2017年4月12日、日経カンファレンスルームで開催された日経産業新聞フォーラムでは、「マーケティングインパクト2017 エンゲージメントエコノミー時代の新成長戦略」と題し、エンゲージメントエコノミーの最新潮流と実践事例が紹介されました。

当社マルケト 代表取締役社長の福田 康隆による基調講演「エンゲージメントエコノミー時代の潮流と経営変革について~テクノロジーで事業成長を加速」。前編では近年のイノベーションの潮流を紹介しました。後編では、マーケティングにおけるエンゲージメントエコノミーの実践事例を見ていきます。

企業視点から顧客視点へ。エンゲージメントマーケティングの時代が到来

そもそもエンゲージメントとは何か。その話に入る前提として、福田は「テクノロジーの進化に伴い、顧客の行動に大きな変化が起きている」と指摘。次の3つを挙げます。

1 溢れるメッセージ 

SNSやモバイルの発達により、情報量が急増。私たちは1日平均3000件ものマーケティングメッセージを目にしている。

2 高い情報リテラシー 

顧客の購買行動の90%は消費者自らによる情報収集で完結している。

3 高まる期待値 

64%の消費者は価格よりも顧客体験のほうが大切であると回答。なかでも、デジタル上の行動が企業のブランド価値、顧客の印象を左右するようになっている。

こういった変化を、いかにポジティブにとらえ、新たなアクションにつなげていくか。

ここで引用されたのが以下の言葉です。

「1to1マーケティング」

一人一人との何年、何十年にもわたる

「エンゲージメントマーケティング」なんて、

概念でしかなかった。

それがマーケティングオートメーション(MA)

により初めて実行可能なものになった。

マーケティング界の世界的巨匠の一人である、ノースウェスタン大学名誉教授ドン・シュルツ氏による、当社イベントの基調講演でのコメントです。

つまり、マスマーケティングの時代は終焉し、顧客一人ひとりに向き合い、パーソナライズされたコミュニケーションを実践していくエンゲージメントマーケティングの時代に突入している。MAがそのエンジンとしての役割を期待されている。

では、MAを提供する企業として、いかにエンゲージメントマーケティングを実践していくべきか。福田は顧客とのエンゲージメントの構築に求められる要素として、3つのポイントを挙げます。

1 エモーショナルコネクション

常に驚きの体験を提供するということではない。顧客の期待値を正しく設定し、サービスを提供する。

2 顧客接点の最初から最後まで

平均的に、マーケティング予算の80%が新規顧客に使われているというデータがあるが、顧客ライフサイクル全体に目を配り、長期スタンスでロイヤルカスタマーへの醸成を目指す。

3 企業視点から顧客視点へのマーケティングへ

製品発売のタイミングに合わせたキャンペーンの実施など、企業視点のマーケティングからの脱却。

特に3つ目のポイントが重要で、「キャンペーン型」ともいわれる「期間を集中して、リソースを集中投下し、短期決戦で単純明快な販売成果を目指す」のではなく、「潜在顧客から見込み顧客、上顧客への変化に寄り沿い、関係を築きながら成果を獲得」すること。そして、その適切なタイミングは「企業」が決めるのではなく、「顧客」に合わせること。現代はまさに、1to1マーケティングの考え方が必要な時代に突入していると言います。

その上で、必要となる考え方がカスタマージャーニーですが、福田は「その意味を誤解している人も多い」と指摘します。

たとえば、MAのようなITツールやプラットフォームを検討する際のカスタマージャーニーを考えてみましょう。

顧客側の課題、認識(パーセプション)の推移としては、

パーセプションA

「うちの課題にフィットするか?」

パーセプションB

「うちの社員に使えるか?」

パーセプションC

「頭の固い役員を説得するのは難しそう......」

このように検討のレベルに従って、パーセプションは推移していきます。では、認識の変遷をどう定義し、それぞれABCのレベルに適したコンテンツ、チャネルでリーチしていくのか。

さらにどういった状態になれば、AからBに推移したとみなすのか。その遷移指標(KPI)も定める必要があります。

ファネル全体を統合して管理し、望ましいパーセプションに変えていく連鎖こそがカスタマージャーニーであり、長期スタンスでコミットしていくことで、ロイヤルカスタマーへのナーチャリングも実現するのです。

こうした顧客とのエンゲージメント構築を、テクノロジーの力で実践していくのが、Marketoのエンゲージメントプラットフォームです。

ここで福田はMarketoのエンゲージメントプラットフォームを表す1枚のスライドを提示。

このスライドは、オンライン、オフラインのさまざまな顧客情報や企業データを蓄積、分析した上で、「属性×行動×頻度」から、顧客が求めているものを解析しながら、カスタマージャーニーを設計。それに沿って、顧客に対して適切なメッセージを届け、関係を構築していく。こうしたコミュニケーション、エンゲージメントを統合して行なうことを意味しています。

Marketoは現在、グローバルでは約5000社、日本国内では業種も規模も多岐に渡る450社が導入。『Forbes JAPAN』が選ぶ「2017 JAPAN'S STARTUP OF THE YEAR 」のトップ10のうち、6社が導入するなど、急成長企業のマーケティング業務の必須ツールとしてのポジションも確立しています。

さらに、福田は米国のNBAチーム「ポートランド・トレイルブレイザーズ」の事例を解説。

同チームでは、Marketo導入により、パーソナライズしたファンとのエンゲージメントを構築。チケット販売は対前年30%増加、シーズンチケットの更新率は96%を達成したと言います。

リソースが豊富ではない地方のスポーツチームも、しっかりとエンゲージメントマーケティングを実践することで、高い成果を達成できる好例といえます。

費用対効果をいかにとらえ、トライ&エラーで新たなチャレンジに取り組むか

福田は、エンゲージメントマーケティングを実践する上での大前提の考え方として、「テクノロジーはあくまでも道具である」と指摘。

「個々の施策の実行、成果の定型分析、PDCAの自動実行といった仕事はテクノロジーに任せても、マーケティング戦略立案、個々の施策の企画、PDCAの重要判断といったプランニングは人間がやるべき仕事となる」と言います。その上で、今後、議論が必要となるであろう課題は以下の4つです。

1 優良コンテンツの供給不足

「一人ひとりが違うコンテンツ」「同じ人でも変遷するコンテンツ」が求められるとすると、従来のマーケティングとはケタ違いの膨大なコンテンツが必要となる。

社内のリソースでまかなうもの、外部のプロに依頼する作業の役割分担、需要と供給のアンバランスの解消が求められている。

2 大企業特有の組織の壁

1to1マーケティングを実施するには、社内に散在しているデータベースの統合が必須。しかし、とくに日本の大企業においては、事業部ごとの縄張り意識や、データのサイロ化などがハードルに。組織としての心理的な壁の解消が求められている。

3 伝統的マーケターのITの知識不足

一般的に、伝統的マスマーケティングに携わってきたマーケターはITを駆使するスキル、IT部門はマーケティングの実戦経験が乏しい傾向にある。

今後は、これら2つの分野を融合させる人材の育成が大きなチャレンジとなる。

4 テクノロジーの選択

要素技術は、話題になり始めてから実用レベルになるまで時間がかかる。しかし、バズワードとなってから、流行に乗ろうとしても、良いものとそうでないものの判断がつかないケースも多い。例えば、AIやIoTは大きなトレンドであることは間違いない。しかし、どのような分野で活用するべきか、自社のビジネスモデルと照らし合わせて慎重に検討すべき。

さまざまな課題はあるものの、今や情報システム部門やIT担当者だけでなく、CMO、経営層にとっても、テクノロジーやデータへの理解、知識が必須であることはいうまでもありません。

最後に福田は企業トップの立場から、「これからの経営層に求められる」資質として、3つのポイントを提示します。

  1. 新しいテクノロジーを活用し、どのようにビジネスモデルを構築するかを考える。
  2. 機能別組織ではなく、顧客体験を横断的に見ることができる。
  3. どこにどれだけの投資をすれば、売上に対するインパクトが出るかの判断ができる。

ただし、MAなどの新たなテクノロジー、IT導入によって、得られるであろう効果、「新規顧客の流入」「ブランド向上による高い利益率」「リテンション」などは推測値にすぎません。その一方で、システム投資、人材教育などの投資、コストは確実に出ていくことになります。

ここでいかに判断するのか? 選択肢は、大きく以下の2つになります。

A 得られる効果が推測の域を出ない、不確実なものと判断して、投資を見合わせる。

他社の成功事例が出たところで、自社の取り組みを検討する。

B 大きなビジネスチャンスととらえて、まず取り組みを開始する。

トライ&エラーを重ねながら、中長期的に改善に取り組む。

「冒頭で挙げた、成功した企業はどちらを選択したのでしょうか? そして皆さんはどちらを選択しますか?」。

そんな問いかけ、問題提起を会場に投げかけ、福田の基調講演は終了となりました。

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