CMO(最高マーケティング責任者)とは、会社から何を任され、どんな仕事をする人たちなのでしょうか? 「Adobe Symposium 2019」の「成長企業におけるCMOの役割」というセッションでは、freeeの川西康之CMOと、ラクスルの田部正樹取締役CMOをお招きし、「CMOのリアル」についてうかがいました。

<パネラー紹介>
freee株式会社
CMO川西 康之氏

東京大学在学中、Webマーケティング会社を起業。その他、10年以上にわたってシステム開発会社、総合型地域スポーツクラブなどの経営に携わる。2016年よりfreeeに参画し、個人事業主向け事業とともに、全社のマーケティング戦略を統括。2018年1月、CMOに就任。

ラクスル株式会社
取締役CMO/広告事業本部長 田部 正樹氏

丸井グループにて主に広報・宣伝活動に従事。その後、テイクアンドギヴ・ニーズにて事業戦略室長、マーケティング部長等を歴任し、2014年5月、ラクスル入社。テレビCMを中心とした新規顧客獲得とデータドリブンなCRMによるリピート率の安定化を得意領域とし、4P戦略全般を管掌しながら事業の非連続な成長を売上組織両面で支えている。

<モデレーター紹介>
アドビ システムズ 株式会社
執行役員 マルケト事業担当 マーケティング本部 小関 貴志

「創業者の思いをどう届けるか?」がCMOの重要な使命

小関:まずは、お2人の会社概要と自己紹介、どのようなキャリアを経てCMOを任されることになったのかについてお話しいただけますか?

アドビ システムズ 株式会社
執行役員 マルケト事業担当 マーケティング本部 小関 貴志

川西:freeeは、クラウドによる会計、人事労務、会社設立や開業、税申告などのシステムを提供している会社です。設立は2012年7月ですが、さまざまな投資家からの応援によって、現在では資本金が約161億円、従業員数は505名になりました(2019年1月末時点)。

freeeのサービスを利用しているお客様は、個人事業主から、従業員数が300~500名程度の中小・中堅企業、数千人の上場企業までさまざまです。お客様の事業規模別に営業部門を設けており、マーケティング部門も同様です。

そもそも私は、学生時代に自分で会社を立ち上げ、Webマーケティングの受託サービスなどを行っていました。しかし、「世の中を変革したい」という創業時の思いが叶わず、修業のため4年前、freeeに入社しました。入社当時はまだ100名ほどの会社だったので、1人の社員がサービス開発や営業などいろいろな仕事を任されたのですが、規模が大きくなるにつれてマーケティングの重要性が高まり、1年半前にCMOに任命されました。

freee株式会社
CMO 川西 康之氏

田部:ラクスルは、ネットで注文を受けて印刷や物流、テレビCM制作・放映などのサービスを提供する会社です。自社で印刷機やトラックを持つのではなく、世の中で空いているそれらの機器・装置を使ってサービスを提供するシェアリングエコノミー型のビジネスモデルで急成長を遂げています。

私は2004年に丸井グループに入社し、宣伝部でテレビCMの企画などを担当した後、「ベンチャーで働きたい」と思って2007年にウエディング事業を展開するテイクアンドギヴ・ニーズに転職しました。これらのキャリアを通じてB to Cのお客様とリアルに接触するマーケティングの経験は積んだわけですが、B to Bやデジタルに関わるマーケティングの経験はありませんでした。そこで、新たな経験を積むことに加え、小さな会社に入り直し、自分の力で一からビジネスを作り上げたいという思いでラクスルに入社しました。

ラクスル株式会社
取締役CMO/広告事業本部長 田部 正樹氏

小関:お2人とも、ユニークな前歴を経て現在に至られたわけですね。では、いよいよ本題に入りますが、それぞれの会社におけるCMOの仕事の中身について教えてください。

川西:会社から「CMOをやってくれ」と言われたとき、最初は「何をすればいいのだろう?」と正直戸惑いました。もちろん、会社全体のマーケティング活動を統括する重要な職務であることは分かっていましたが、「どのような使命のもとに、その役割を果たすべきか?」という点に迷いがあったのです。

結局、私なりの答えとして導き出したのは、「創業者の思いを世の中にどう届けるか?」ということです。特に当社の代表取締役は、freeeのサービスのあり方や提供する価値に対するこだわりが強いので、その思いを現場としっかり共有し、お客様に発信していくことがCMOである自分に課せられた重要な使命であると考えました。

PLとBSの責任を負い、「4P」のすべてを駆使して目標を達成する

田部:CMOの役割は「プロモーション」(販売促進)をすること、と定義している会社が多いのではないかと思いますが、それだけでは不十分です。マーケティングの4要素である、プロダクト(製品)、プライス(価格)、プロモーション(販売促進)、プレイス(流通)、いわゆる「4P」のすべてにコミットすることが求められているのです。

ラクスルでは、CMOもCEO(最高経営責任者)と同じようにPL(損益)やBS(バランスシート)に関する責任を負っています。健全なBSの実現によって中期的な事業価値を保つ一方で、短期的なPLもしっかり達成していかなければなりません。それを実現するためには、プロモーションという一つの技術だけでなく、4Pのすべてを駆使したアプローチが不可欠なのです。

仮に1億円の予算が割り振られた場合でも、4Pを駆使すれば、コマーシャルを打つだけでなく、新しい製品を作る、製品の価格を下げるといった、さまざまな使い道が考えられます。あらゆる選択肢の中から最善のアプローチを導き出し、PLやBSの目標を達成することがCMOの本当の役割だと思います。

川西:freeeにおいても、CMOがPLの責任を負うという点は同じです。先ほども述べたように、お客様の事業規模別に営業部門を設けています。CMOの仕事は、各営業部門の責任者とともに四半期ごとや期ごとの目標を立て、達成していくことなのです。

CMOがプロモーションだけに専念するというのは、現在のようにテクノロジーの進歩が速すぎる時代では不可能ですね。どんなに画期的な施策を打っても、たちまち効果がなくなってしまうのですから。進化をキャッチアップしながらプロモーションを成功させ続けるためには組織的な取り組みが必要で、CMO一人の才覚ではどうにもならないと思います。

小関:お2人の話をうかがっていると、CMOとCEOの役割には、ほとんど垣根がないように思えますね。

田部:「どこまでをマーケティングととらえるか?」によって、CMOの役割は会社ごとに変わってくるのではないでしょうか。例えば当社では、人材の採用もマーケティング活動の一つととらえています。応募学生を増やすことは「集客」、内定者の歩留まりを上げることは「コンバージョン」と同じですからね。その意味では、経営のすべてにかかわる可能性を持った役割だと言えるでしょう。

川西:freeeでは、期ごとのPLについてはCEO、CFO(最高財務責任者)と同等以上に責任を負い、次世代のプロダクト開発といった中長期的な取り組みについてはCEOが責任を負うという役割分担が形成されています。

PLを任された立場として心掛けているのは、各営業部門に予算を明確に割り振り、能動的に目標を達成してもらうことです。私は、「明確な予算とターゲットさえ与えれば、現場はそれを達成するために勝手に成長してくれる」という信条を持っています。どうすれば目標を達成できるかということを自発的に考え、4Pを駆使しながら達成しようとする仕組みが勝手に出来上がると確信しているのです。

お2人の話からは、一般的に想像されているCMOの役割と、「リアルなCMO」の役割にはかなりの違いがあることがよく分かりました。まだ、日本にはCMOという役職すら設けていない企業も多いですが、今日うかがったお話は、今後CMOを配置するうえでの参考になるのではないでしょうか。