必要としている人に、いかに正しい情報を届けるか――。ライフスタイルが多様化するなか、業種業界を問わず、顧客一人ひとりのニーズにしっかり寄り沿うことの重要性がさらに高まりを見せています。

「Adobe Symposium 2019」より当セッションでは、「結果にコミットする。®」というミッションのもと、さまざまな目的でダイエットやボディメイク、「なりたい自分になる」という夢の実現に取り組む人々をサポートしてきたRIZAP株式会社が、デジタルチャネルを含めた顧客体験をどう設計し、テクノロジーの選定・活用をしているのかを紹介します。

<登壇者紹介>
RIZAP 株式会社
マーケティング戦略本部 CX戦略部 部長 澤本 陽介氏

ライブドア(現:LINE) やJIMOSにて、新規事業開発などに従事。その後、ソフトバンク・テクノロジーにて、デジタルマーケティングコンサルティング、人工知能ソリューション開発、子会社のモードツーの取締役としてコンテンツマーケティング、イベント事業を担当。2017年にRIZAPグループ入社。IoT、センシング、3Dボディスキャンなどの新規サービス開発プロジェクトマネージメントやRIZAP GOLFのサービス企画、マーケティング管理責任者を経て、現職。

「食事管理が厳しくてキツい」といった先行イメージの払しょくが課題に

著名人のダイエット前後の体重・体型の変化をわかりやすく見せるテレビCMで話題を呼び、急成長を遂げているRIZAP。現在はパーソナルトレーニングジム「RIZAP」での美容・ダイエット関連事業だけでなく、ゴルフ、英会話、料理など幅広いジャンルで、夢の実現に取り組む人々をサポートしています。

現在、全事業の店舗数189、ボディメイク事業の累計会員数は13万人を突破していますが、多様な会員、潜在的顧客に向けた顧客体験戦略をいかに推進しているのでしょうか。

ここで注目したいのが当セッションのタイトルとして掲げられた「RIZAPってブロッコリーとささみしか食べられないんでしょ??」。

奇をてらった表現にも見えますが、同社マーケティング戦略本部 CX戦略部部長の澤本 陽介氏は、その真意として同社の課題であり、顧客体験に注力するに至った"ギャップ"というキーワードを掲げます。

RIZAP 株式会社
マーケティング戦略本部 CX戦略部 部長
澤本 陽介氏

実は、先のタイトルは入会前にカウンセリングでよく聞かれる質問だとか。

「実態は、リバウンド防止のためにも栄養バランスのとれた低糖質のメニューを栄養士らと研究しレシピブックとして提供しており、工夫次第でスイーツも食べられます」と自分自身も同社プログラムで17㎏のダイエットに成功した澤本氏は明かします。

また、食事のアドバイスについては食事画像解析機能がついた"食事・目標管理アプリ"などテクノロジーも活用しつつ、専門家と組んで毎日3食をアドバイス。チームで食事管理、トレーニング、メンタル面も含めたサポートを実践しているものの、「話題先行となり、インターネットなどで『食事管理が厳しく、トレーニングもキツい』といった事実と異なるイメージで捉えられているのが課題となっていました」と指摘します。

こうした"ギャップ"を埋めていくには、顧客のニーズに合わせた正しい情報、顧客体験を適時適切に提供していくことが肝要。近年、専門医療機関などとも組み、注力している健康・ヘルスケア事業についても発信すべく、澤本氏が統括するCX戦略部を中心に取り組みがスタートします。

RIZAPに関する情報を、フェーズごとにしっかりと潜在的顧客にも届けるためのもので、広告などに接触した潜在ゲストが問い合わせ→カウンセリングを予約→来店→契約→セッション開始→再契約(契約しなければ休会→再契約)といったフェーズごとに最適なコミュニケーション(ナーチャリング)を実践していく仕組みの構築を目指しました。

「問い合わせはしたけれど未予約、予約はしたけれど未来店、来店はしたけれど未契約、契約はしたけれど未開始、というお客様に適切な情報と次の行動に背中を押すメッセージをお届けしていくべく、それぞれに改善KPIも決めました」

デジタル人材より「顧客創造・編集力の高い人材」をアサイン

その実践を支えるツールとしてMAを検討しはじめました。そして自社がMAに求める要件として次の5つを挙げ、Marketo Engageに白羽の矢を立てたといいます。

  1. 事業課題にフレキシブルに取り組めること。
  2. Salesforceの顧客データとリアルタイムに連携できること。
  3. デジタル人材より「顧客創造・編集力の高い人材」を要員してもMAを実践できる。
  4. お客様の悩み・迷いから開発したコンテンツ、トリガーの実装が容易であること。
  5. メールだけでなく、Web・アプリ・SNSなどとの連携が可能であること。

まず、大前提として「RIZAPのIT部門にはトレーナー出身者も多く、専門家ばかりではありません」と澤本氏。そこでデジタル関連は澤本氏とMarketo Engage担当者などでフォロー。メンバーには顧客の不安や悩みを知り抜いた、かつサービスカタログやDM、プロダクト開発、サービス会報誌制作などの経験者で編集力のあるメンバーをアサイン。コンテンツの中身に注力するようにしました。

現場メンバーがMarketo Engageを活用し、メールを送信したり、コンテンツを届けたりする際にトリガーとして使うデータは、「予約・来店・契約」などの可否がわかるステータスフラグだけにして単純化。

開発段階ではIT部門とCX戦略を同一部署内に組織化し、連携を強化しました」と話す澤本氏。

顧客のデータはSalesforce上に集積。契約管理システム、会員の食事のアドバイスを行なう食事・目標管理アプリ、減量シミュレータとSalesforceをつないでいますが、Marketo Engage側から上書きされた顧客情報は、混乱が起こらないよう反映しない仕組みにしています。

また、「SalesforceからMarketo Engageに、お客様のステータスの最新データを5分ごとに飛ばしています」と澤本氏。例えば未予約から予約になった時点で、スピーディーに次のコミュニケーションを実施できるようにしています。

もう一つの注意点としては、SalesforceからMarketo Engageに顧客データを連携する際に、データの整備を徹底したこと。

「現場のトレーナーやカウンセラーは日々たくさんの業務を抱えているため、顧客情報の入力不備などが起きることもある。」と澤本氏。データをしっかり活用するために、データが作成された時点で表記揺れや漏れなどのデータ整備をすることが肝要だと言います。

美容・ダイエット→健康・ヘルスケアのRIZAPブランドも発信

お客様に提供するコンテンツの作成については、社内でワークショップも開催しました。

具体的には

  • 顧客の困りごとの軸を定義する
  • 温度感(COLD / WARM / HOT)に応じたコンテンツのタイトル案を定義する
  • コンテンツ制作に関する関係者間の意識・方向性のすり合わせ

という3本の軸で話し合いを行ない、218本のタイトルを考案したそうです。

「例えば『やせたい、健康になりたい』『ライフイベントが迫っている』といった悩み事を軸に、RIZAPに全く関心のない『COLD』から、『WARM』『HOT』と関心の高まり具合に合わせ、多層的なコミュニケーションツールを駆使し、現在、コンテンツを作成・配信しています」(澤本氏)

要件定義からスタートし、導入準備にかかった期間は2019年4月から6月後半までの84営業日。

「施策をスタートさせて29営業日が経ったところで予約率11%アップ、来店率は31%アップを達成することができました」と澤本氏。短期間で大きなインパクトを持った成果が出ていることがわかります。

先にも挙げたように、現在、RIZAPでは美容・ボディメイク分野で培ったトレーニングや食事管理、サポートなどの実績・経験値、専門教育を受けたトレーナーなどの人材リソース、豊富な会員データをもとに、複数の大学・医療機関と健康寿命延伸に向けた共同研究も実施しています。

医療費の高騰、平均寿命と健康寿命のギャップ、社会保障制度改革への不安といった社会環境の変化、課題にも寄り沿い、安全・安心なサービスを提供してまいります」と澤本氏。

新たな事業のチャレンジにおいても大事なのは、「正しい情報を届けること」と"顧客体験×手段"によって「結果にコミットすること」。デジタルの力も活用しながら、適切な顧客体験の最適化に取り組んでいくというメッセージでセッションを締めくくりました。