の中にインパクトを出すためには、この会社に行くしかない!"と直感で決めました。

小関:それまでとはまったく違う世界に飛び込むことに対する、恐れや躊躇はありませんでしたか?

川西氏:めちゃくちゃありました。そもそも、面接をしたことはあっても、されたことはありませんでしたからね(笑)もう抵抗だらけでした。

小関:ご自身の会社はどうされたのですか?

川西氏:一応、社外取締役として籍はあるのですが、今は100%freeeにコミットしています。

小関:それは大きなご決断でしたね。御社に入ってからは、どんなお仕事をされましたか?

川西氏:最初はアライアンスパートナーの開拓を担当していました。当社のサービスは、営業がダイレクトでセールスするパターンと、会計事務所から導入いただくパターンの2種類があったのですが、第3の柱としてチャネルパートナーの開拓が不可欠だということで、そこを0から始めることになったんです。

小関:例えばどんなアライアンスを組まれたのですか?

川西氏:途中で引き継いだりもしているので、私1人でやったわけではありませんが、例えば富士ゼロックス様との提携は、私が最初に担当した案件です。それは単純な販売に関するものだけでなく、"富士ゼロックス製の複合機やスキャナーを使うと、領収書の情報が『freee』にダイレクト放り込まれて、経費精算がとても簡単になる"という機能連携の話も含めたものでしたので、今までなかった本質的な価値を生み出し、さらにそこからセールスやマーケティングにもつなげていけるという一連のスキームを作らせてもらえたのは、すごく印象に残っています。

小関:そういったご経験は、それまでにはなかったんですよね?

川西氏:はい、そういうスケール感で仕事をしたことはありませんでした。自分たちのサービスを買ってください&納品しますという事業の積み重ねでしたので。freeeに入ってから、社会人としての基本的なお作法から叩き直されました(笑)

顧客を理解できているかどうかはお客様にも伝わるはず

小関:川西様がマーケティング部門を担当されることになったきっかけは?

川西氏:当社の場合、各事業部にマーケティング機能がありますので、事業を見るようになると、必然的にマーケティングにも関わることになるので、私は個人事業主様向け部署の担当責任者になったことで、freeeで初めてマーケティングに携わることになりました。

マーケティングに関しては、それまで自分が受託でやってきたことを、いかにfreeeに当てはめていくか、と考えることで比較的スムーズに入ることができたのですが、事業部の責任者になるということは、マーケティングだけでなくセールスやプロダクトなど他チームとの連携や、経営陣も含めたステークホルダー全体の巻き込みが重要になってきますので、そこは新しいチャレンジでしたね。

小関: Marketoの活用事例としてもご紹介させていただいた通り、御社では部署間の連携が大きな強みになっているんですよね。

川西氏:はい。freeeの文化として脈々と受け継がれてきたものがありましたので、そうしたチームの強みを引き継ぎながら事業成果を上げていくというのは、とてもエキサイティングな経験になっています。

小関:多くのマーケターのみなさんは、他部署との連携でご苦労されているようです。御社では、どんな工夫をされているのでしょうか。

川西氏:マーケティングチームとして特にこだわっているのは、やはりセールスチームとの連携なのですが、そこに関しては、とにかく同じKPIを追うことに尽きると思っています。"マーケティングチームはMQLやSQLを追います、セールスチームは売上を追います"となると、その時点で「ここから先は彼らの仕事でしょ」「別に自分の数字さえあげればいいし」という発想になってしまうのは、構造上どうしようもありません。

もちろん、中間指標としてそれぞれ別の数字を持ってはいるものの、最終的に同じゴールに到達できなければ意味がありません。これが一番大きな工夫ではないでしょうか。

小関:確かに、それは間違いないですね。

川西氏:あとは、マーケティングとセールスの間で、人材の交換を積極的に行うようにしています。結局、お客様をよく理解できるのは、お客様と1対1で向き合っているセールスなので、彼らがマーケティングをやれば優秀なマーケターになりますよね。逆に、マーケティングチームの人間が、よりお客様を知るためにセールスを経験してもらうのも有効だと考えているので、どんどん人材を流動化させているというのが、当社の特徴だと思います。

月末やクォーターの追い込み時期になると、もはやマーケティング施策でどうこうというフェーズではありませんので、セールスの経験があるマーケティングチームのメンバーが、自ら率先してお客様に電話をかけて、営業するといったことが恒例行事になりつつあるんですよね。これこそ当社のマーケティングチームとセールスチームの連携を象徴する姿だと思うので、私はその光景を見るのが好きなんです。

小関:素晴らしいですね。川西様の目指されている理想的なマーケティングとは、どのようなものでしょうか。

川西氏:極論、当社はマーケティングやセールスがなくても、プロダクトの力だけで売れる会社にしたいんですよね。ただ、そこに到達するには、当然ギャップがありますから、プロダクトだけでは伝わりきっていない「freee」の魅力を、適切なコミュニケーションで届けていくしかないのだろうと。そのためには徹底した顧客理解が不可欠です。

当社の場合、お客様がスモールビジネスのオーナーという特殊な方々です。、会社員の我々がお客様のことを理解した気になって、実は何もわかっていなかったとしたら、すぐにお客様に伝わってしまうと思うんです。

宇多田ヒカルさんの「Automatic」で、"computer screenの中 チカチカしてる文字 手をあててみると I feel so warm"という歌詞があるのですが、それに近いのかなと思ってます。当社はデジタルマーケティングが多いので、ディスプレイ画面から温度が伝わるくらい、お客様を理解してメッセージを届けていけたらと考えています。

小関:メッセージの行間から滲み出るようなものがあるのかもしれませんね。御社のマーケティングチームのミッションとしては、一般的な企業よりも"お客様を知る"ことのプライオリティーが高い気がしますが、いかがですか?

川西氏:そう思います。それは、当社のビジネスモデルとして、常にお客様の課題に寄り添った提案・サービス提供をしなければ、結局、途中で解約されてしまい再度ご利用いただくことは難しいからなんです。だからこそ、正しい顧客理解に基づいて適切にアプローチすることが必然的に求められるんですよね。ご契約前の期待値を上げ過ぎても下げ過ぎてもいけませんし、「freee」で課題を解決できる方だけに向けた商売をしていく必要があるという、SaaSビジネスの特徴によるものだと思います。

小関:裾野を広げようとすればするほど、メッセージが届いてしまうお客様の層も広がってしまいますから、難しいマーケティングになりますよね。

川西氏:まさに、おっしゃる通りです。だからこそ、マーケティングだけでなく、セールスやサクセスチームとの役割分担が重要で、ある種の覚悟を持ってご契約いただいたお客様が最初にオンボーディングしていただくまでのところを、しっかりとサービスとして提供していくことが大切なのではないでしょうか。

次の後編では、独自の行動基準にのっとった価値観の共有方法やマーケターのキャリア育成について、さらに詳しくお話を伺います。