サブスクリプション型ビジネスの普及などに伴い、契約獲得を最終目標とする"売り切り型"の営業スタイルから、契約後の関係構築によって製品・サービスの利活用を促進し、お客様の成果・利益に貢献する"カスタマーサクセス" (以下、CS)へと営業アプローチを転換する企業が増えています。「Adobe Symposium 2019」より当セッションでは、実際にCSに取り組んでいる方々をお招きし、その目的や成果、目標について語っていただきました。

<パネラー紹介>
Sansan株式会社
Sansan事業部 カスタマーサクセス部 Customer Marketing シニアカスタマーマーケティングマネジャー 山田 ひさのり氏

ゲームプログラマーとしてキャリアをスタート後、Web開発のPG/SEを経て、スタートアップのビジネス開発に興味を持つ。KLabでモバイルゲームのプロデューサーや新規事業開発の部⻑を歴任後、2013年Sansanに入社。現在はカスタマーサクセス部で、全体戦略の立案と既存顧客とのエンゲージメント強化を担当している。

HENNGE 株式会社
Customer Success Division Digital Intelligence Section Deputy Division Manager 水谷 博明氏

広告代理店/Webコンサル会社/ITベンダーにて、営業10年、Webマーケティング10年を経験後、HDE(現:HENNGE)に入社。インサイドセールスの立ち上げやデジタルマーケティングに従事。現在は、営業/CS/会計など、全社のSaaS/データ/AIを活用したDX(Digital Transformation)化を支援している。

<モデレーター紹介>
アドビ システムズ 株式会社
マルケト事業担当 マーケティング部 シニアカスタマーエクスペリエンスマネージャー 森山 裕之氏

ロイヤルティを高めることは、次のチャンスに結び付く

森山:本題に入る前に、まずはお二人の会社についてと簡単な自己紹介をお願いします。

アドビ システムズ 株式会社
マルケト事業担当 マーケティング部 シニアカスタマーエクスペリエンスマネージャー 森山 裕之氏

山田:Sansanの山田です。当社は法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」や、個人向け名刺アプリ「Eight」などのプロダクトを提供しています。全プロダクトの合計契約件数は6000件を超え、さまざまな業種の企業にご利用いただいています。

Sansan株式会社
Sansan事業部 カスタマーサクセス部 Customer Marketing シニアカスタマーマーケティングマネジャー 山田 ひさのり氏

水谷:HENNGEの水谷と申します。変わった社名だと思われるかもしれませんが、「テクノロジーのチカラで"HENKA""CHALLENGE"していく」というメッセージを込めて2019年2月に社名変更しました。自社開発にこだわるテクノロジー企業で、クラウドセキュリティサービス「HENNGE One」などを提供しています。

「HENNGE One」は、企業で利用されている各種SaaSのログインID・パスワードなどを一元管理できるサービスで、万全のセキュリティを担保しながら、シングルサインオンで各種SaaSを利用できる利便性を実現します。

HENNGE 株式会社
Customer Success Division Digital Intelligence Section Deputy Division Manager 水谷 博明氏

森山:"守りの経営"のためのテクノロジーと言えそうですね。一方でSansanのプロダクト群には、"攻めの経営"のためのテクノロジーという側面があるのではないでしょうか。

山田:おっしゃるとおりです。一義的には、社内でばらばらに管理されていた名刺をデジタルで合理的に管理するための製品ですが、社内の人脈を全員が共有することで、働き方そのものを変えることができます。

この点を認識しながら活用していただくことが、お客様により大きな成功をもたらすと思うのですが、残念ながら、十分に認識が浸透しているとは言い切れません。そこでSansanではCSに力を入れ、既存のお客様に、製品の効果的な使い方などについて積極的に情報発信をしているのです。

森山:HENNGEでは、どのような目的でCSに取り組んでおられるのでしょうか?

水谷:主な目的は、お客様のロイヤルティ向上と、ネクストビジネスへの下準備です。そもそも主力プロダクトの「HENNGE One」は、業務プラットフォームの維持に不可欠なセキュリティサービスであるため解約率は極めて低いのですが、それでもお客様のロイヤリティを高める取り組みは欠かせません。

なぜなら、高いロイヤリティという土台があれば、継続的なマーケティング活動の効果も高まりやすくなるからです。HENNGEではこれからも、新たな分野の製品を積極的に投入していく予定ですが、そうしたネクストビジネスも、まったくゼロの状態から始めるより、一定程度のロイヤリティが確保された状態から始めたほうが成功しやすくなるはずです。

お客様の状態を正確に知るには、あらゆるデータの統合が不可欠

森山:それでは、具体的にどのようなCS施策に取り組んでおられるのかについてお聞かせください。

山田:Sansanでは、お客様の製品導入後のステージを「導入期」「運用期」「活用期」「定着期」の4つに分け、それぞれのステージごとにアプローチを変えるライフサイクルマネジメントを実践しています。また、「お客様が健全な状態なのかどうか」をエンゲージメント(顧客との関係性)、製品の利用率、ROI(費用対効果)などの項目で測定する「ヘルススコア」というメソッドを採り入れ、数値が低い項目をフォローアップする取り組みも行っています。

いずれの取り組みにおいても、正確かつ総合的なお客様の状態判断が欠かせません。そこで、社内に散在する顧客データやサービス利用データ、問い合わせデータなど、判断の基となるあらゆるデータを統合するカスタマーサクセスプラットフォームを導入しました。

(スライドP20)

水谷:HENNGEがCSに本格的に取り組み始めたのは2018年10月です。それまでは、マーケティングや営業が使用していたMAと、CSが使っていたツールは分断していたのですが、CSの本格化とともにデータを完全統合しました。

マーケティング、営業、CSのすべてが同じ情報を横串で共有することで、誰もがお客様のコンディションをひと目で見て把握し、誰もがアクションできる体制を整えつつあります。

(スライドP35)

森山:Sansanは、お客様とのコミュニティ形成もCSの重要な施策と位置付けているようですね。

山田:導入企業の成功事例を作成して、既存のお客様への営業ツールに活用しているほか、「Sansan Community」というSansanとお客様の交流サイトを立ち上げました。お客様とのエンゲージメントを高めるためには、デジタル以外のつながりも非常に大切だと考えています。

森山:最後に、それぞれのCSの取り組みにおける今後の目標についてお聞かせください。

山田:CSによってお客様のロイヤルティが向上すれば、新たなマーケティングや営業のチャンスが広がるはずです。お客様を繋ぎ止めるという"守りのCS"だけでなく、業績向上に結び付く"攻めのCS"を志向していきたいですね。

水谷:マーケティング、営業、CSの情報を一元化したことで、すべての部門が「お客様を中心とした会話」で社内コミュニケーションを取り合える環境が整いつつあります。これをきっかけに、社員全員がお客様や会社の状況を理解し、一つになって行動できるような体制が実現すれば素晴らしいと思います。

それぞれのCSへの取り組みについてうかがうと、社内に散在するお客様のデータや、部門ごとに縦割りになっているデータを集約するか仕組みづくりが大切であることが見えてきました。とくに、「契約件数が1000件単位を超えると、データ集約の必要性が出てくる」というお話もありました。

また、「単価が高い製品・サービスを取り扱う会社ほど、CSへの取り組みは重要」とのご意見もいただいています。これからサブスクリプション型ビジネスを始める企業の方々は、お二人のお話をぜひ参考にしていただければと思います。