市場のグローバル化、コミュニケーションスタイルの多様化などを背景に、商品・サービスを選択する課程での顧客の行動、意識は大きくその姿を変えつつあります。こうした変化の激しい時代において、自社にとって有望な企業をどう発掘し、エンゲージメントの最適化を図るか。BtoBマーケティングにおける関心事、問題意識も、さらなる広がりを見せています。

そこで、2017年3月8日、六本木で開催した「MARKETING NATION BtoB セールス&マーケティングカンファレンス 2017」では、今、注目を集めている「アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)」や、マーケティングオートメーション(MA)を活用したアプローチ法など、BtoBマーケティングの今後のあり方にフォーカスしました。

「MARKETING NATION」とは、Marketoのユーザー、パートナーそして当社の社員を合わせた約5万名超のコミュニティのことを指します。本イベントには、既にMarketoコミュニティに参加されているユーザーから、マーケティングオートメーション(MA)に関心をお持ちのBtoB企業の営業部門やマーケティング部門の責任者の方、マーケティング戦略の企画・立案に携わる方々など、当初の予定を大幅に超す350名の参加者にお集まりいただき、さまざまな知見、成長企業の事例を共有いたしました。

需要の分散化、顧客接点の拡大、起業の低利益率化がマーケティングの常識を変えた

幕開けは、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 教授の余田 拓郎氏による基調講演「BtoBマーケティングのこれから:顧客対応と競争対応」です。BtoBマーケティング、企業ブランディングの第一人者として数多くの著書を刊行されており、マルケト日本法人の立ち上げの際に、当社代表の福田 康隆がさまざまな助言をいただいたご縁もあり、お招きの運びとなりました。今回、余田氏には短い時間ながら、BtoBマーケティングを行う上で、非常に重要なお話をたくさんしていただきましたので、前後編の2回に分けてご紹介していきたいと思います。

「ここ数年、先端的な取り組みを積極的に推進している企業と、そこに追随する企業とで、二極化が進んでいる」。約25年間、BtoBマーケティングの世界に関わってきた余田氏は、まず現場で感じる温度感の差について指摘。その理由として、BtoBビジネス、マーケティングの"常識"の変化を挙げます。

かつて、BtoBビジネスは、顧客との関係性が長期で固定的になりやすく、需要の集中度も高いといった特性から、

  • 営業を中心とする人的販売、つまりPushプロモーションが重要である
  • Pullプロモーションである広告の役割は低い

と言われてきました。しかし、今はその常識が一変。その変化の波をいち早くとらえてアクションを起こしているか否かで、二極化が進んでいるというわけです。

その理由は何か。余田氏は大きく3つのポイントを挙げました。

1つ目が、市場のグローバル化などを背景に、顧客、つまり「需要の分散化」が進行していること。

2つ目が、「顧客接点の拡大」。日本ブランド戦略研究所の調査による「BtoBにおける購入検討時の参考情報」の統計結果でも、「企業のWebサイト」が32.9%で1位にランクイン。

「Webサイトというと、BtoCに多く活用されているイメージがありますが、実はBtoB分野でこそ、IT系コミュニケーションメディアのプレゼンスが大きく拡大していることを認識するべきです」と余田氏。

また、ネット系のメディアの特性として、「低コスト」だけでなく、「高関与媒体」であることも重要なキーワードになると指摘。高関与媒体とは、テレビCMのような"受け身(低関与)"ではなく、関心が高い状況で、活用されるメディアを指します。つまり、その後の購買といったアクションにつながりやすいのが特徴、かつメリットというわけです。



3つ目としては、製造業、特に「部品・素材メーカーの低利益率の定常化」が挙げられます。サプライチェーン上のバリューポイントの移行により、製造業の売上高営業利益率はここ50年間、下落トレンドを辿っています。

「技術力を持ち、特定の分野で高いシェアを誇るニッチトップと呼ばれる中小企業でも、営業利益率は平均4.4%」というデータを紹介し、"売る力"を磨く必要性がより高まりを見せていると指摘します。

"低コスト&高関与媒体"であるデジタルツールの活用がマーケティング施策の要

こうした3つの大きな変化、課題を受け、いかにBtoBマーケティングを実践していくか。

市場における需要の集中度や、購買サイドの知識水準、つまり人的コミュニケーションがどの程度必要なのかを見極めつつ、「従来のPushプロモーション中心ではなく、低コスト・高関与媒体であるデジタルを活用したPush+Pullの複合型プロモーションで、営業の効率化を実践。その結果、バリューチェーンの中での付加価値を向上していく」ことを課題として挙げます。

では、具体的にはどのような施策を打てばいいのでしょうか。
余田氏が挙げるBtoBビジネスの強化ポイントは、2つ。

1つ目が、「Pullプロモーションによるカスタマーリレーションシップ構築と強化」。つまり、自社のビジネスにとって重要な顧客にターゲットを絞り、最適なエンゲージメントをはかるアカウントベースドマーケティング(ABM)の手法です。2つ目が、企業のブランディング強化です。

1つ目の"カスタマーリレーションシップ構築と強化"に関しては、ターゲット・マーケティングを提唱する学者フォーネルが唱える

  • 新規顧客の獲得を目指す攻撃戦略
  • 既存顧客の維持を目指す防御戦略

のフレームを提示。両者への対応を区別し、効率的に関係性を構築、展開していく必要があるといいます。



まず、「新規顧客の開拓」において、最大限に活用すべきツールがWebサイトになります。

余田氏が引用した「BtoB購買におけるサイト閲覧後の行動」(日本ブランド戦略研究所)によると、19.8%が「ダウンロードした」、15.1%が「サイトをブックマークした」と回答しており、企業のWebサイト閲覧後、実に高い割合でアクションを起こしています。

さらにさまざまなコミュニケーション手段の中でも、ネットを介したコミュニケーションは、先に挙げた「高い関与水準」に加え、「カバー範囲が広い」ことも特徴となります。

つまり、「まだ関心が薄い顧客にリーチし、アプローチしていく。リード、新規顧客開拓において、Webは非常に相性がいい」ことが、データでも明らかにされていると余田氏は話します。

顧客満足度調査など、幅広い施策で、密な関係を構築。収益につなげていく

では、既存顧客についてはどうアプローチするか。

実は、「顧客維持と収益性」の関係については、顧客維持率が高まるほど、利益率(税引前利益率)が高まるという統計が発表されています。つまり、顧客維持は"最も効率のいいマーケティング"であるともいえるわけです。

さらに、その要因を具体的に見ると、顧客との関係が長期スタンスになるほど、「口コミ紹介による利益」「オペレーティング・コスト低下による利益」「購入増加による利益」の上乗せが期待できることがわかっています。



これらの利益獲得要素において、インターネットなどを通じた口コミ拡散など、Pullプロモーション活用できないか。「応用を考えていく余地は大いにあるのではないでしょうか」と余田氏は提言します。

また、マーケティングにおいては、顧客のターゲティングが最初の関門であり、かつ重要な作業となります。中でもBtoBの場合は、顧客のニーズはまさに十人十色。いかに適切にコミュニケーションをパーソナライズしつつ、効率的にone to oneマーケティングを実践するかがポイントとなります。

その観点では、「収益性の高い有望顧客、つまり顧客生涯価値(LTV)によってセグメントをしていくことが大事な視点となります」と余田氏。かつ、デジタルツールの活用で、オペレーションコストの低減を図りつつ、より広く、より長く関係性を維持し、コミュニケーションの質を高めていく。

こうした密な関係を構築した上で、既存顧客に対しても「アップセル(より高価格帯の製品を買ってもらう)」、「クロスセル(関連商品を組み合わせて購入してもらう)」のプロモーション、営業活動を実践していくことが重要だと語ります。

また、"顧客生涯価値を高めていく"前提として関係性を強化するには、「満足度」が欠かせないファクターとなります。プロモーションだけでなく、顧客満足度を向上させるためのマーケティングはどうあるべきか。具体的な施策にも踏み込む必要があるといいます。

その一つの手法として、「顧客満足度調査」を例に挙げ、「グローバルに幅広い顧客に対し、調査を実施し、かつデータをとるだけでなく、どう製品やサービスに反映していくかを考えるべきです」と余田氏。競合他社もベンチマークしながら、顧客の満足度をリアルかつ総体的にとらえ、関係性を高めていくことを助言します。

後編では、「BtoBビジネスにおける2つ目の強化ポイント」について、詳しく見ていきたいと思います。


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