2017年3月8日に開催した「MARKETING NATION BtoB セールス&マーケティングカンファレンス 2017」。本カンファレンスで行ったセッションの中から、今回は昨今、日本のBtoB企業からも注目が高まっている「アカウントベースドマーケティング(ABM)」にフォーカスした、パートナー パネルディスカッションをご紹介します。提案側で日々、ABMを実践されている御三方にご登壇いただきました。

<パネラー紹介>

株式会社ユーザベース
日本事業統括 執行役員 佐久間 衡氏

大学・大学院で数学を専攻し、外資系投資銀行を経て2013年にユーザベースにジョイン。プロダクト開発、営業・マーケティングの組織づくりなどを担当した後、現在は日本事業統括執行役員兼ジャパンベンチャーリサーチ代表取締役として、主に企業・業界分析プラットフォーム「SPEEDA」に携わっている。

アクセンチュア株式会社
デジタル コンサルティング本部 インタラクティブ デリバリー統括
マネジング・ディレクター 槇 隆広氏

SIerでシステムエンジニアとして5年半従事した後、アクセンチュアに入社。その後、約10年間、営業とマーケティング領域に軸足を置くコンサルタントとして活躍している。得意なことは、デジタルマーケティングやデジタルサービスをビジネスとシステムの両面から考えること。

株式会社東京商工リサーチ
マーケティング部 部長 弓削 正範氏

国際ブランドのクレジットカード会社でBtoCのマーケティングに従事した後、2009年からD&B(Dun&Bradstreet Corporation)とTSR(東京商工リサーチ)のジョイントベンチャーに参画し、BtoBマーケティングへ転向。2012年からはTSRに転籍し、事業部長としてマーケティング部を立ち上げた。

<モデレーター>

株式会社マルケト
ビジネスデベロップメントマネージャー 鈴木 仁

当たり前なのに実践できない日本企業のABM事情

鈴木:ABMの注目が高まっていることは、みなさん肌で感じていらっしゃると思いますが、現状、日本企業におけるABMの取り組みについて、どのようにご覧になっていますか?

佐久間:私の主観でいうと、ABMは長年アカウント営業をやってきた日本企業にとっては、馴染みがあって、取り組みやすいものだと思います。とはいえ、ABMが実践できている企業は少ないのが現状でしょうね。アメリカでのABM実践企業92%という数字には、到底届きません。それは、我々のようなベンダーが、ABMに最適なソリューションを出せていなかったからです。「SPEEDA」を用いてABMを実践しているお客様が100社くらいあるのですが、「SPEEDA」でターゲットアカウントを特定したら、リスト化してダウンロードして、さらにMarketoに取り込んで......というように、非常に手間がかかっていたんですよね。それがMarketoのABMプラットフォーム『アカウントベースドマーケティング』の本格提供が始まり、そこへ我々も分析パートナーとして参画していきます。ようやく日本にもABMソリューションができた、というのが今の状況ではないでしょうか。

株式会社ユーザベース
事業統括 執行役員 佐久間 衡氏

鈴木:テクノロジーの進化によって、ABMを実践できる環境が整ったということですね。

佐久間:そうです。ABMは"Analysis Based Marketing"でもあると、私は考えています。新しいテクノロジーを用いて、定量的な分析によるスコアリングをもとに、既存企業と似た企業や確度の高い企業を洗い出すことができる、というのが大きなキーになると思います。

鈴木:一方、業務やビジネスの観点では、いかがでしょうか。

槇:私もABMの概念は、別に新しいものではないと思います。始めるにあたって、ゼロベースで何か勉強しなきゃいけないというものではない。しかし、日本のBtoB企業にはデジタルマーケティングの担当者がいなかったり、販促部分の一部としてやりくりするケースが多いので、お金も人もいない中で、営業も巻き込んだABMをやろうとしても、なかなかハードルが高いというのが実情ですよね。ABMを実践できている企業は、まだ1?2割程度だと思います。

アクセンチュア株式会社
インタラクティブ デリバリー統括 マネジング・ディレクター 槇 隆広氏

ABMの前に立ち塞がる2つの壁

鈴木:ABMを始めるにあたり、解決しておかなければならない課題として、どんなものが挙げられますか?

槇:私がコンサルしているお客様の例でいうと、一つは「部門間の壁をどう取り払うか」。壁を取り払うところまではいけないにしても、「協業体制をどうスタートするか」というのは、外せないポイントです。ただ、営業もマーケティングも、複数の製品や事業部を横断して活動している事業体では、各組織で意思決定ができないので、役員のサポートが重要になるということです。ABMは会社全体として取り組むべきもの、経営者が考えなければならない問題として、CxOクラスの方と話してドライブさせるというのが、組織の壁を取り払う一つの解になると思っています。

弓削:そうですね。もう一つの課題として、「データの名寄せ」が挙げられるでしょう。順を追って見ていくと、まずはいろいろなデータを統合して、そこに商談や売上などのトランザクションデータを付けるところからスタートします。次に、ファーモグラフィック(企業属性)を付与して、顧客にどのような特徴があるのかを分析し、そこから優先顧客を分析したり、ターゲットアカウントの優先付けをしていきます。そこでホワイトスペースがあれば、さらに類似企業を追加していく。そして、商談の見込みや人的リソースなどでターゲティングを行い、最後に最も重要な営業部門とのアラインを行います。ABMでアラインが重要な理由は、営業部門がターゲットアカウントの情報(商談の進捗やリプレイスのタイミングなど)を持っていることが多いから。マーケティング側がレコメンドするターゲットアカウントの説得をすることで、営業側の協力体制を得やすくするという意味もあります。この一連の流れでKPIを設定して、PDCAを回していくことが大切だと思います。

鈴木:ABMに早く取り組むべき企業というのは、ありますか?

佐久間:エンタープライズ向けで高額商品を取り扱う企業とマッチするというのはもちろんありますが、それは効果が出やすいというだけであって、ABMはすべてのBtoB企業がやるべき、当たり前のマーケティングモデルだと私は思います。自社のサービスが届きそうなアカウントを設定して、そこから逆算でマーケティングを考えていくというのは、非常に当たり前のことですよね。

弓削:これまでのBtoBのマーケターは、あまり顧客分析や実際にデータを使ったマーケティングをしてこなかったのではないかと思います。ABMと身構えるまでもなく、既存顧客を分析することは、どんな企業にとっても非常に重要なことだと思います。

株式会社東京商工リサーチ
マーケティング部 部長 弓削 正範氏

佐久間:ABMに興味があるのなら、どこから着手しようか、なんて迷っている場合ではなく、とにかく何でもいいからアクションすることです。例えば、マルケトさんにコンタクトをとって詳しい話を聞くとか、自社の顧客分析をExcelベースで始めてみるとか。できることはたくさんあるので、まず始めることが重要だと思います。

ABMを始めたい、あなたへ

鈴木:最後に、ご来場のみなさまへメッセージをお願いします。

槇:ABMは考えなければならない範囲がぐっと広がる一方で、企業にとって非常に大きなリターンをもたらしてくれます。特に、主要なアカウントの売上分析によって顧客生涯価値(LTV)を上げることもそうですし、ABMで結果を出せば営業との距離がグッと縮まり、経営層からの評価も上がります。すると、マーケティング部門が大きくなって、やれることも増えるという好循環が生まれるきっかけになる。ぜひ、がんばってください。

佐久間:ユーザベースではABMに特化したソリューション「FORCAS」を今春リリースする予定ですが、開発にあたってパートナー企業の顧客分析をしていると、商談がたくさんあっても全く契約に結びつかない企業属性や、契約率が80?90%の企業属性など、いろいろなことがわかり、確実に成果を出せる感覚があります。また、「働き方改革」が叫ばれる今、ABMは営業、マーケティング側のみならず、お客様側の生産性の向上にもつながります。契約する確度がない商品の売り込みがなくなるわけですから。ABMは社会を変える可能性を秘めている。だからこそ、当たり前のものとして、ぜひみなさんと取り組んでいきたいです。

弓削:ターゲットアカウントの設定に必要な企業情報を扱っている側として、ぜひ覚えておいていただきたいのが、データは非常に速いスピードで変わり続けているものだということです。具体的には、わずか1時間の間に271の企業が移転して、1274社の電話番号が変わり、673の新会社が設立される一方、12社が倒産しているのです。(出典:Dun& Bradstreet Corporation「THE B2B MARKETING DATA REPORT 2017」)なので、せっかくターゲティングしても、こうした基礎的なデータが変わっていたら何の意味もないことになってしまうので、分析やターゲティングに使う企業データは、私どものような専業の情報プロバイダーのデータを使っていただいた方が、精度も上がり効率化できると思います。

本パネルディスカッションの詳しい模様は、動画でも公開していますので、ぜひご覧ください。

bnr-marketo-265